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3月26日のスペシャルイベントで華々しく発表された、ニュースと雑誌読み放題の定額制サービスApple News+。300以上の雑誌や新聞の購読を獲得できたものの、米大手新聞The New York Times(NYT)やWashington Post(WaPo)は参加を見送っています。
大衆文化や時事問題を扱う雑誌の米Vanity Fairは、2つの主要新聞との交渉に当たったアップルのエディー・キュー上級副社長がどのようにして失敗したか、その過程について詳しく報じています。
同誌のレポートによると、キュー氏が両誌にアプローチを始めたのは、アップルが2018年春にニュース版NetflixといわれたTexture(Apple News+の原型)を買収した直後のこと。事情に詳しい人物の話では、アップルはどちらか1社だけに限ることは望まず、両誌に「熱烈な求愛」を開始。キュー氏は両社のオフィスに出入りして彼らを悩ませようとしていた、と言われるほどの攻勢をかけたと伝えられています。
キュー氏はNYTとWaPoとの交渉の場で「御誌を世界で最も読まれる新聞にするでしょう」と述べたとのこと。要は世界中に数億台が普及しているアップル機器のユーザーという、潜在的な読者人口の大きさを口説き文句にしたわけです。
しかし、アップルは新聞社が一部コンテンツではなく、全ての記事を提供する条件については譲歩しなかったとのこと。この点について、NYTとWaPoはともに契約する意義を見いだせなかったようです。
同誌の取材に対して、NYTのCOO(最高執行責任者)であるMerideth Kopit Levien氏は、同誌の目標は読者との関係を育むことだと回答。「私たちは熟慮した上で、ジャーナリズムを経験できる最良の場所はニュース提供者と読者との関係があってこそ、との見解を表明します。これはユーザーと直接に向き合うことを意味しています」と述べ、アップルが運営する読み放題プラットフォームを通じての間接的なつながりを否定したかたちです。
またWaPoの広報担当者Kris Coratti氏は「もっかの関心は私たち自身の購読者層の拡大にあり、Apple News+に参加することは現時点では意味を認めません。アップルは非常に優れたパートナーであり、現在進行中の他のプロジェクトでも共同作業を行っており、今後も様々なことを予定しています」との声明を発表。読み放題サービスへの参加は見送るが、アップルとの関係は良好であると強調しています。
興味深いのは、なぜ同じく大手新聞であるWall Street Journal(WSJ)がApple News+に参加したかを説明するくだりです。1つには、記事提供の出し方。Apple News+アプリ上では編集者によってキュレーションされた記事のみが紹介され、残りのコンテンツも閲覧できるものの、検索しなければ見つからないとのこと。そして記事アーカイブは3日しか遡れないという仕様とされています。
もう1つは、デジタル版WSJの顧客はほとんどがビジネスおよび金融に関するニュースを読むための法人および比較的裕福な個人ユーザーばかり。つまり、安さを売りとした読み放題サービスに奪われるようなユーザーが元々いないというわけです。
NYTはデジタル購読者数や売上げを順調に伸ばしており、提示された「アップルが定期購読料の半分を取り、残り半分をユーザーの購読時間に応じてメディア各社が配分する」という条件が割に合わない事情もあったとされています。もし将来的に日本でもApple News+が提供されるとしても、メディアごとの財政事情が参加するか、見送るかといった判断を大きく左右しそうです。
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(2019年4月2日 Engadget日本版「アップル、大手新聞にApple News+に参加するよう熱烈に求愛?『メリットがない』として振られたとのうわさ」より転載)