心臓病の子どもたちが通う都内の保育園で
先日、タレントの菊池桃子さんが、政府の国民会議で「排除される人をつくらない社会」を提案し、注目を集めました。障がい児の母親として、社会への疑問を投げかけたのです。
昨年、心臓病を持った子どもたちが通う都内の保育園で音楽療法をしました。そこに来ていたお母さんたちが口を揃えて言っていたことが、菊池さんの語る「障がいの重さや経済的な理由で、希望に沿った教育が受けられない」という現実でした。
病気を患っていることが原因で保育園の入園を拒否され、遠くから通ってきている子どもたちがたくさんいました。近所の小学校を見学に行った際、入学するためには、「保護者が毎日付き添いで来ることが条件」と言われたお母さんもいました。
それでも都内はまだいい方で、地方に行けば行くほど障がい児に対応するサービスが少ない、と皆さん嘆いていました。
日本は障がい者に優しい国と言えるでしょうか?
私はアメリカの小学校や地域の施設で、障がい児に音楽療法をしていたことがあります。その経験から感じるのは、障がい児の教育に関して、アメリカと日本では大きな違いがあるということです。
今日はアメリカの特別支援教育について、重要な6つのポイントをご紹介します。
1.障がいをもったすべての子どもに教育を受ける権利がある
21歳以下の障がい児は、「無料」で「適切な教育」を受けることができると、法律で定められています。どのような障がいがあっても、子どもには教育を受ける権利があるのです。
また、子どもにとって「適切な教育」とは、ひとりひとり違うので、その子のニーズにあった教育プランをつくり対応します(→詳しくは4&5をご覧ください)
2.家族には金銭的負担はない
障がい児の教育に関して、家族に金銭的負担はかかりません。経済的な理由で、教育を受けられないということはありません。
3.障がい児に教育を提供するのは、学校の義務である
公立の学校は、障がい児のニーズに対応した教育を提供しなければいけません。そのためには、子どもが学校に通えるように、エレベーターやスロープをつけたりして環境を整える必要があります。
また、授業で使う教材やAssistive technology(学習を支えるコンピューターなどの機材)も提供します。つまり、学校は障がい児に健常児と同じ学習環境を提供する義務があるのです。
4.子どもひとりひとりのニーズに対応するための教育プラン(IEP)
IEP(Individual Education Program)とは、障がい児に必要なサービスやセラピー(言語療法、作業療法、音楽療法、など)を取り入れた教育プランです。さまざまな専門家によって作られるもので、親の意見も取り入れられます。
毎年、600万人以上のアメリカの子どもがIEPを利用しています。私が住んでいたオハイオ州では、およそ15%の子どもたちがIEPを利用していました。
5.障がい児の教育は早くはじめた方が良い
3歳以下の障がい児のために、IFSP(Individual Family Service Plan)というプランがあります。障がい児教育は早くからはじめた方が効果的であることが、研究結果から明らかになったためです。
IEPの焦点が児童の教育にあるのに対し、IFSPは家族への支援に焦点があてられます。
IEPやIFSPに音楽療法が入っていることも珍しくありません。音楽療法も含め、教育プランに入っているサービスは、家族に金銭的な負担なしで提供されます。
6.障がい児は、なるべく制限の少ない環境で学ぶべきである
障がい児も健常児と一緒に、近所の学校に通うのが理想的、という考えです。インクルージョン・クラスルームと言って、障がい児と健常児が一緒に勉強します。
インクルージョン・クラスルームは、障がい児にも健常児にもメリットがあります。障がい児が将来社会で生きていくためには、健常者との接し方を知らなければいけません。また、健常児が幼い頃から障がい児と触れ合うことによって、障がい者との接し方がわかる大人に成長するのです。
音楽療法も、障がい児と健常児を一緒にしたグループで行うことも稀ではありません。このテーマに関しては、以前「音楽の素質とはどんなもの?」という記事に書きました。
アメリカで特別支援教育が発達した背景には、親や地域の人々の努力があります。自分で発言できない子どもや、同じ境遇にある人たちのために立ち上がった人がいたからこそ、現在のような仕組みができたのでしょう。
菊池さんの提案する「排除される人をつくらない社会」を築くのは、私たちひとりひとりの力なのです。
(1月25日「佐藤由美子の音楽療法日記」から転載)
著書:『ラスト・ソング 人生の最期に聴く音楽』(ポプラ社)