超党派議員のみなさま、教育情報化をよろしく。

2013年11月、「教育における情報通信(ICT)の利活用促進をめざす超党派国会議員政策勉強会」という長い名前の会議の第1回会合が開かれました。その場にて基調講演を仰せつかったので、いつもの論調ながら、お願いをかねてアジってきました。以下、そのメモまで。
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2013年11月、「教育における情報通信(ICT)の利活用促進をめざす超党派国会議員政策勉強会」という長い名前の会議の第1回会合が開かれました。国会議事堂の裏側、国会議員会館にて。自民党遠藤利明衆議院議員、民主党石橋通宏参議院議員、公明党山本博司参議院議員(財務大臣政務官)ほか、自民、公明、民主、維新、みんな各党の代表の集まりです。

5月には自民党「情報化教育促進議員連盟」が一人一台タブレットPC等の導入の促進、 デジタル教科書・教材の充実・普及を柱とする「教育のICT化に関する決議」をとりまとめましたが、今回はそれを超党派の会合へと拡げたものです。そう、この件は与党・野党を問わず、議会全体で推進していただくことを望みます。

その場にて基調講演を仰せつかったので、いつもの論調ながら、お願いをかねてアジってきました。以下、そのメモまで。

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小中学生計1000万人がデジタル環境で勉強できる環境を。民主党政権で政府は2020年という目標を据えたが、われわれは民間団体として5年前倒ししてほしいという活動を続けている。

OECDテストで2000年に日本は1位だった算数の順位がみるみる落ちた。何とかできないか。授業が面白いという日本の子どもは世界平均の30ポイントも低く、役立つという子どもは20ポイントも低い。何とかやる気を高められないか。それをデジタルが手助けできないか。

カネがかかるという批判も受ける。かけましょうよ。日本はGDPに占める公教育のコストはOECDの最下位で、カネをかけていない。仮に1000万人に1万円かかるとして1000億円。かつての道路予算の1/100。未来への投資として高いかどうか。その判断は官僚にはできない。政治にしかできない問題。

21世紀に必要な力は、OECDでもEUでも文科省でも、情報活用能力やデジタル能力が最重要ということで一致を見ている。もう議論の段階は過ぎ、実行の時期。私のような学者や官僚の時期ではなく、政治の決断と実行の時期だ。

情報化のメリットやデメリットの議論を続けているのはもう日本だけだ。韓国は小中学校でデジタル教育を全面的に導入しつつある。端末は何でもよいと決めたため、教材はクラウドが前提で、標準化も進んでいるという。しかも、授業、宿題、保護者の連絡にソーシャルメディアを活用。日本ではまだ利用は皆無に等しい。日本の3歩ほど先を行っている。

小学校のPCは6.5人に1台で、1人1台は遠い。文科省・総務省はがんばっていて、20校で実証研究を行っているが、これを早く100、1000校へと拡げていかなければならない。わたしたちの協議会でも独自プロジェクトを進めているし、NTTのように企業単位で取り組んでいるものもある。

9月には大手教科書会社など13社がデジタル教科書のプラットフォーム「CoNETS」を発足。教科書会社という本丸が手を組んで動き出した。ベネッセは小学生の通信教育にタブレットを導入し始める。今年の東京おもちゃショーでは、子ども向けタブレットやスマホが大手玩具メーカーから一斉に出展。小さな子を持つ親はデジタル世代。どんどん使わせる。2-3歳児が小学校に入るころ、デジタルのベテランとなっているはずで、与えるかどうかという議論はもう陳腐だ。

デジタル化による効果、成果も問われ続けているが、成果はもう出ている。総務省の調査では、ITだと楽しく学習できるのが95%、コンピュータを使うとわかりやすい90%という結果が出ており、文科省の調査では、ITの利用あり・なしで理解度テストをすると6ポイント程度の差がみられるという。使い始めた学校からはデジタル教材を増やして欲しいという声が92%に達し、現場からも求められている。

こんな成果や評価は求めようと思えば永遠に求められる。もちろん、授業を向上させる研究は必要。紙と鉛筆の授業の研究は今も行われている。デジタルの授業の研究も100年は必要だろう。だが、導入するかどうか、のための成果はもうよかろう。それは政治判断の問題だ。

不安はある。授業が画一化する、先生が要らなくなる、読まなくなる、書かなくなる、のめりこみすぎる、目が悪くなる、などだ。全て簡単に反論できる。授業は多様になり、先生はますます重要になり、よく読むようになるだろう。ただ、それら指摘の大半は、デジタルだからというものではなくて、アナログでも同じ問題があるというもの。デジタルは単なる道具。授業の中でどう使わせるか、という問題。デジタルとアナログを、それぞれの長所を活かしてどう使うか、の問題だ。

政治的・制度的にデジタル教科書は高いハードルがある。法律上、教科書は「図書」つまり紙とされていて、デジタルは教科書になれないという問題だ。本年度の政府・知財計画では、その位置づけや検定との関係を検討して、必要な措置を取る、と明記された。だが、まだ検討もスタートしていない。

他方、国よりも早く動き出す自治体が現れてきた。大阪市、東京都荒川区、佐賀県武雄市は、2014ー2015年度には域内の全小中学生にデジタル機器を配布すると宣言した。われわれの2015年という目標もあながち夢ではなくなってきたと心強く感じている。

われわれ協議会は今、1)この分野を先導する100人の先生を選んで応援すること、2)100人の首長に名乗りをあげてもらうこと、3)1人1年1万円程度の安価なサービスメニューを用意して自治体に提示すること、の3点に力を入れている。民間は民間としてできることを推進する。

政治リーダーのみなさんには、1)予算の拡充、2)制度の整備、3)そして教育情報化は重要というメッセージの発信、この3つをお願いしたい。教育情報化がまたも行政改革レビュー、仕分けの対象になっているが、これは政府・財務省がどう考えるか以上に、政治がどう判断するか、の問題ではないか。ぜひ強く推進していただきたい。  

以上。

(2014年2月3日「中村伊知哉Blog」より転載)