フィリピン報道で初めてのピュリッツァー賞受賞 マニエル・モガト記者に聞く

「ドゥテルテ大統領の麻薬撲滅戦争」で深まる社会の亀裂に危機感
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 優れた報道、文学などに与えられる米国最高の権威のピュリッツァー賞(国際報道部門)を今年、ロイター通信のマヌエル・モガト氏(55)が2人の同僚とともに受賞した。対象となったのは「ドゥテルテの戦争ー血塗られた麻薬取り締まりの内幕」と題したシリーズ。比を拠点とする記者の受賞は1942年の故カルロス・ロムロ氏(後に外相、国連総会議長などを歴任)以来、76年ぶり。比を舞台とした報道では初めて。シリーズは、リアルな写真や動画を駆使したインフォグラフィックスと臨場感ある文章で世界中から称賛された。大統領府でさえ受賞を祝福したが、ドゥテルテ大統領は「戦争」をやめないと公言する。モガト記者に取り締まりの現状や政権への評価を聞いた。

 ―ニューヨークのコロンビア大で授賞式に出席した。

 「とてつもない栄誉だと感じており、純粋にうれしかった」

 ―シリーズの終了後も麻薬戦争は続いている。

 「7月の施政方針演説でも大統領は任期の終わりまで継続すると宣言した。冷酷さにぞっとする。受賞した我々の報道が大統領の作戦に何の影響も与えていないのは悲しいことだ」

 ―取り締まりの成果は上がっていると思うか。

 「方向を見失っているように見える。麻薬の供給は続き、需要も減っていない。スラムに住む救いのない人々だけがいまも毎日のように殺され、供給側や資金提供者、大口の売人は捕まっていない。ひったくりのような一般犯罪は減っているが、麻薬絡みも含めて殺人件数は高止まりで、治安が大幅に改善したとはいえない」

 ―他の分野で大統領の2年余の実績については。

 「経済は今のところ堅調だ。ただインフレ率が上昇し、ペソ安、雇用情勢の悪化傾向もみられる。好調さがどこまで続くか分からない。汚職、腐敗が消えていないことは大統領も認めており、引き続き大きな課題だ。テロ対策などを考えるとバンサモロ基本法成立は成果といえる。連邦制について国民の理解は深まっておらず、憲法改正はまだ見通せない」

 ―ダイハード・ドゥテルテ・サポーター(不死身のドゥテルテ支援団、DDS)と呼ばれる大統領支持者やネットユーザーから写真をさらされたり、攻撃されたりしてきた。受賞後の反応は?

 「これまでのところあくまでネット上の攻撃なので脅されているとは感じないが、物理的な攻撃に転じないか、警戒はしている。動じないジャーナリストを叩いても無駄だと思われていればいいのだが」

 「DDSと敵対する勢力も増えている。ソーシャルメディア(SNS)の投稿に見られる社会の分断や両極化は比でも進んでおり、来年の中間選挙へ向けて危険度が高まるだろう」

 ―ドゥテルテ政権は分断をあおっている?

 「大統領は公の場で敵対勢力を辱める。たとえば『黄色』(野党勢力のシンボルカラー)と呼び捨てる。宥和的な雰囲気を作り出す助けにはならない。大統領の言葉遣い、カトリック教会を含む批判者への攻撃は生産的なものとはいえず、社会の亀裂を深めている」

 ―客観的な事実より、虚偽であっても個人の感情に訴えるものの方が強い影響を持つポスト・トゥルース(脱真実)の時代ともいわれる。ジャーナリストはどうあるべきか?

 「トランプ米大統領やドゥテルテ大統領らは批判勢力を攻撃するだけではなく、主流メディアの信頼、信用を損なおうとしている。SNSの広がりも手伝ってジャーナリズムはポスト・トゥルースの犠牲になっている。正確さに努めることで信頼を取り戻し、SNSで容易に広がるプロパガンダ、偽情報による偏見から自由で公正な姿勢を保つことが喫緊の課題だ。真実のために戦うことをやめてはいけない」

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 MANUEL MOGATO 1962年マニラ生まれ。大学卒業後、地元紙記者を経て、朝日新聞マニラ支局勤務、2003年からロイター通信マニラ支局記者。外国人特派員協会(FOCAP)元会長。

(2018年8月9日付まにら新聞掲載)