「オトコなんて辞めてやる!!!」家を飛び出した先にあった現実 ダブルマイノリティーな私たちはこうやって生きている

天気の話をするみたいにもっと気軽に話したい。「いい天気だね。僕FtMだよ」みたいに。
|

「どうにかなるかなあ、って思って出てきたの。でもどうにもならなかった」

トランスジェンダー(MtF)でADHD・学習障害を抱えるゆむさん(仮名・20代)は、現在、障害年金を受給しながら暮らしている。2か月で13万円。性転換のことで母親と衝突し、家を飛び出して以来彼氏と同棲中だ。

生活は豊かとはいえない。お金がなく2・3日に一食しか食事をとれないこともある。

セクシュアルマイノリティーであり、さらに身体障害や精神障害などがある人たちのことを「ダブルマイノリティー」という。ゆむさんもそのひとりだ。

彼らはどうやって生活しているのか。そこで、ゆむさんと同じくトランスジェンダー(FtM)でADHD、うつ病を抱えるあすとさん(仮名・20代)と、ゲイで自律神経失調症を抱えるあおさん(仮名・20代)の3人に、今直面している現状を語ってもらった。

「オトコなんて辞めてやる!!!」と言い放って家を飛び出してきた。けど...

Open Image Modal

▲生活費が底をつき、このサンドイッチが3日ぶりの食事だというゆむさん

――現在はどうやって生活しているのですか?

ゆむさん(以下ゆむ):今は主婦かなあ。体の性別を変えることに関して親と喧嘩して、「もういい!」って家を飛び出してから、今はほぼその日暮らし。障害年金はもらっていましたが、家賃と通信費でほぼ消えちゃうのでいつもお金がないんですよね。

今は彼氏と同棲してるけれど、家を出て何カ月かの間はSNSとかイベントで知り合った人にお願いしたり、体を売ったりして、泊まる場所とご飯を確保していました。嫌だと思うこともあったけれど、お金なかったし、家なかったし仕方ないかなって我慢。

あすとさん(以下あすと):少し前は実家暮らしだったのですが、親がいわゆる「毒親」なので、今はシェルターに引っ越して、障害者年金をもらいながら就労支援を受けています。

あおさん(以下あお):以前はアルバイトをしていましたが、いろいろなトラブルがあって、今は働いていません。実家暮らしですし、住むところも食べるものもあるので無理しなくても大丈夫かなと。

「セクマイ」を知ったことで安心できた

――自分がセクシュアルマイノリティーだと気づいたのはいつ?

あすと:小学校6年生の時でした。それ以来自分が「女の子」として育てられたリ、扱われたりすることにずっと違和感があったんですよ。

中学生になるとき、たまたま親の転勤でアメリカに行くことになり、それがきっかけで「セクシュアルマイノリティー」の存在を知りました。「あ、自分はFtMかもしれない」と気づけたのは、自分にとってかなり大きかったと思います。悩んでいるのは自分だけじゃないんだ、って安心できた。

あお:自分は中学校2年生くらいの時。「なんかいいな~~」と思った人が男性だったんですよ。それ以来、ずっと。

ゆむ:私も中学生の時。ネットでゲームをするようになったころからです。オンラインゲームは、見た目も障害も関係ないので気が楽でした。

最初、何となく男性ではなく女性キャラを使っていたのですが、次第にそれが心地よくなっていきました。今思えばそれが、自分がMtFだと気付くきっかけになったような気がします。

――ゆむさんとあすとさんはホルモン治療をしています。親に反対されたりお金もなかったりする中、体の性別を変える決心をしたのはなぜですか?

