気候変動との関連性が指摘される自然災害、頻発する紛争による緊急事態や人道危機は、近年増加し、長期化・深刻化する傾向にある。
それに伴い、自らの家や故郷を追われ長期化する避難生活を余儀なくされる人々の数も増えている。難民や避難民への支援というと、シェルターや水、食料の支援がまず思い浮かぶかもしれない。しかし、同時に忘れてはいけないのが、教育だ。
このほど、セーブ・ザ・チルドレン・インターナショナル(本部・ロンドン)の教育グローバル・イニシアチブ・ディレクター、デビッド・スキナー(以下DS)氏が来日した。同氏は、セーブ・ザ・チルドレンの教育分野におけるグローバル戦略や地域間の調整に関わっている。
過去には、子どもたちに適切な教育の機会を提供するために世界中で展開したキャンペーン「Rewrite the Future」を率いたほか、アフガニスタン事務所長、パキスタン事務所長としての経験も持つ。緊急時の教育の重要性、トルコのイスタンブールで5月23~24日に開催される世界人道サミットに向けた動き、日本への期待などについて、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン海外事業部教育マネジャーの塩畑真里子が聞いた。
塩畑「国連総会で、緊急人道支援に教育を含めることが合意されて6年が過ぎた。緊急下における教育の重要性の認識は、高まったと言えるだろうか。」
DS「教育は、『直接人命には関わらない』という説明でないがしろにされがちだ。しかし、教育を受けて適切な情報を持っていた方が生き延びることができる、というのも事実で、EUを中心とした援助機関での認識は、徐々に高まってきたと言える。また、緊急人道支援における人権の重要性に対する認識も、この10年で大きく向上しており、受益者のニーズをより適切に把握して支援すべき、という考え方も強まってきた。その中で教育は、避難生活を強いられる子どもやその家族にとって、優先度の高いものであることも明らかになってきている。」
このほど来日した、セーブ・ザ・チルドレン・インターナショナルの教育グローバル・イニシアチブ・ディレクター、デビッド・スキナー氏(左)と、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン海外事業部教育マネージャーの塩畑真里子。
塩畑「2015年7月、オスロで開かれた世界教育サミットでは、EUが今後、緊急人道支援予算の4%を教育に充当することを約束した。」
DS「セーブ・ザ・チルドレンとして10年以上、政策提言を続け、ようやくそこまでたどり着いた。緊急時にも教育は必要で、教育の権利も守られるべき、という議論を繰り返すだけでは、全く進展がなかった。15年、EUが4%を約束したことで、他の援助機関もそれに追随する動きがあることは、歓迎すべきだ。ただし、ただ予算を増やせばよい、ということではない。緊急時の教育は、配布して支援が完了する水や物資、シェルターの提供などとは大きく異なる。緊急状況に陥る前の教育の状況や、平常状態に戻る時のことも見越して支援をしなければならない。」
塩畑「今月、トルコのイスタンブールで初めて開催される世界人道サミットに向けて、緊急下における教育支援について新しい世界的な枠組みをつくろうとする動きがある、と聞いているが。」
DS「緊急事態が発生してから資金調達を始めると、迅速な支援ができない。このため、特に教育について緊急教育基金を創設しようという動きがある。15年9月の国連総会では、持続可能な開発目標(SDGs)が合意された。今後国際社会は、「開発協力」と「緊急人道支援」という垣根を飛び越え、もっと包括的に世界の人道問題に真剣に取り組まなければならない。第一、中東やアフリカでの紛争の結果、数千万人の子どもが学校に行けない状況が続けば、SDGsの達成は不可能だ。世界人道サミットで、教育が大きく取り上げられるのは明白だ。」
塩畑「日本政府は、ユニセフなど国連機関を通して、緊急時の教育のため、毎年多額の支援をしている。にもかかわらず、NGOがこうした資金で教育活動をしようとすると、日本でも『人命に関わらない』という議論が実際に出てくる。」
DS「もしも日本で災害が起きて、学校が閉鎖され、子どもが長く授業を受けられない状態になったら、一般市民はどう思うだろうか。私たちは、なぜ日本で許されないことが、国外では許されるのか、政治家や援助機関にただすべきだろう。私は、今まで様々な国の教育大臣や教育省高官と交渉してきたが、いつも『自分の子どもにこんなことが起こったらどうするか』と問いかけている。」
塩畑「日本に何か期待することは?」
DS「日本は、教育ではすばらしい成果を上げた国。そこから教育について発信があれば、世界の多くの人が耳を傾けると思う。その影響力は大きいはずだ。」