アマゾン川には電気ウナギと呼ばれる、電気を発する魚が住んでいます。その体から発せられる電気は600 V(アルカリ乾電池400個分)にも達し、噛み付いてきたワニを感電死させてしまうほどの威力があります。それほど強力な電気を発する電気ウナギの仕組みを真似れば、柔軟で生体親和性のある電池をつくることができるかもしれません。今回は、最近Natureに発表された、電気ウナギを模倣したハイドロゲル電池について紹介します。
"An electric-eel-inspired soft power source from stacked hydrogels"
Schroeder, T. B. H.; Guha, A.; Lamoureux, A.; VanRenterghem, G.; Sept, D.; Shtein, M.; Yang, J.; Mayer, M. Nature 2017, 552, 214. DOI: 10.1038/nature24670
1. 電気ウナギの発電の仕組み
電気ウナギは、筋肉が変化してできた発電器官と呼ばれる部分で電気を発生させています。発電器官は、図1a左のように発電細胞の層と絶縁性細胞の層が何重にも重なった構造をしています。発電細胞の層には、前後非対称の細胞膜を持つ発電細胞が同じ向きに直列につながっており、イオン勾配を利用して電気を発生させます。
神経刺激がない場合、前方・後方いずれの細胞膜においても、カリウムポンプがK+を細胞外へと排出します(図1b左)。このとき、前後の膜での膜電位が相殺するため、細胞前後での電位差はありません。この細胞に神経刺激を与えると、神経とつながった後方の細胞膜でナトリウムポンプが作動し、細胞内にNa+を送り込むようになります(図1b右)。すると、後方の細胞膜の電位の向きが反転し、細胞全体で約150 mVの電位を生み出せるようになります。発電細胞は直列につながっているため、各細胞で生じる電位が足し合わさって、数百ボルトもの大きな電位になります。
図1. 電気ウナギの体の構造と電気発生の仕組み。
2. ハイドロゲルでつくる発電装置
Mayer教授らは、電気ウナギの発電の仕組みを、以下の4種類のポリアクリルアミドゲルを順につなげることで再現しました。
- 高濃度のNaClを含む中性高分子ゲル。
- 負電荷を持つ高分子ゲル。陽イオン(Na+)を選択的に透過する。
- 低濃度のNaClを含む中性高分子ゲル。
- 正電荷を持つ高分子ゲル。陰イオン(Cl–)を選択的に透過する。
図2. ハイドロゲル発電装置の仕組み。
これらの4種類の高分子ゲルを接続すると、ゲル中に含まれるイオンは濃度が高い方から低い方へと移動します。その際に、負に帯電した高分子ゲルにおいてはNa+、正に帯電した高分子ゲルにおいてはCl–が選択的に透過するため、これらのゲルにおいて図2右のように電位差が生まれます。
Mayer教授らは、流体システムを用いた方法や表面プリンティングを用いた方法によってゲルを配列し、発電装置を作りました。表面プリンティングによる方法では、図3のように中性高分子ゲル(高NaCl濃度・低NaCl濃度)と、正・負電荷を持つ高分子ゲルをそれぞれ別のポリエステル支持フィルムに印刷し、それらのフィルム重ね合わせることで4種類のゲルを配列させました。このような構造では、支持フィルム上に並んだゲルの各スポットを同時に接触させることができます。こうして作製された発電装置では、2449個のスポット(612セット)から110 Vの電気が発生させられることが確認されました。
また、この発電装置では、ゲル同士が接触したときにのみ電気が発生するようになっているため、電気を無駄に消費する心配はありません。充電することも可能で、10回の充放電後にも90%以上の電気容量が再生されることが確認されました。
図3. 表面プリンティングにより作製した発電装置。スケールバー:1 cm(論文より)
3. ミウラ折りで性能アップ!
電気ウナギの発電器官では、発電細胞同士がhead-to-tailで連なっています。そのため、電流が流れる面が大きく距離が小さくなっており、低い抵抗値(発電細胞一層あたり0.1Ω)が実現されています(図4a)。一方で、Mayer教授らが作製した発電装置では、各ゲルが側方に並んでいます(図4b)。このような配列では、ゲル同士の接触面が小さく、電流が通過するゲルの厚みが大きいため、抵抗値が大きくなってしまいます(1セットあたり115 kΩ)。
そこで、彼らが着目したのは、人工衛星パネルの展開法などに用いられているミウラ折りです。ミウラ折りの展開図にゲルをうまく配置すれば、折りたたんだ際にそれらを同時に接触させることができ、かつゲル同士の接触面を大きく、厚みを小さくすることができます(図4c)。彼らは、ミウラ折りを展開したポリエステルの支持フィルムに穴を開け、折りたたんだ際に各ゲルが接触するように4種のゲルを配置しました(図4d)。この方法によって、側方伝導型よりも40倍抵抗値の小さい発電装置を作ることに成功しました。
図4. (a-c) 電気ウナギ・ハイドロゲル発電装置の構造。(d) ミウラ折り型発電装置(論文より)
4. おわりに
この発電装置の性能は、現状では開路電圧100 V程度、電力が27 mW/m2(1セットあたり)で、医用デバイスなどへの応用にはまだまだ改善が必要そうです。それでも、ゲルの厚みやイオン選択性など、改善できる部分は大いあるので、今後性能が向上し、体内埋め込み型デバイスなどへ応用されることが期待されます。
参考文献
- Xu, J.; Lavan, D. A. Nat. Nanotechnol. 2008, 3, 666. DOI: 10.1038/nnano.2008.274
- Sun, H.; Fu, X.; Xie, S.; Jiang, Y.; Peng, H. Adv. Mater. 2016, 28, 2070. DOI: 10.1002/adma.201505742.
関連リンク
- 電気ウナギのしくみ(2018年1月11日Chem-Stationより転載)