壊滅的にみえる「リベラル」は自民党に勝てるのか。枝野幸男氏の答えは…

枝野氏は自身の政治スタンスを「リベラルであり、保守である」と語る。
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HuffPost Japan/Kenji Ando

10月10日公示の衆院選は、これまでとは違う政治的な構図になった。

自民党はもちろんのこと、新党として期待を集める希望の党は、保守色が濃い。とはいえ、安倍首相の強引さや右傾化に疑問を持っていても、対抗勢力となるはずの日本のリベラルは頼りなく、優等生的でうさんくさくみえる――。

いまの日本の有権者の間にはそんな空気感が広がっているのかもしれない。

民進党の代表代行だった枝野幸男氏は、新党「立憲民主党」を結成し、「希望の党」に合流できなかった民進リベラル系議員の受け皿となった。その一方、枝野氏自身は「私はリベラルであり、保守である」と、複雑な表現で政治スタンスを語る。

壊滅的にみえる日本の「リベラル」の受け皿はあるのか。枝野氏に聞いた。

——枝野さんは最近、街頭演説で「リベラルであり、保守である」と話していますね。

そもそも概念論として、リベラルと保守は対立概念ではない。かつての(自民党の)大平正芳さんや加藤紘一さんは「保守だけどリベラル」と言っていました。あえて言うと、私の立ち位置はその辺だと思います。

——自民党の「ハト派」に近いということですか。

「ハト派」と「リベラル」は、またちょっと違うんですね。やっぱり、自由を大事にして多様な価値観を認めて、自由放任な自己責任論ではなくて、お互いに支え合うことを大事にする。これはリベラルであると同時に保守なんですよ。

だから「保守ではない」と言われると、「ちょっと違うんだけどなぁ」と思いますし。他党のことで申し訳ないけど、共産党さんはリベラルではないでしょ?

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故・大平正芳元首相と故・加藤紘一元官房長官
時事通信社

——枝野さんは「リベラル」をどう定義していますか。

多様性を認めて、社会的な平等を一定程度の幅で確保するために、政治行政が役割を果たすという考え方です。これは、かつての自民党そのものです。だから、保守とリベラルは対立しないんですよ。

——では、「保守」の定義は。

歴史と伝統を重んじて急激な変化を求めない。積み重ねた物を大事に、ちょっとずつ世の中を良くしていく考え方ですよね。

——枝野さんから見て、今の自民党は「保守」ですか。

安倍さんの自民党は保守ではないですよ。これこそ、革新ですよ。申し訳ないけど(自民党の)安倍さんも(希望の党の)小池さんも保守ではない。

——枝野さんが大事にしたい「保守の伝統」とは。

「和を以て尊しとなす」。まさに日本の歴史と伝統といったときに、一番古い、そして一貫している日本社会の精神です。

「和を以て尊し」だから、多様性を認めているんですよ。日本は数少ない多神教文明ですからね。唯一絶対の価値ではないんです。日本社会は、もともとリベラルなんです。

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HuffPost Japan/Kenji Ando

——いまの自民党は「まがいもの」の保守ですか。

保守の定義は人によって違うけど、僕は保守だとは思わない。もちろんリベラルだとは思わない。

だとすれば、保守リベラルから中道左派のリベラルまで、リベラル勢力と言われるところがぽっかり空いてるのは間違いない。

保守の対立概念じゃない。彼らが保守じゃないから、保守的なリベラル(の立ち位置)が空いてるんですよ。

——それでも、各社の世論調査で自民党の政党支持率は30%切っていません。なぜ、野党に支持が広がらないのでしょうか。

えっとね、まず世論調査の分析は気を付けなきゃいけなくて。野党の支持率って、投票日の近くが一番高くなるんです。

だから、一回一回の数字をみて「下がらない」と、あんまり一喜一憂してもしかたがない。これまでの間に十分、(自民党の支持率は)急激に下がっていると思いますけどね。

都議選の前を考えたら、正直自民党の支持率がここまで下がった段階で戦うとは思ってもいませんでしたけど。

――自民党から岸田文雄政調会長のような、いわゆる「ハト派」のような人達が出てきたら、国民の熱気がそちらに向くことはありませんか。

ここまでくると、僕はもう自民党はかつてのリベラルを包含した保守ではなくなっていると思う。

(自民党から)誰が出てきても、そこまでは(支持は)増えないと思います。安倍さんほど強引なことはやらないと思うので穏健色は強くなるかもしれないけど。

うーん、じゃあ本当にかつての「宏池会」的なものが自民党の主流になるとは、僕はちょっと思いにくいですけどね。

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自民党の岸田文雄政調会長。4人の首相を輩出した名門派閥「宏池会」を率いる。安倍首相とは当選同期で、安倍内閣でも外相などを務めたが、自らを「私はリベラル、ハト派」と語る。
Kim Kyung Hoon / Reuters

