6月20日は、難民の保護と援助に対する世界的な関心を高めるために制定された国際デー「世界難民の日」です。
現在、世界で難民となっている人々は2,100万人。そして、その半数以上が18歳未満の子どもですが、この数字は、子どもの200人に1人が難民となっていることを意味します。
ハーバード大学院でテロリズムについて学び、国際援助機関でインターンの経験もあるタレントのREINAさんと、紛争や迫害、極度の貧困を逃れて難民や移民となった子どもたちへの教育支援の重要性を国際社会に対して訴えてきた英国セーブ・ザ・チルドレンの教育政策アドボカシー(政策提言)室長Joseph Nhan-O'Reillyが、緊急下の子どもの教育の現状について対談しました。
Joseph Nhan-O'Reilly(以下、Joseph):まず、昨年5月にトルコのイスタンブールで開催された世界人道サミット*1において、緊急下における子どもたちへの教育支援の重要性が、改めて確認されました。
紛争などの影響を受けた子どもたちに実施した調査*2では、99%の子どもが、食料やシェルターと比較しても教育が最優先事項だと答えました。
にもかかわらず、世界の人道支援の予算の中から教育に割り当てられるのは2%にも届かず、資金の割り当てが最も少ない分野なのです。
REINAさん(以下、REINA):そうなのですか?国連のニューヨーク宣言*3や「持続可能な開発目標(SDGs)」*4では、「すべての人が公平に受けられる質の高い教育の完全普及」が掲げられていますよね。
目標と現実の間に、なぜこのようなギャップができてしまうのでしょうか?
Joseph:私たちは、その障壁となっている5つの要因を分析しました。
危機的状況下では、教育の優先度が低くなってしまうことがひとつ。
また、子どもたちに教育支援を届けるための主導力と能力が不足していること、さらには、危機が発生した直後の混乱の中では、関係機関の連携が不足することで教育が中断されることもあります。
加えて、シリアだけでなく、アジアやアフリカ諸国など、世界各地で様々な危機が起こっているので、すべての教育ニーズに対応するには、資金が足りません。
そして最後に、具体的な支援内容を決めるために必要な情報や分析も足りていないのです。
REINA:難民・移民を受け入れる側の国も、難しい課題を抱えているのではないでしょうか。
国外へ避難したシリアの子どもたちは、英語やフランス語、トルコ語などの外国語で授業を受けることになります。
さらに、難民の子どもたちには言葉や文化の壁があるだけでなく、心理的なケアも必要だと思うんです。
教育と言っても、たくさんの問題が複雑に絡み合っていますよね。
Joseph:おっしゃる通りです。子どもたちは、心理的サポートや言語・教材の支援など、さらなる支援を必要としています。
セーブ・ザ・チルドレンは、紛争などの影響により学校が閉鎖され、教育を中断せざるを得なくなった子どもたちに対して、早期に学校に戻れるように支援をしています。
しかし、ひと月ふた月と日にちが経つにつれ、子どもたちの置かれた状況は厳しくなり、学校に戻ることだけでなく、適切なサポートを受けることも難しくなっていきます。
そのため、時間がとても大切で、私たちは、難民を受け入れる可能性のある国々に対して、日ごろから緊急時に対する備えと対応計画の作成の必要性を訴えています。
REINA:私は学生時代、テロリズムについて学んできたのですが、最近、難民や移民と武装勢力の関係についてよく耳にします。
教育を受ける機会がなく、何も目標を持つことができない子どもたちは、自ら武装勢力に加わってしまう可能性が高くなります。
教育は、こうした事態を防ぐためのもっともシンプルな方法だと思う一方で、トランプ政権や各国の政治家たちが難民とテロリズムとの関係を話題にすることで、国際NGOなどの支援団体が、安定的な資金を集めることが難しくなっているような気がします。
Joseph:私個人としては、ニューヨーク宣言や世界人道サミットの場で、紛争や緊急下の教育に対する関心が高まってきているように感じました。
その理由は、教育の欠如が紛争に影響を与えることに、人々が気付き始めているからではないかと思います。
一方で、現在の世論が国際的な支援の必要性という議論に逆行していることは、確かに、おっしゃる通りです。
セーブ・ザ・チルドレンとしても、各国政府に対して、様々な提言を行っています。
REINA:日本では、世界でこのような状況が起こっていることを、知っている人が少ないと感じます。
難民は遠くのどこかの国で起こっていることで、テロだって、アメリカやヨーロッパで起こっている出来事。ニュースはエンターテイメントになりつつある気がして...。
日本が国として、また日本人が個人として、今できることは何でしょう?
Joseph:日本はG7やG20加盟国であり、国連の安全保障理事会の非常任理事国でもあり、国際社会の中心となっている国のひとつです。
日本はこれまで、世界の様々な課題に対して資金・人的貢献をしてきたことを私たちは知っています。
しかし、世界はまだ多くの問題を抱えていて、日本政府には、より多くの役割や責任を担ってほしいと期待しています。
また、日本は未曽有の震災を経験し、多くの学校が甚大な被害を受けたにもかかわらず、速やかに学校教育が再開できるよう復興を進めてきた国ですよね。
日本の防災事業は、世界的に見ても専門性が高く、また、技術面においても高い評価を得ていますし、国際社会が抱える課題の解決に大きく貢献できるのではないかと思います。
多くの自然災害を経験している国として、世界にその経験を伝えることは、日本の方々だからこそできることではないでしょうか。
REINA:本当に大切なことだと思います。では、もっとより多くの人に関心を持ってもらうためには、どうしたらいいでしょう?
Joseph:ひとつは、REINAさんのように公の場に出る機会の多い人たちが先導して、現状を伝えていくことも大きな力になるのではないかと思います。
また、これはどの国に関しても言えることかもしれませんが、自国の文化の中に切り口を見つけることも大切でないかと、私は思っています。
例えば、イギリスを始め西洋では、古くから教会や信仰を中心とした文化が根付いていることで、思いやりの心が広まっているように思います。
日本文化の中にも、慈悲を象徴する観音様などがありますよね。もちろん、宗教的なものである必要はありません。
ただ、人々が今世界で起きていることに関心を持って、積極的に関わるようになってくれれば、どんな方法でもいいのです。
REINA:なるほど。今、世界中では、信じられないことがたくさん起こりすぎていて、政府や大きな組織にしかこの状況を変えることは難しいのではと思ってきました。
でも、私たち一人ひとりが関心を持って、声をあげていくことが必要ですよね。
*1潘基文国連事務総長(当時)の呼びかけにより、トルコのイスタンブールで2016年5月23日・24日の2日間開催された、史上初となる人道支援に関する世界的なサミット。
*2セーブ・ザ・チルドレンがノルウェー難民協会と合同で、2013年にコンゴとエチオピアで17の異なる緊急下にある9,000人の子どもを対象に実施
*3 2016年9月19日に開催された移民と難民に関するサミットで採択された、難民と移民の保護強化を求める宣言。
*4貧困や不平等・格差、気候変動などのさまざまな問題を根本的に解決することを目指す2030年までの世界共通の17の目標。2015年9月に国連で全会一致にて採択された。