北朝鮮で不動産市場が急成長 「闇取引」政権も黙認か

北朝鮮では、表向きには国がすべての不動産を所有している。しかし実際には、政府による住宅割り当てを待たずに、自ら不動産を取得する国民が急速に増えているという。
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Reuters

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世界で最も急成長している不動産市場を挙げるならどこか。その答えの1つは、最も名前が挙がりにくい国でもある北朝鮮だ。同国では住宅を売買する行為は違法とされるが、脱北者や専門家の証言によると、不動産売買は拡大し、手法も洗練されつつある。

北朝鮮では、表向きには国がすべての不動産を所有している。しかし実際には、政府による住宅割り当てを待たずに、自ら不動産を取得する国民が急速に増えているという。

脱北者のKimYoung-il氏は「不動産ブローカーに連絡すれば家を見つけられる」と話す。ブローカーは、食料品や消費財が取引される闇市場で見つかるとされている。

不動産売買は平壌では米ドル建てで、中国との国境付近では人民元建てで行われ、その後、買い手と売り手は住宅関連文書の発行や修正のため、住宅当局者に賄賂を贈る仕組みだという。

不動産市場の活況は、金正恩第1書記が、国民の生活水準向上にもつながる闇市場の存在を黙認していることを示している。

韓国の脱北者支援団体「Organization for OneKorea」の推計によると、脱北者が国に残してきた親族に送金する額は年間1000万ドル(約10億2000万円)に上る。送金は中国の業者を通じて行われている。

前出のKim氏は「北朝鮮では金がものを言う。金があれば中国との国境付近でかなり良い住宅を手にすることができる」とコメント。昨冬には脱北資金が必要だった知人が、国境に近い恵山の集合住宅を4万元(約65万円)で売却したと述べた。

<政府も黙認>

北朝鮮は、金日成国家主席時代に政府が住宅を建設し、国民に割り当てるシステムを作った。その後、1990年代半ばに推計100万人が死亡する飢饉(ききん)が発生し、食糧配給制度が崩壊。それが90年代末に非公式の食品市場が始まる契機となった。

政府が公共住宅ではなく軍備増強に国費を投じたこともあり、不動産取引もそれから間もなくして始まったという。

北朝鮮では住宅の売却、購入、賃貸は重労働刑の対象となる。しかし韓国ソウル大学の和平統一研究所が昨年実施した脱北者133人への調査では、回答者の67%が北朝鮮で自分で住宅を購入していたことが分かった。回答者は全員、2012年に脱北した。

同大学のJeongEun-mee氏は「住宅取引は非公式に大々的に行われている。当局者も取引に関与していることから、政権側は容認する以外ない」と指摘した。

<賄賂はたばこと食料>

韓国の政府系シンクタンク、統一研究院は2013年の報告書で、不動産取引を許可する北朝鮮の住宅当局者は通常、賄賂としてたばこや食料を受け取っていると指摘した。

確かなデータは存在しないものの、脱北者らの話によれば、平壌と中国国境付近の都市では過去10年間で集合住宅の価格が上昇した。

2005年にソウルに来たというLeeYun-keol氏が平壌にかつて所有していた集合住宅の価格は、約10年前の15倍近くとなる10万ドルに膨らんだという。金日成主席と金正日総書記の銅像がある平壌中心部は、水と電気の供給が確実なことから不動産価格も高いとされている。

<新種の「ビジネスマン」>

政権の監視が比較的厳しくない平壌以外の地域では、不動産市場の好況によって建築資材購入や建設請負などを手掛ける新種の「ビジネスマン」が生まれたと、脱北者や専門家は指摘する。

2008年に北朝鮮を脱出したKim Joo-sung氏は、建設請負業者として大金を稼いだ友人がいたとし、「彼は地元で最も裕福な人物になった」と語った。

一方、同国では中国やロシアからの資金援助を背景に建設ブームが進んでおり、政権側も不動産取引に加わっている。朝鮮中央通信社(KCNA)は1月、科学者向けの住宅として平壌に1000世帯分の集合住宅を建設したと伝えた。

同市の新築集合住宅の中には、国営企業が販売を手掛ける住宅もあるとされ、元情報当局者の脱北者は「国営機関は自らが建設した住宅を販売しており、政府も関知している」と明かした。

[ソウル 26日 ロイター]

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