――SNS上では、「リベラル票」という言葉がキーワードになっていて、今の日本はリベラル票の行き場がないと言われている。一方で、日本では「リベラルはもうダメなんじゃないか」という声もある。

「ダメだ、ダメだ」と思い込んできたせいじゃないですか。リベラルという言葉に手あかが付いてネガティブなだけです。

そういう考え方や、そういう層はそれなりの厚みを持っている。それこそかつて大平正芳さんや加藤紘一さんに期待していた自民党支持層の人たちは、やっぱりイラだっているんです。票を入れる先がない、と。

まして、その先は社民党さんと共産党さんしかない。そこは、いろいろな事情で「そことは違うよね」と思っている人たちは、ものすごいボリュームがあって、十分に自民党と対抗できる。いまの右翼自民党なら対抗できると思っています。

——いわゆる「リベラル」「左派」について、「いつも原発反対とか理想論ばかり。現実を見てないのでは」という声が出ています。安倍首相は、そこを巧みにすくい取っているように見えます。

僕はリアリストであることを一貫して強調してきました。「脱原発」は私たちの政策の柱だけど「何年には(原発ゼロ)」というリアリティーのない話を僕はしない。なぜなら、今は野党なんだから。政権を取ってからでないと、原発をやめるためのプロセスに入れない。

2030年までに政権を取れなければ、「2030年までに原発ゼロ」なんてできないんですよ。なのに、年限を入れようとするような欺瞞的な態度は、僕は取らない。

その代わりに「やらなきゃいけないことは、これだけあります。それをやろうとすれば、これだけ時間がかかります」という工程表を作ります。そのことで「あいつらに政権を任せれば何年くらいで原発ゼロが宣言できるのかな」というのが分かる。これがリアリズムです。

集団的自衛権は憲法違反だし、必要ないと思いますけど、北朝鮮の挑発に対して個別的自衛権は充実させるべきです。

北朝鮮に対して、裏で見えないところでは、いろいろな外交努力をしてもらわないと困るけど、外向きには安倍さんが強めのことを言っていることは、僕は理解します。

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HuffPost Japan/Kenji Ando

——枝野さんは「右とか左とかではない」と語る一方で、「上からか、下からか」という構図を訴えています。具体的にどういう意味ですか。

これには二つ意味があって、一つは経済です。強い物を、より強くするトリクルダウンは、失敗がはっきりしているわけですよ。

トリクルダウンという考え方自体が、絶対的に間違いということではない。高度経済成長の時代、日本はそれで成長した。でも今は時代が違う。

上を強くすれば格差が拡大して、貧困が増える。そうすると消費が落ち込んで、消費不況の原因になる。

ちゃんと社会を下から支えて押し上げることで、下の人が救われるだけじゃなくて「押し上げられた分だけ消費が増えて、経済全体に良い影響を与える」という、下からの景気対策です。

もう一つは政治の構造として、一種の強いリーダーによるトップダウンについて。これも全否定はしません。スピードが求められる時代なんだから、その必要性が高まっているのも否定しません。

でも、いまは多様性が広がっている時代です。多様性のある社会で強引に決め続けたら「排除されている」と受け止める人がどんどん膨らんでいく。それは政治的・社会的な安定を害する。今の日本は、そういう状況だと思います。

もちろん強いリーダーシップで、トップダウンでガーンとスピード感を持ってやることも大事だけど、それは必要最小限でやるべきです。

「時間があってもみんなの意見を聞いて、丁寧にできるだけ多くの人が納得するプロセスを踏みましょうよ」と。「国会では少数派かもしれないけど、市民の間ではサイレント・マジョリティー(物言わぬ多数派)かもしれない声に耳を傾けましょうよ」と、そういう意味です。

——有権者もそういう風に思っていると感じます。一方で「決められない政治」は良くない、「決められる政治」が良いという声もありますが、今の有権者と接してみてどう思いますか?

