フランス大統領選の決選投票で、中道・独立系のエマニュエル・マクロン氏が極右・国民戦線のマリーヌ・ルペン候補を破って勝利した。出口調査の結果では、マクロン氏が65.1%の票を獲得すると予想されており、最初の投票結果が発表されて間もなく、ルペン氏は敗北を認めた。
出口調査の結果は、国中にある投票所で集計された票の見本を基に、その数字を使って国全体だとどのような投票結果になるかを予測するものだ。4月23日の第1回投票では、最初に予測された数字が、最終的な数字と極めて近いものだった。
フランス当局は、現地時間の午後8時に投票所が閉まってから選挙結果の調査過程を開始した。数百万の人がフランス中の町や都市で票を投じた。約4700万の有効票のうち、4400万まで集計した結果、マクロン氏は得票率65.31%を獲得したと、フランス内務省は7日夜発表した。白票や無効票は12.5%となり、25%近くが棄権した。
投票率は、7日午後5時現在、65.3%で前回の選挙を下回っている。
マクロン氏はパリのルーブル美術館前で勝利集会を開き、EUの旗とフランス国旗の両方を振って歓喜するマクロン氏支持者を前で演説した。
「私たちの長い歴史の新たなページがめくられた。希望と信頼を取り戻す」と、マクロン氏は語った。
ルペン氏は敗北演説の中で、「フランス人は変化よりも継続のために投票した」と述べ、将来に備え、国民戦線を再編させると誓った。
「国民戦線は、歴史的な好機をつかむため、そしてフランス国民の期待に応えるため、根本的に生まれ変わらないといけない」と、ルペン氏は支持者に語った。
国民戦線のフロリアン・フィリポット副党首は、党名を変更すると述べた。
欧州理事会のドナルド・トゥスク議長は、マクロン氏の勝利に即座に反応して祝辞を送った。
マクロン氏おめでとう。フェイクニュースの独裁よりも自由、平等、友愛を選んだフランス国民、おめでとう。
ロンドンのサディク・カーン市長は「フランス国民は不安を乗り越え希望を選び、分断を越えて団結を選んだ」とコメントした。
選挙前の予測では、マクロン氏が約20ポイントリードしていた。マクロン氏は第1回投票の勝利を足掛かりにして、幅広いフランスの有権者層にルペン氏に反対するよう訴えた。
フランス大統領選は、フランスにとってもEUにとっても極めて重要な正念場だ。ルペン氏はフランスのEU離脱推進を公約に掲げていた。フランスが離脱すれば、EUは崩壊に向かっただろう。マクロン氏はEU賛成派で、EUの再建とフランスが経済的繁栄を取り戻すことを公約していた。
今回の選挙は、フランスで極右を支持する人がどれだけいるのかという指標となった。ヨーロッパでは、ルペン氏と同じような保守派のポピュリストが台頭している。彼らは腐敗したエリートから権力を奪い、その権力を、彼らが定義を狭めた「市民」に返すと確約している。 彼らの多くは、移民やイスラム教徒を標的にした法律をつくると公約し、民族主義、国家主義の感情を刺激してきた。
また今回の選挙では、フランスの伝統的な政党制も崩壊した。決選投票は共和党、社会党という既成政党以外の候補者で争われた。フランスは長期に及ぶ経済の低迷、大規模テロ、国民性への疑問といった問題に直面している。これらすべてが、政治の既得権益層に対する反感につながった。
2017年5月5日、フランス大統領選の決選投票の結果が判明し、ルーブル美術館前の広場で歓喜するマクロン支持者。BENOIT TESSIER / REUTERS
5月7日の決選投票までの道のりは、現代フランス政治史でもっとも型破りなものだった。与党社会党は、フランソワ・オランド大統領への支持率が極端に落ち込み、党内は混乱を極めた。保守中道の共和党候補フランソワ・フィヨンはスキャンダルと汚職疑惑で脱落した。フィヨン氏の脱落で票田が拡大し、元銀行員で2016年、政治運動「アン・マルシュ!」を立ち上げたマクロン氏が最有力候補となった。
マクロン氏は、4月23日の第1回投票で24 %の票を獲得し、21.3%のルペンに勝利した。11人の候補者のうち、僅差でフィヨン氏が20%、急進左派のジャン-リュック・メランション氏が19.6%で続いた。
選挙戦最後の数週間は、ルペン氏が公約の一部を修正し、より幅広い有権者に支持を訴え、当選したら金融市場が大混乱するという懸念を払拭しようとした。ルペン氏は、第1回投票後、国民戦線の党首を辞任すると発表し、フランス人の多くが、ルペン氏の父で、国民戦線創設者のジャンマリ氏が反ユダヤ主義と人種差別を主張していた政党イメージと距離を置こうとした。
