老舗独立系書店の存続危機をクラウドファンディングで救え――ニューヨークのIndependentな風景 #イースト・ビレッジ

ニューヨーク・イーストビレッジの文化発信的な役割を担ってきた老舗書店「セント・マークス・ブックショップ」が6月、家賃の高騰から移転することとなった。
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ニューヨーク・イーストビレッジの文化発信的な役割を担ってきた老舗書店「セント・マークス・ブックショップ」(31 Third AvenueNew York, New York 10003)が6月、家賃の高騰から移転することとなった。ファンらがクラウド・ファンディングと呼ばれる移転費用の調達をインターネット上で試みているが、クラウド・ファンディングの締め切りは5月16日で、直前になった今も目標金額の5万ドルに達していない。

イーストビレッジにはニューヨーク大学(NYU)があり、自由闊達な若者文化にあふれた街だ。この書店は、37年間、イーストビレッジの若者らの知識欲を満たしてきた。建築やデザイン、政治、神学、小説などを中心に個性的な書籍が並び、単純な自由経済とは一線を画したユニークな店舗として根強いファンが多い。同ビル2階には、日系のスーパーがあることから、ニューヨークに住む日本人にも親しまれている。

ところが折から不動産価格の高騰で、家賃が払えなくなり、立ち退きを余儀なくされた。ニューヨーク・タイムズでこのニュースが取り上げられると、書店のファンから「移転しないでほしい」との声があがり、資金集めの運動が始まった。「イーストビレッジにあってこそ、この書店だ」という訳だ。

しかし、資金集めは告知不足などの理由から振るわず、14日現在は、約4万ドル。ただ、ようやく移転費用が集まり始め、今の店舗から約1キロ離れた同じイーストビレッジの公団住宅の1室で営業を続けることになった。新店舗の内装は、建築家の曽野正之さんとパートナーのオスタップ・ルダケヴィッチさん(Clouds Architecture Office)が務める。4月に「もう、閉めるもしれない」と落ち込んでいたオーナーの姿を見かねて2人は、設計を引き受けた。書店の共同オーナー、ボブ・コンタンさん(71)とテリー・マッコイさん(70)は、高齢だが本や文化への強い情熱があり、今後も経営を続けたいと意気込む。ボブさんは、「近くに日本食レストランも多く、特にアカデミックな日本人にもよく来ていただいている。クラウドファンディングを募って無事に移転したい」と語る。現在店内では、5月31日まで本が運び出される過程を展示するイベントを開催するなど、移転騒動を逆手にとり、話題を集めている。

ニューヨークは地価の高騰から家賃の値上がりが止まらない。リーマンショック後、マンハッタンの賃料は、5年間軒並み上昇している。アッパー・イーストの老舗アイリッシュバーが店を閉めた際も、ニューヨーカーから惜しむ声が相次いだ。この先、マンハッタンの街並みは、どう変わっていくのだろうか。新旧入り交じり、常に変わり続けるニューヨークだが、地域に根ざした文化はこれからも生き残って欲しい。(前田真里、写真も)

●セント・マークス・ブックショップのクラウドファンディング

(支援者には、本のギフト券や年間ディスカウントなどの特典がある。)

●店内の展示イベント "This is how you disappear"