マクロン次期大統領を脅かすルペン氏の影 「脱悪魔化」には失敗したが...

マクロン氏が大勝しても、ルペン氏や国民戦線はこれで終わらない。
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President-elect Emmanuel Macron (L) closes his eyes during a ceremony marking the 72nd anniversary of the victory over Nazi Germany during World War II on May 8, 2017 in Paris. / AFP PHOTO / POOL / Francois Mori (Photo credit should read FRANCOIS MORI/AFP/Getty Images)
FRANCOIS MORI via Getty Images

無所属のエマニュエル・マクロン氏は5月7日、大統領選の決選投票で極右のポピュリスト政党「国民戦線」のリーダー、マリーヌ・ルペン氏を破り、フランスの次期大統領になる

マクロン氏の得票率は66.06%、自らをフランス国民の代弁者だと主張するルペン氏に圧勝し、ルペン氏が得票率を伸ばして決定的な影響力を与えるのではないかという予想を覆した。

選挙前の数週間に実施された複数の世論調査では、マクロン氏が常にルペン氏を20ポイントほどリードしていた。ルペン氏が大統領に選ばれると金融市場が下落すると懸念されたため、ルペン氏は自身の極端な政策に反対する声を抑えるのに苦戦した。

マクロン氏の圧勝により、ルペン氏が「悪魔」のように言われてきた国民戦線をソフト路線で「脱悪魔化」しようとしたものの、ポピュリスト的な主張に限界があることが露呈し、対立を煽りためにルペン氏は政権を握ることができないと証明された。選挙の結果は、EUにかかる重圧を軽くした。もしルペン氏が選ばれていたら、EU貿易圏からの離脱に向けた国民投票がフランスで実施されることになったからだ。

しかしマクロン氏が大勝しても、ルペン氏や国民戦線はこれで終わらない。ルペン氏は約35%の票を得ており、フランスの極右政党としては最多の得票率となった。これはつい最近まで考えられないことだった。もしマクロン氏が改革の公約を果たせず経済的な繁栄をもたらすことができなければ、ルペン氏がさらに有力な候補として次の大統領選に出馬することは十分あり得る。

選挙後、ルペン氏は、さらに支持を伸ばすために国民戦線に対する認識を変えていかなければならないと気づいたようだ。ルペン氏は敗北宣言の中で、政党を前進させるために「大々的な変革」を始める時が来たと述べた。

「国民戦線は、この歴史的な好機を生かし、フランス国民の期待に応えるために大々的に変革しなければなりません」とルペン氏は支持者らに語った。

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シャンゼリゼ通りの凱旋門付近でフランス国旗を振りながら叫ぶ男性(5月7日撮影)。GEOFFROY VAN DER HASSELT VIA GETTY IMAGES

選挙は予想に反してマクロン氏への投票が急速に伸び、すぐに軍配が上がった。元銀行員のマクロン氏は昨年経済相を辞任し、政治運動「アン・マルシュ!」を立ち上げ、11人の候補者の中から既成政党以外の出身で初となるフランスの大統領になった。39歳のマクロン氏はフランス最年少の国家元首となる。

マクロン氏は選挙経験がなく、現在低迷するフランス経済の立て直しや安全面の対策、政治的に分断された国の修復など非常に大きな課題に直面している。しかしマクロン氏にとって最も差し迫っている難題は、あと6月に実施される国民議会(下院)選の準備だ。

「アン・マルシュ!」が多数派となるには、6月の選挙で577議席中289議席以上を獲得しなければならない。国民議会選で過半数を取れなければ大統領としての立場は弱くなり、政権は行き詰まる。また「コアビタシオン(与野党連立)」に追い込まれる可能性がある。この場合、マクロン氏の改革を妨害する力を持つ野党から首相を任命しなければならない。

マクロン氏は国民議会選挙で過半数を獲得することを誓い、「アン・マルシュ!」支持者1万4000人から候補者を募集している。また「アン・マルシュ!」が政策を実現するために必要な議席数を得るため、他の政党と連立する可能性がある。

マクロン氏の改革案には、政府の官僚制度改革、EUに共同の財務相を置くこと、ドイツと共にEUでさらに強いリーダーシップを発揮することなどが含まれる。親EU派の当局者らは、マクロン氏が選ばれたことで、難民危機や「ブレグジット(イギリスのEU離脱)」の余波で揺れるEUの再生を願っている。

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支持者らはマクロン氏が経済を再生し、EUを改革できると期待している。BENOIT TESSIER / REUTERS

フランス国内では、フランスの既成政党が崩壊し、有権者の間で幅広いイデオロギーの分断が露呈した選挙後の事態収拾がマクロン氏の手に委ねられる。フランスは近年、景気低迷、政治的スキャンダル、大規模なテロ攻撃に悩まされ、こうした問題が政府への不信感に繋がっている。

棄権や無効票が史上最多だった今回の選挙は、ルペン氏が勝つ確率を上げることになったとしても、多くの人がマクロン氏に票を入れなかったことを示している。投票率も前回の選挙より低かった。

今回の大統領選では、与党の社会党が屈辱的な敗北を喫した。一方オランダ、イタリア、イギリスなどヨーロッパの諸国では伝統的な左派の崩壊が見られた。マクロン氏は社会党など既成政党の政治家らが残した溝を埋めるため、極右・極左からの挑戦をうまくかわすことには成功した。しかし、今後はフランスの政策を徹底して見直すという公約を果たさなければならない。

一方、ルペン氏は野党の一部として手慣れた役割を担う。ルペン氏は、自身の政党だけが病んだフランス政治に代わるものだと証明するため、マクロン氏の失敗を攻撃する機会をうかがうだろう。国民戦線のような極右のポピュリスト政党は、権力の外にいることで人気を得ており、実際に政権を握らずに政治情勢を右寄りへシフトすることができる。

国民戦線は何十年もナショナリズム、EU、移民など政治的な問題について極右的な考え方を広めてきた。フランスの選挙では、有権者の大半はまだこうした問題に対する国民戦線の考え方に否定的だということを示している。しかし、この問題に関する論争が消えたというわけではない。この数十年ヨーロッパが直面している社会的、経済的な課題に適切に対処できなければ、ルペン氏のような人が展開するポピュリスト的な主張が支持され続けるだろう。

ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。

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