あなたの組織に、変化を受け入れる風土はあるか?~エンプロイージャーニーマップが求められる理由~

ご機嫌な社員がご機嫌な顧客体験を作る。
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従業員の体験を可視化する「エンプロイージャーニーマップ」

「エンプロイージャーニーマップ」をご存じだろうか。カスタマージャーニーマップという言葉なら、知っている方は多いだろう。商品やサービスなどの購入やリピートに至るまでの顧客の体験(行動や感情)を可視化したもので、マーケティングの世界では当たり前に使われている。しかし、対象が顧客ではなく従業員となると、その知名度は一気に落ちてしまう。

エンプロイージャーニーマップは、企業が従業員に何かしらのコミュニケーションを行ったり、行動変容を求める際に、そこに至るまでの社員の感情や起こりうるイベント、組織感情を踏まえた道のりを描いたものである。情報接点やそこにおける行動・感情を書き出し、行動変容を起こすために必要な施策の検討に用いる。

2017年度のIABC世界大会でも、エンプロイージャーニーマップ(Employee Journey Map)が登場したようだ。実は当社では2011年ごろから、お客様に対してインターナルブランディングに関わるサービスを提供する際には、必ずと言ってよいほど、エンプロイージャーニーマップを用意している。

「私たちは時代を先取りしていた!」と勝手に思っているのだが、なぜ今になってエンプロイージャーニーマップが注目され始めているのだろうか。

ご機嫌な社員がご機嫌な顧客体験を作る

会社は、顧客に対して、自らがどんなバリューを提供するのかを明らかにしている。会社として、ブランドとして、お客様に対するお約束をビジョンやバリュー、プロミスという形で明示している。組織が小さく、想定外の対応がない場合は、そうしたバリューをいつどのように顧客に提供するのか、一人のブランドマネジャーが全てを掌握することができるだろう。しかし実際は、広告宣伝をする部門、実際に最前線で顧客と接する部門、アフターサービスを担当する部門と、部門ごとにバラバラのタッチポイントを持っていることが多い。それらのタッチポイントで一貫しない対応を受ければ、顧客は違和感を抱くことになる。

これを読んでいる方も、経験したことがあるのではないだろうか? 商品やサービスを購入し、問い合わせのために電話をかけたら、「ここではない。こちらに」と別の番号を案内され、何度も同じ説明をさせられる。「社内のデータベースでつながっているんじゃないの?」と疑問を持ちつつ、何度も話した末に解決しない。

もしその会社が「顧客第一」というスローガンを掲げていたとしても、そんな体験をした顧客は、もうその会社のことを信頼できなくなるのではないだろうか。モノが溢れ、より快適な、より便利な、より心地の良い商品・サービスが、当たり前になっている今、会社が発信する約束と実態との差はいとも簡単に社会に拡散されてしまう。

こうした事象を引き起こす要因として、その会社で働く社員のマインドや就労環境が考えられる。先ほどの例を考えると、対応した社員の側からすればルールに従っただけ、指示された通りに対応しているだけだ。中には、部門間連携ができてきないことで顧客に迷惑をかけていることを認識している社員もいるかもしれない。何度も上に掛け合っているのだが、大人の事情で解決しない......そんな背景が潜んでいることも多い。

今年のIABC世界大会において行われた"The role of technology in the employee experience"(チャック・ゴーセ氏)の講演の中では、EX(employee experience)というキーワードが発せられている。

  • 従業員のエクスペリエンスを向上することが、顧客エクスペリエンスの向上につながる
  • あるホテルチェーンでは、従業員エクスペリエンスを取り入れ、戦略的にインターナルコミュニケーションを設計したことで、顧客エクスペリエンスが7倍向上した

といった発表もされている。

以前にもコラムに書いたことだが、従業員がご機嫌に働いていれば、顧客に対する対応はよくなる。そのために、社員の「働く」体験をより良いものに変えていくのがエンプロイーエクスペリエンスの考え方であり、それを設計するためのツールとして、エンプロイージャーニーマップが存在するのだ。

「会社にNOと言えない」社員の事情

ところが、日本企業の場合には、終身雇用を前提とする中で、俗に言う滅私奉公という考え方が根強くあった。そうした企業では社員=会社の一部と捉えられ、会社が決めたことは絶対で、異論があっても表立って声を出してはならぬという雰囲気が蔓延し、失敗のリスクを恐れて忖度しあう組織風土を形作っていることが多い。

例えば、経営方針には「チャレンジ」「挑戦」という文字が並び、現場の若手社員が「よし! 新しいことに取り組もう」と意を決してチャレンジしようとする。しかし、目の前の上司に「前例がないから」と却下される。運よく上司を通過しても、上申が進んでいく過程で、「これはやりすぎじゃないか」「うちの社風に合わない」「他社はどうなっているんだ」と角が落とされ丸められ、最終的には差しさわりのないアイデアに変貌する。そこまで上申が進んでしまうと、発案者であったとしても、その状況に異を唱えることはできず、指をくわえて見ていることしかできない。そして、最終的には、トップから『イノベーティブではない』という烙印を押されて却下されてしまう。

もし、そんなことが起きていたら、意志ある社員は、もう二度とアイデアを形にしようとしないだろう。場合によっては、自分の居場所を求めて飛び立ってしまうだろう。「チャレンジ」「挑戦」といった経営方針を掲げたトップの意思とは正反対のことが、組織の中で起きてしまっているのだ。

組織を良くしていくために、担当者は何をするべきか?

なぜそのようなことが起こるのだろうか。要因の一つは、掲げた方針と組織の実態に齟齬があることだ。現在の状態で本当にその方針・戦略を実現・実行できるのか? 方針と組織の仕組みとの間に齟齬が生じた場合、それをどう見つけ、どう対応するか? 掲げた経営方針・戦略の背景や狙い、社員に求める取り組みや行動様式など、伝えたいことを相手がきちんと理解できるようにコミュニケーションが設計されているか、考えてみたことはあるだろうか。こうした細かなところにまで目を配らない限り、従業員のエクスペリエンスは向上しない。

新しいチャレンジをしようとして芽を摘み取られてしまった社員は、会社に対するエンゲージメントが高まるどころか、失望し、社外の取引先やお客様に対して愚痴をこぼしてしまうかもしれない。場合によっては、そのことを匿名アカウントでSNSに書き込んでしまうかもしれない。

理念が浸透しない、方針が伝わらない、現場の行動が変わらないと嘆いている方々は、もう一度足元から見直してほしい。組織改革や風土改革をデザインし、推進する立場の担当者さえも、言いたいことを言えない組織に諦めを感じていないだろうか? もしそうであれば、第三者の口を借りてでも、組織の実態を経営に伝えてほしい。

それができれば、経営と担当者との間で組織の実態についての共通認識とを持った上で、あらためて上滑りしないシナリオを描くことができる。エンプロイージャーニーマップは、そうした場面で確実に役立ってくれる。一人の視点だけでなく、さまざまな視点を組み合わせてエンプロイージャーニーマップをつくり、実行に移すことができれば、組織に所属する社員の幸せに寄与できると同時に、自分自身の居場所をより良くすることにもつながっていくはずだ。 (Shizuka Moriguchi)

2017年11月29日「
」より転載