ベネズエラで経済破綻が迫っている背景は? マドゥロ大統領はなぜ辛うじて生き延びているのか

南米のベネズエラでは、経済破綻の危機が高まっている。

南米のベネズエラでは、経済破綻の危機が高まっている。原油価格の下落で物価が高騰し、食料品や医療品の不足が市民生活に深刻な影響を及ぼしている。対外債務の返済は完全に行き詰まり、デフォルト(債務不履行)の危機も迫る。反米姿勢を強め、社会主義的政策を進めていたウゴ・チャベス前大統領を受け継ぎ、ニコラス・マドゥロ大統領には罷免の声が高まっている。

ベネズエラを襲っている経済的・政治的危機について、ハフポストUS版はニューヨーク大学准教授のアレハンドロ・ベラスコ氏に話を伺った。

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ニコラス・マドゥロ大統領の罷免を問う国民投票を求めるデモで、国家警察たちの前で抗議をする人々。2016年5月18日、ベネズエラの首都カラカスで。

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原油価格の低迷で、ベネズエラでは経済的な混乱が起こった。状況は悪化し、電気を節約するために政府機関の多くが週2日しか開いていない状態までになっている。食糧不足によって、基本的な必需品を求めて人々が長い列をなしており、旱魃が起こったことで、水も希少となり、状況はさらに悪化している。

多くの都市で、抗議の声をあげる人々が治安部隊と衝突している。政府に対策を求め、四面楚歌の状態にあるニコラス・マドゥロ大統領を罷免する国民投票の実施を要求している。長期政権を築いたウゴ・チャベス前大統領の後継者、マドゥロ現大統領は反対派が勢力を大きく増す中で政権運営を担っており、チャベス前大統領のような人気を得られずにいる。5月、マドゥロ大統領は罷免を回避するため5月13日に非常事態宣言を発令したが、彼の政治的な命運は不確かなままだ。

――ベネズエラは過去に経済危機を何度となく経験してきましたが、どうして現在の危機状態はこれほどまで悪化したのでしょうか?

歴史的な理由と、より現代的な理由の両方があります。歴史的で、より構造的な理由は、ベネズエラが唯一の資源に長きにわたって依存してきたことと関係があります。その資源とは石油です。

石油ブームが起こると、ベネズエラ政府は積極的に支出しますが、こうした支出は国内で生産的な産業を生み出しませんでした。つまり、ベネズエラは輸入に依存するようになったのです。石油マネーは流れ込んできており、欲しいものは何でも輸入できましたが、その石油マネーが止まると、モノを買う元手が小さくなってしまうのです。

この数十年間、ベネズエラはこのパターンを繰り返し経験しました。チャベスが大統領だった10年間にもこうした経済危機が起きました。その頃、石油価格は非常に高かったのですが、国内の組織には投資がほぼ行われず、収入に強く依存して輸入品を買っていました。そのため、ベネズエラは自立する能力を失う結果となったのです。

2つ目の理由はより現代的です。チャベスとマドゥロが大統領を務めた間に、ベネズエラは石油国家としての性質をかなり強めていきました。経済の大きな生産部門を強制収用してきたからです。生産部門は国営企業や労働者所有の企業から生まれるという、社会主義的な考えがありました。問題なのは、こうした企業が国営企業であっても、より利益追求型の国外企業と競争していたということです。

3つ目の要因は、なぜ危機がこれほどまで深刻なのかをこの時点で説明する上でおそらく最も重要だろうと思います。それは通貨管理制度です。通貨管理は2003年に、チャベス大統領を失脚させることを目的に石油産業がストライキを起こした後に導入されました。通貨管理は通常、長くとも1年から2年程度を実行期間とするものです。というのも、この通貨管理を行うと腐敗につながるからです。そして、腐敗が実際に起こりました。生産する意欲を削ぎ、モノの買い溜めが氾濫し、希少となったモノを再販売するようになったのです。

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カラカスのスーパーマーケットの外に並ぶ人々の列を見張る警察。2016年6月1日、カラカス。食料や薬といった基本的な消費財が現在、ベネズエラでは供給不足となっている。

――現在、食糧不足と政府機関の閉鎖で、ベネズエラの人々にはどのような影響があるのでしょうか?