両方に分かれるんですよね。たまたまここまで自分たちが排除されずに「強いリーダーシップ」を求めている人たちもいます。

ただ、そういう人たちでも「あれ?こんな変なことを勝手にやるの?」ということで、どんどん不満が高まっている。その意味では、こちら(「決められる政治」を忌避する人々)がサイレント・マジョリティーだと思います。

——その場合は、中間層を厚くするというイメージですか。

経済的にはそうですよ。中間層が厚いから、国内で内需が活発化して経済が元気になるんですよ。内需を拡大させないと経済は回らない。そのためには、中間層を厚くするしかないですよ。

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HuffPost Japan/Aki Hayashi

——枝野さんは演説の中で「一億総中流」という言葉を使っています。でも「一億総中流」と言われた高度経済成長期を支えた企業、例えばシャープは台湾メーカーに買収され、東芝は経営危機に陥った。少子高齢化も課題です。そうした中、どうやって内需を拡大すべきですか。

まず、輸出は悪くないんですよ。個別の企業を見たら厳しいのは間違いないけれど、輸出の成長力はバブル崩壊前と客観的なデータで見るとそんなに変わってないんですよ。

客観的なデータとして。徹底して国内なんですよ。これは「ニワトリかタマゴか」の話ではあるんですが、格差が拡大したから消費が伸びないんですよ。

演説でも言ってますが、年収100万で非正規の人は車を買うわけないんですよ。買えないんだから。そういう人達が増えているのに内需が拡大するわけないじゃないですか。一億総中流にすることでお金が回るんですよ。お金が回る構造を作っていくしかないんです。

なおかつ同時に中長期的には、老後の安心や子育ての安心につながることをやっていく。お金を持っているお年寄りが貯蓄を切り崩し、子どもは経済のためにうまれてくるわけじゃないけども、少子化にブレーキがかかれば、それだけ消費は増える。

こういう循環に変えていくということです。それで回りますよ。大きな成長はできないけど、国内でお金を回していけば良いんですから。

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HuffPost Japan/Kenji Ando

――小池さんを見ていると、時には理屈じゃなく勢いとか雰囲気で票が動く面がある。どれだけ筋を通しても、それだけでは支持が広がらないのでは。

僕はそういう側面からすれば、小池さん的な大衆に対するアピールと全く別の次元で大衆動員をできつつあると思う。16万もTwitterをフォローしていただいた。正攻法を求めている人たちは、むしろ一定層いると思っています。あえて正攻法で、そこへ行こうじゃないかと。

僕自身が24年、地元の選挙をやりながら、いわゆるイベントごとは一切やらないです。とことん地元の選挙区は王道をやっている。それで戦えるんです。誰も王道をやるひとがいないから、そこが空いているんです。

――民進党が「希望の党」への合流を決めた両院議員総会(9月28日)では反対意見が出なかった。なぜですか。

それは、前原さんが「民進党の理念政策は新しい場所で実現する、そのためにみんなで行こう」と言ったから。

もちろん、党と党が合併すれば選挙区調整が生じるから、100%と思っている人は誰もいない。

でも、あそこまで自信をもって言われたら、不合理に排除されることはないと思うし、「党の理念政策を実現しよう」と言っているんだから、そのことを曲げることを求められるとは、やっぱり多くのみなさんは思わなかったんじゃないですか。

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1994年、日本新党から離党した若手を中心に結成された衆院の院内会派「民主の風」結成時の写真。議員会館にある枝野氏の事務所に飾られていた。いまは袂を分かった枝野氏と前原氏が並んで映っている。
HuffPost Japan/Kenji Ando

――前原さんのことを恨んでいますか?

いや、それはありません。お互いの政治的な判断の違いだと思っている。

私としては思っていません...が、地元で長きにわたって「厳しい民進党から立候補するよ」といって頑張っていたにもかかわらず、排除された人には「ちゃんとしてあげてね」と。いろんな意味で。

僕らは同期だし、「お互い判断違うことはあるよね。残念ながら違ったね」と。それだけです。ただ、若い人たちに対してはちゃんとしてねと。

——新党結成の表明前夜(10月1日)、枝野さんが「一人カラオケにいきたい。(欅坂46の)『不協和音』を歌うんだ」と述べたと報じられ、話題になりました。好きな歌詞は「一度妥協したら死んだも同然」だそうですね。

その質問に正面から答えなくて申し訳ないんだけど、本当になんの政治的意図もなくつぶやいたんです。直近で一番歌っていた歌なので。

直近というのは、このところ忙しくて歌えていないので、都議選の前です。その時に歌っていたのが「不協和音」と(乃木坂46の)「インフルエンサー」だった。どっちも歌詞がいいなと思って歌っていた。本当にそれだけでした。

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HuffPost Japan

——最後になりますが枝野さん、やっぱり総理を目指しますか。

いま、党の党首をやっている以上は「総理を目指します」と言わなかったら、無責任です。国政政党の党首である以上、総理を目指さないと逆に無責任だと思います。