米国でエボラ出血熱の感染が拡大する可能性がある中、危機管理や感染症の専門家からは、米疾病対策センター(CDC)のフリーデン所長がリスクを正しく伝達できているのか疑問の声が上がっている。
9月30日にリベリア人のトーマス・エリック・ダンカンさんが米国内で初めてエボラ熱と診断されたとき、フリーデン所長は二次感染が起きる可能性があると明言。その後、テキサス州ダラスでダンカンさんの治療にあたっていた看護師2人の感染が確認された。
だが、CDCやテキサス州保健当局が看護師を危険にさらした可能性や、フリーデン所長が事態は制御されていると断言したことは、国民の信頼を損ない、パニックを助長したとの批判の声が聞かれる。
2009年の豚インフルエンザ流行など、公衆衛生に関する危機対応でCDCはこれまで世界的に高い評価を受けてきた。しかし、今年6月と7月にジョージア州アトランタにあるCDC本部で、炭疽菌と鳥インフルエンザウイルスの管理ミスが発覚して以降、その名声は失墜した。
そして今、エボラ熱への対応をめぐり、CDCはさらなる窮地に立たされている。カリフォルニア州の危機管理会社バーンスタイン・クライシス・マネジメントのジョナサン・バーンスタイン氏は、フリーデン所長が、エボラ熱に対する一般社会の「恐怖を制御することに失敗」していると指摘する。
一方、CDCはエボラ熱に関する質問に答えるべく最善を尽くしていると強調。「簡潔であると同時に完全な情報伝達を行うのは常に難しいが、特にエボラのような新たなリスクに直面する場合はなおさらだ」と、広報担当者は語った。
<中身のない約束>
特に批判を受けているのが、隔離施設を備えた米国の病院であれば、エボラ熱に対処することが可能だと、フリーデン所長が繰り返し明言してきたことだ。ダンカンさんの治療に関わった看護師2人がエボラ熱に感染してから、同所長のこうした発言には真実味がなくなった。
感染症を専門とするアイオワ大学のダニエル・ディークマ教授は、フリーデン所長の当初の自信が多くの病院を慢心させ、エボラ熱に対処する計画を立てる必要がないと判断させるに至ったと指摘。エボラ感染には「大半の病院が準備をしていないだろう」と述べた。
また、感染が確認された看護師の1人が発症前に飛行機に搭乗していたことが分かり、CDCの対応についての不安が一段と増している。フリーデン所長がテレビで搭乗は許可されるべきではなかったと述べた直後、この看護師は搭乗前にCDC職員に微熱があることを告げたが、搭乗を許されていたことが明らかとなった。
他の専門家は、科学的知識の範囲を越えたフリーデン所長の発言について指摘する。例えば、バスや他の公共の場でエボラウイルスが感染する可能性について語るとき、同所長は患者は具合が悪いだろうから自宅にいるだろうと強調する。
だが、リスクコミュニケーションのコンサルタント、ピーター・サンドマン氏は「多くの初期のエボラ感染者にとって、それは正しいとは言えない」と指摘。「(アフリカでは)エボラに感染した初期段階の医療従事者は仕事に出向いていた」という。
CDCの炭疽菌と鳥インフル騒動を批判する米ラトガース大学のバイオセーフティー専門家リチャード・エブライト教授は、「CDC所長の発言の多くは科学的データを通り越しており、中にはデータと矛盾する場合もある」とし、ある日の発言はその翌日には間違っていることが判明することを認識しなければならないと指摘する。
CDCのエボラ対策をめぐる信頼の喪失は、州当局の行動にも影響を与えている。
ルイジアナ州の司法当局は、ダンカンさんが滞在していたアパートから出た廃棄物について、CDCが廃棄物の焼却灰にはリスクはないとしたものの、同州での埋め立てを一時差し止めた。また、オハイオ州とテキサス州ではエボラウイルスによる汚染リスクはゼロに近いにもかかわらず、学校の一部が閉鎖された。
CDCは1976年のエボラ熱研究にまでさかのぼり、患者が発熱やおう吐、下痢といったエボラの症状を示した場合にのみ、体液への接触を通じて感染は拡大するとしている。
しかし、ダンカンさんの親類4人は、無症状にもかかわらず、潜伏期間の最大とされる21日間隔離された。
リスクコミュニケーションの専門家であるジョディ・レナード氏は「これも当局者の矛盾したメッセージ」との見方を示した。
(Sharon Begley記者、翻訳:伊藤典子、編集:宮井伸明)
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