朝日新聞が「電子書籍、消える蔵書 企業撤退で読めなくなる例も データ、所有権なし」という記事を掲載した。電子書籍事業から撤退するローソンが購入額相当をポイントで還元することを紹介したうえで、購入したと思っても実際には閲覧する権利だけの場合があり、企業の都合で電子書籍の閲覧が不可能になる場合があると注意を促している。このような権利関係は利用規約にかかれているが、長文の規約を理解している消費者はほとんどいないと記事は指摘し、「長文の利用規約に埋もれさせていては、説明したことにならない。」という、主婦連合会の河村さんの意見を紹介している。
利用規約のように、購入時に交渉の余地のない契約条件を総称して約款と呼ぶ。現在、民法の改正作業が進んでいるが、その中に約款に関する一般規定を設けようという考え方があり、法務審議会民法(債権関係)部会で審議されている。この考え方には賛否の意見が寄せられているそうなので、しっかり勉強するために、僕が理事長を務める特定非営利活動法人情報通信政策フォーラム(ICPF)では1月23日に「インターネットビジネスと約款」という特別セミナーを開催した。その模様は、講演資料とともにICPFサイトで閲覧可能である。
透明性の高い私法ルールを定めるのが法制化の目的であって新たな公的規制を行うものではない、といった趣旨の講演があり、その後、パネル討論が行われた。パネル参加者は法制化を支持するとともに、クロスボーダー取引の時代だからこそ日本法ではこのように規律されていると海外に主張できるようにすべきだ、中小企業のインターネットビジネスにも有益である、遺伝子検査など他の新ビジネスについても法制化の必要性は共通している、といった意見が表明された。
不思議なのは、新経済連盟がこれに反対していることだ。「事案の内容ごとに個別に判断されるべきものであり、規定化する理由がない。」というのが主な反対理由だが、僕には理解できない。インターネットビジネスではこの約款を用いるのが妥当、遺伝子検査ではこれが妥当、というように個別に判断しようというのだろうか。そのようにしては、新ビジネスが次々と生まれるのを阻害することにならないか。成長戦略に反することにならないか。そもそも個別に判断というが、だれが判断するのだろう。新ビジネスごとに主管庁を定め約款の認可を求めるというのは行政改革に反する。個別に裁判するとしたら、判例が定着するまでは、企業にとっても消費者にとっても契約は不安定な状態のままだ。
取引を促進し経済を成長させるために、民法で約款に関わる基本的な事項を定める必要がある。新経済連盟が意見を変えるように期待する。