人はなぜ「家族」という共同体を求めてしまうのか。写真家・森栄喜さんに聞く

「家族をつくるという可能性のようなものを、もう一度、自分の中で蘇らせた」
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生まれ育った家を出て、つがいとなり、新しい家族をつくる。子をなす。

家族のつくり方は、その選択肢しかないのだろうか? そもそも人はなぜ「家族」という共同体を求めてしまうのだろう?

同性のパートナーとの日常を切り取った写真集『intimacy』で2013年に木村伊兵衛賞を受賞した森栄喜さん。新作『Family Regained』は、40組のさまざまな家族の姿を記録した写真集だ。

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Eiki Mori

(c)Eiki Mori "Family Regained" 2017 Courtesy KEN NAKAHASHI

「以前は、結婚も子育ても、身近なこととして考えたことがなかったんです」と思っていた森さんは、なぜ家族をテーマに選んだのか。前編に続いて森さんに話を聞いた。

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写真家の森栄喜さん
Kaori Sasagawa

30代までは家族について考えることを怠けてきた

――多くの人が大人になると、自分の手で新しい家族を作ろうとします。人はなぜ"家族"を求めてしまうのだと森さんは思いますか。

与えたいからじゃないですかね。きっと。なにか伝えていきたいんじゃないかな。

でも僕は20、30代と、自分がつくる家族について、あまり考えることはなかったんです。「もしかしたら結婚できるかもしれない」「子育てができるかもしれない」ってもし普通に発想できてたら違ったのかもしれませんが。

――ゲイの人生の選択肢には「結婚」や「子育て」は、あり得ないものだった?

そうですね。想像することすらなくずっと過ごしてきて。

でも海外の同性婚のニュース、特に2015年のアメリカの全州で同性婚が法的に認める判決が出たときや、台湾が同性婚実現へ向けて急展開しているのをニュースで知ったり、あとは実際の結婚式や子育ての様子をInstagramなどで見たりする機会が多くなって、ここ3〜4年の間に、僕の中の意識も大きく変わりました。

『Family Regained』は、自ら消し去ってしまっていた家族をつくるという可能性のようなものを、もう一度、自分の中で蘇らせた、その記録集ともいえるかもしれません。

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Kaori Sasagawa

――回復された家族、『Family Regained』に込められた意図は?

僕、実は血縁の絆とかすごく信じてたタイプなんだって、撮影していく中で気づいたんです。血が繋がった親子って、身体的な類似性すらも面影の塊になる。そこから得る愛着や親密性って代えがたいものなんだろう、と。

にも関わらず、家族は簡単に失われることもある。家庭内暴力や虐待で家族が壊れちゃったり、離婚したら父親が子どもの養育費を払わなくなったりもする。

僕からすると絶対に手に入れられないような絆なのに、壊れるし、失われますよね。

一方で、海外では人種を超えて引き取った養子と家族になることだって珍しくない。

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Kaori Sasagawa

繋がりから得られるあたたかさを享受できれば

――血が繋がってさえいれば、関係性として盤石というわけではない。それはもうみんなわかっている気がします。

そうですね、"普通の家族"の枠組みとか、血縁や民族の絆とか、そういうものにとらわれちゃうと、なんかすごく窮屈になってしまいますよね。

夫婦と子どもという共同体の在り方って、国家が管理・支配しやすいという面もすごくあると思うから。そういうフォーマットから抜け出て、各々が居場所を作っていくための意識を持っていけたらいい。

そうしたら、国とか法律とか時代とか関係なく、人と人との繋がりから得るあたたかさ、豊かさみたいなものを最大限に享受できるんじゃないかなと。

写真集の巻末に笠原美智子さん(東京都写真美術館 事業企画課長)が寄せてくれた文章が載ってるんですけど、「血縁だけがもはや家族の形ではなく、ひとりであることも含めて」多様化する現代の家族の形だ、と書かれていて。

「ひとりでも家族になりうる」という発想もすごく素敵だな、と思えましたね。

共同体がもたらしてくれる安心感

――2017年秋に東京で開催された国際演劇祭F/T(フェスティバル・トーキョー)では、『Family Regained: The Picnic』というパフォーマンスをされていました。森さんと、もう一人の男性、そして8歳の少年。3人が街をお揃いの衣装で街を歩く。ゲイのカップルとその子どもから成る家族の姿にも見えました。