もっとも劇的な影響は、基本的に何も手に入らないことです。小麦から製造の手間がかかる製品まで、何もかもが手に入らなくなりました。その結果、多くの人が行列をつくり、モノを求めます。

一方で、闇市場での取引が蔓延します。闇市場を生み出した原因は通貨管理制度です。モノ不足に加え、極端に高騰した闇市場の物価が、人々の生活を直撃しています。

他にも影響がありますよね。薬品や、病院用の部品も不足しています。

もう1つ付け加えると、ベネズエラの異なる層の人々に違った形で影響が出ています。ドルが手に入るなら、闇市場のモノを手に入れることができます、街の中でより富裕な場所にあるお店で買うこともできます。こうしたお店の製品の供給状態はまだ良い方です。

他の製品の多くは政府が価格統制しており、手に入れるのは困難になっています。手に入れられた場合でも、配給が厳しく統制されています。国民IDカードの番号に基づいて決められた日に購入を行わないといけません。この配給プロセスに応じて、人々は毎日の生活を調整するようになっています。

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抗議する反対派が警察官とぶつかり、暴力的な状態になっている。反対派はニコラス・マドゥロ大統領を放任する国民投票を行うよう求めている。ベネズエラのカラカス。2016年5月18日。

――混乱は一様ではないでしょうし、階層の分断も影響を与えていると思いますが、ベネズエラの人々はこの危機的状態の原因を何だと思っているのでしょうか?

捉え方は一様ではありません。マドゥロ政権を拒否する声はかなり広がっていますが、これは主に危機が深刻だからです。人々はマドゥロ大統領を批判していますが、批判する理由は様々です。

過去17年をどう評価するか、その見方はまだ大きく二極化しています。とりわけ、チャベス大統領時代についてはとりわけ評価が分かれています。人々はこの二極化した見方で、危機を受け止めています。

はっきりさせておきたいのですが、確かに現在の政権は支持されていません。この点では、二極化はないように思いがちです。しかし、二極化が起きているのは、人々が何を危機の原因と捉えているかによって変わってくるからです。

チャベス大統領を支持した「チャビスタ」の人々がマドゥロ大統領を批判する背景には、マドゥロ大統領が実施した政策によって大統領が力を持てなかったことがあります。思想的にチャベス大統領を信奉していた人々は、マドゥロ大統領の立ち位置が十分に左派的でなく、社会主義的でもないという理由から、現大統領を批判しています。そして、チャベス政権にずっと反対してきた人も数多くいます。

人々が何を批判しているかについては、一律に説明できません。おおむね政府を強く批判しているのです。

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ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領が新聞を手に1部掲げて、南米の英雄シモン・ボリバルの肖像の前で演説を行っている。2016年5月17日にベネズエラのカラカスにあるミラフロレス・パレスで行われた記者会見で。

――マドゥロ政権はこの危機を乗り切ると思いますか?

乗り切るかどうかのポイントは、2018年までの任期を全うできるかどうかでしょう。乗り切れない方にかけるのが安全かと思いますが、そうすると次の質問は「どういった状況でマドゥロ政権が終焉するのか?」でしょう。私の直感だと、石油価格が少し上昇しているので、状況は悪いものの、この危機はある程度踊り場に達した感があります。

これでチャビスタたちの政権は時間を稼げています。チャビスタたちは2016年よりも先へと罷免に関する国民投票を遅らせようとしています。この先延ばし戦略が重要な意味を持つのは、もし罷免の国民投票が2016年12月よりも先になると、副大統領が任期の残りを埋める必要があるからです。

マドゥロ大統領は乗り切れないかもしれませんが、チャベス主義が生き延びないということではありません。

政権が反対派勢力に対して活用できる大きなテコは、権力の座に居続けることです。これは少し逆説的ですが。反対派勢力は力を持ち続けるためには、政権内に誰かが入っていないといけません。しかし、政権に加わっていると今後の政策に対して批判を受けるのです。ベネズエラの経済を回復させるためには、痛みを伴う難しい政策を導入することになるでしょう。

私の直感だと、チャビスタの会派の中には知恵を絞って、反対派と交渉をしている派閥もあるでしょう。そうした会派はチャビスタの間でも不人気のマドゥロを喜んで大統領の座から外すでしょう。したがって、副大統領が残り、静かに権力が移行する期間となるでしょう。何らかの政策が実施され、反対派に権力が移るのですが、一方で、誰の顔にも泥が塗られないのです。

今後どうなるかについて、私が考えていることはこんなことです。マドゥロ大統領は乗り切れないかもしれませんが、チャベス主義が生き延びないということではありません。

ハフポストUS版より翻訳・加筆しました。

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