今私が住んでいるオランダで現地の方と雑談していた時に、日本のダンスについて聞かれました。
日本ではみんなどんなダンスをするのかしら
ちょうど秋の運動会シーズン。私が真っ先に思いついたのは運動会のダンスでした。私自身、バレエに憧れる少女時代もありましたが、積極的にダンスをしたことがありません。そんな私でさえも、運動会のダンスは毎年たくさん練習した記憶があります。運動会の競技種目では全く目立つことのない私もダンスはみんなと同じように出番がありました。
私は日本の踊りとして、日本舞踊や盆踊りの紹介をした後、日本の運動会のダンスの話をしてみました。一番驚かれたのは、
子供たちがみんな同じ振り付けを練習して踊る
ということでした。ダンスは体の動きで自分の感情を表現するものじゃない?、と不思議そうでした。
運動会のダンスって何だろう
確かにダンスは表現のひとつですが、学校のダンスで自分の感情を表現しているという実感は、私には一度もありませんでした。もしかしたら学校の先生は、そこに感情表現を求めていたのかもしれませんが、いつも先生に言われていたことは「みんな同じようにもっと腕を上げて」「周りをよく見て等間隔で並びなさい」と自分を全体に合わせることでした。先生と同じ動きができるように、みんなの息が合うように、きれいに踊ることが目標だと思っていました。
運動会のダンスでは地道に繰り返し練習することの大切さ、とか、練習の成果を発表して(私のように競技で1位になれない子供でも)自信を持つ、とか、全員が協調し団結することを学んできたのではないかと思います。
みんな同じ、という価値観
運動会のダンスだけでなく、これは日本の学校教育にあるひとつの価値観だと思います。小学校に入ると、みんな一緒に授業を受けて、同じ勉強をします。
ヨーロッパでいろいろな学校の話を聞いていると、このスタイルは当たり前のものではないかもしれないと思うようになりました。クラスを理解度別グループに分けて授業を進めるとか、一斉授業は最小限にして個々で進める学習が中心とか、子供の個性に合わせる形をとることが多いようです。
日本でもいろいろなスタイルで授業を行う学校が以前より増えてきているかもしれませんが、大多数の子供たちは黒板を前に机を並べて、先生の授業をみんな一緒に聞いているのではないでしょうか。
日本のようにクラス全員が一律に同じ授業を受けていると、よくできる子はほかの子ができるまで待たなくてはならず、授業時間を無駄にしています。みんなより理解が遅れてしまった子は逆に待ってもらえず、授業についていけなくなることもあります。創造性や個性を伸ばせないという観点からも、日本の教育スタイルはいろいろ批判もされていると思います。確かに日本の教育スタイルももっと変わっていいのかもしれません。
日本の教育スタイルと生産性
私はマーガレット・へファーマン氏による組織の生産性についてのレクチャーを思い出していました。そこで彼女が紹介していた実験によると、生産性の高い組織に能力が突出して高い人物は不要で、その代わり以下の3つの要因が必要なのだそうです。
- メンバーがお互いを認め合い、尊重していること
- 誰かが議論を独占したり、傍観したりせず、メンバーが協調していること
- 女性メンバーが多いこと
実際のレクチャーでは3点目の女性メンバーが多いというところで拍手が沸き起こっていましたが、その他の2点は日本の教育スタイルに合っているように思いました。運動会のダンスでは全員ができるように練習しますし、それには子供同士の協調が必要となります。
教育は生産性だけの問題ではありませんが、みんなが協力して大きな力が発揮できる、そんな日本の運動会はやはり大切な行事だと思います。自分が日本を離れて、ますます日本の良さを感じています。
野口由美子