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Photo by Tatsuya Yamaguchi

あのときは「もしかしたら嫌な思いをしたり、させてしまうかも」と少し不安に思ってたんですよ。でも3人で街を歩いてみたら、全然そういう感覚はなかった。

ひとりじゃないこと、3人という共同体の強さがもたらしてくれる安心感たるやすごくて。それはひとりじゃ得られないものなんだな、と実感しました。

準備期間が1年ぐらいあったんですけど、その間一緒に作業してくれたスタッフも見守ってくれている、というのも心強かったですね。

動機をひも解くと、「なんかすごくポリティカル」に

――写真集の作品は、「家族とは」という思考を表現しようしたのでしょうか。

創作の時点では、なるべく思想とか思考は深めないで、「撮りたいと感じたものを撮る」という気持ちに素直にフォーカスして撮るようにしてます。

その「撮りたい」という気持ちが全てというか、核になり、撮ることの理由になっている。

撮り終わってから、「自分はどうしてこれをこんなに撮りたかったんだろう」っていうのをひも解いていくと......なんかすごくポリティカル、みたいな(笑)。

――後から、ポリティカル(政治的)なテーマが浮かび上がってくる?

そうですね。「新しい家族の形を提唱したい」という意図で撮り始めたり、発表したりしているわけでは全然なくて。撮りたいものを撮った後で、どうまとめて僕の手から離したら、より伝わりやすくなるか......ってことを考えて、作品にしています。

だから別に、(権利を求める)活動の一環として写真を撮っているわけじゃないんです。そう思われがちかもしれないですけど。

でも、誰しも普段から「女性として自分はこう見られているな」とか、「自分はマイノリティとしてこんな風に見られている」とか、生活の中で思うことがあるじゃないですか。

そういう普段、感じている違和感や憤りのようなものと作品を慎重に接続して届けたいと思っています。

些細な属性の違いなんて、どうでもいい世界になれば

――『Family Regained』には40組の家族が登場しますが、撮影を通じて印象に残ったエピソードはありますか。

撮影が終わった後で、「実は在日二世なんです」と告白してくれた家族がいました。深刻な感じで、小声での告白だったんですけど、でも僕、「そうなんですか」としか言えなくて。

というのも、ポジティブに「国籍が違うだけですもんね?」という意識があって、生まれた場所が違うだけだし同じアジア人だし地球人だし。だから、小声で打ち明けられること自体、少し不思議に感じてしまったほどで。

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(c)Eiki Mori "Family Regained" 2017 Courtesy KEN NAKAHASHI

でもそれは、彼らや彼らの親の世代が受けてきただろう偏見や差別についての僕の無知というか、想像力の足りなさからくる発想でもあると思うし。あとは、僕自身もマイノリティに属しているので、自然に告白してくれたのかなとかも思ったり。短いやりとりだったんですが、今でもよく思い返します。

――森さんはこれまでの作品制作でも、海外のクリエイターとお仕事をされていますね。

そうですね。『tokyo boy alone』は台湾の出版社とデザイナーと作ったものだし、『OSSU』というフォトジンは、毎回アジアのデザイナーに頼んで、印刷もその国でやってもらってました。

『Family Regained: The Picnic』で着た服も、「MOTO GUO」というマレーシアのブランドにお願いして作ってもらったものです。モト・ゴーくんとキンダーくんというカップルがやっているブランドです。

彼らは生まれも育ちもマレーシアですが、目に見えての差別とかはないそうなんですね。けど、公で手つないだり、セクシュアリティについて話すのはまだまだタブーらしくて。日本と同じぐらい、もしかしたら日本以上に繊細な問題なのかもしれない。

そういう状況下でも、彼らは彼らなりに戦っている。「戦う」といっても、声高に主張するような感じではなくて、彼ら自身の少年時代の思い出や寓話的なファンタジーの要素とともに、やさしさや愛おしさを作品を通して伝えていくアプローチに、僕はすごく共感したんです。

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Eiki Mori

(c)Eiki Mori "Family Regained" 2017 Courtesy KEN NAKAHASHI

―確かに、森さんのスタンスと共通するものがありますね。ちなみにやりとりは英語ですか?

そう。でもめちゃくちゃ片言の英語で(笑)。制作中はSkypeとFacebookでほぼ毎日やり取りしていました。

僕、すごい願望があるんですよ。アジアが一個の家族みたいになったらいいな、と。「アジア・ユナイテッド」みたいな。それはすごく夢としてあります。

国家間はまだ難しいかもしれないし時間もかかってしまうかもしれないけど、民間ではもうかなり境界がなくなってきてると思うし、僕も創作を通して、その流れをどんどんひろげていけたらいいなって。

(取材・文 阿部花恵  編集・撮影:笹川かおり)

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