当選した6カ月後に、EU離脱の是非を問う国民投票を行うという氏最大の公約についても、ルペン氏は主張を修正し、「ユーロから離脱して単独通貨フランへに戻すためには、必要であれば時間をかける」と発言した。並行して日常の売買にはフランを用い、企業の大きな取引ではユーロを維持するという考えを提案したが、その仕組みがどのようなものになるのか詳細は示さなかった。
また、ルペン氏は決選投票までの期間は攻勢に転じ、マクロン氏がオランド大統領と全く変わるところがなく、イスラム原理主義に対して「無頓着な」候補者だと攻撃した。
「彼の政策は極めて曖昧だ。単にフランソワ・オランド政権の延長線でしかない」と、ルペン氏はマクロン氏を批判していた。
マクロン氏が投票する。後方にはブリジット夫人。PHILIPPE WOJAZER / REUTERS
一方のマクロン氏は、有権者にルペン氏と国民戦線の過激な思想や政策をアピールした。マクロン氏は1日、パリでの演説でルペン氏を「ヘイトの候補者」と表現し、一緒にルペン氏に反対する票を投じようと有権者に呼びかけた。また、マクロン氏は1995年のデモでスキンヘッドの集団に殺害された男性の記念碑に献花を行い、極右思想に伴う暴力の歴史を浮き彫りにした。
3日のテレビ討論会では両候補は激しく応酬しあい、互いの政策を非難した。ルペン氏は、マクロン氏が「私的な利権をむさぼる銀行の太鼓持ちだ」と批判し、マクロン氏は「ルペン氏が恐怖をかきたて、政治的な利権のために嘘を捻り出している」と主張した。
また今回は、アメリカ大統領選と同様に国外からの干渉が懸念され、フランス大統領選に暗い影を落とした。マクロン陣営は選挙活動中ずっとハッキングされてきたと主張している。5日、選挙戦に意外な展開が起きた。ハッキングされたマクロン陣営のメールがオンラインに大量にリークされた。マクロン陣営は、リークされた文書には「不信感植え付け、偽情報を広める」ために、偽文書が混在していると述べた。
フランスのメディアはリークされたメールについての報道はおおむね控えた。フランスの主要紙ル・モンドは「ハッキングは、投票の正当性に影響を与えようとする行為なのは明らかだ」と声明を出した。フランスの法律では、選挙前の44時間の間、報道管制が敷かれ、選挙活動が禁止される。
投票を終え、投票ブースを後にするルペン氏。PASCAL ROSSIGNOL / REUTERS
第1回投票で、マクロン氏は大都市や、高水準の教育を受けた住民の多い地域から支持を得た。しかし決選投票では、より幅広い社会背景を持つ有権者から支持され、急進的なルペン氏の当選を阻止したいと望む有権者からも票が集まっているとみられる。大統領選の有力候補とされていたほぼ全員が、自らの支持者に対しマクロン氏を支持するよう呼びかけたが、メランション氏だけはこの動きに対し明確に抵抗した。
メランション陣営は2日、同氏を支持する有権者のうち3分の2が、マクロン氏に票を投じるくらいならば投票を棄権するつもりだと主張した。メランション氏支持者の大多数が棄権すれば、ルペン氏の得票率を押し上げる可能性があった。政治への無力感やフランス左派の投票率低下は、ルペン氏に有利に働いた。
移民とイスラム教はフランスのアイデンティティの危機と見なす有権者、そしてEUのもたらす経済的な恩恵を得られないという疎外感を感じている一部の労働階級にとって、ルペン氏の主張は魅力的だった。第1回投票でルペン氏に投票した有権者は、若者の割合が高かった。フランスの若年層世代は、およそ25%もの失業率に直面している。ルペン氏の支持基盤は、農村や重工業地帯のあるフランス南東部と北部が中心だ。
マクロン氏は今後、低迷する経済の立て直しと、 数年にわたって続発しているテロ事件からくる治安面への不安解消に取り組むことになる。
最も差し迫った課題は、6月に迫った国民議会(下院)選挙でマクロン支持派が過半数の議席を獲得することだ。 マクロン氏は、左派の社会党、右派の共和党という既成政党を相手に何百もの議席を獲得しなければならない。議席の獲得に失敗すれば、フランス国民に約束した改革の実現は、極めて困難となる。
ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。
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