ゆむ:うーん。やっぱり違和感があるのが嫌だから? 反対されてもお金がなくても、それとこれとは別というか......。体はできる限り女性に近づけたいと思っています。22歳の時からホルモン治療を始めてからこれで3年目だけど、やっと女子っぽくなってきました。

あすと:よく聞かれることなんですけど、私もゆむさんと同じかな。私は性転換手術と戸籍変更もしたのですが、終わってみてやっと本来の自分になれたと思いました。

体の性別にこだわりすぎだと言われることもあるけれど、自分の認識と異なった体はやっぱり元に戻したいんですよね。変えるというよりも、自然の姿に戻したいという感じ。たとえそれにお金がかかっても、ずっと違和感を抱えながら生きたくはない。

自分のことはどんどん話していけばいい

Open Image Modal

▲スマホをいじるゆむさん

――皆さんはセクシュアルマイノリティーであるだけではなく、ADHDなどの障害や精神疾患も抱えています。ダブルマイノリティーとして生活する上で、生きづらさを感じることも多いと思いますが...

あすと:今はだいぶ落ち着いていますが、うつ症状が酷いときは自傷や自殺への衝動にかられて自分をコントロールできなくなりますね。病気の症状が強い時は本当につらいです。

あと、私はADHDも持っているので、落ち着きがなかったりしゃべりすぎたりしてしまい、初対面の人をびっくりさせてしまうことがあります。でもそういう症状は、相手と会話をする前に話せばいいんです。大抵はわかってもらえますよ。

ただ、セクマイと障害、病気を抱えていると、やっぱり就活や就職が難しいかも。私は職場でカミングアウトしておきたいので、面接でもセクマイや障害については話しますが「本当にこんな人がいるのか!」とびっくりされることがよくあります。職場や人にもよるけれど、受け入れ先になかなか溶け込めないこともあった。

ゆむ:私は小学生の時にADHD・学習障害という診断を受けました。ツイッターでMtFや障害のことを書くと「オカマキモい」とか「死ね」とか誹謗中傷をしてくる人がいるんですよね。セクマイ同士での差別もある。

最近驚いたのは、女装はOKだけど、ホルモン飲んだりして体を変えようとしている人はキモい、みたいなことを言ってくる人がいること。匿名性の陰に隠れて卑怯だと思う。自分のものさしでしか物事を判断しない人がいて、そういう人の餌食になるのがセクマイとか、障害を持っている人とかなんじゃないかな。

あお:高校2年生くらいのころから、感じたストレスをうまく発散できず、人と目を合わせるのが苦手になりました。病院では自律神経失調症といわれています。

ちょっとしたことに敏感になったり、急に涙がでてくることもあったりして、こうした症状が人に迷惑だと思われているような気がしてつらくなります。人から何かを言われることはあまりないのですが、私は自分の症状をうまく説明できないので、他人と自分の感じ方のギャップにもやもやしてしまいます。

お金がないから病院には行けない

Open Image Modal

▲心療内科で処方された薬

――病院には通っていますか?

あすと:月に2回通っています。男性ホルモンは経口摂取ではなく、注射をしないといけないので、定期的に通わないとホルモンバランスが崩れて、精神の調子も悪くなってしまいます。高いけど仕方ない。あと、心療内科とカウンセリングにも定期的に通っています。

あお:今は行けていないです。ちょっとお金がなくて......。少し前は、病院で診察を受けたり、薬を貰ったりしていたんですけどね。

ゆむ:私も最近は行けてないなあ。高いんだよね。自由診療扱いになるときは、1回の診察で1万円くらいかかる時があって......。

あと、実家の栃木には、ジェンダークリニックとかメンタルクリニックが一軒もありませんでした。なので、ホルモン治療を受けるときは、何件も婦人科をまわり、やっと治療を受けられるところを見つけました。これは地方に住んでいるトランスジェンダーの人がよくやる方法でもあります。

ただ、ホルモン注射は、1回5万くらいすることもあります。自分の場合、週2回くらい注射しないと効果がなかったので、今は病院はやめて、ホルモン剤を個人輸入しています。2カ月分まとめ買いして。高い。

天気の話をするみたいにカミングアウトできたら

――家族や友人にカミングアウトしていますか?

あすと:私はしています。特にセクマイのことはもっと多くの人に知って欲しいと思っているので、あえてみんなに言うようにしています。大学では講演もしました。

ゆむ:私もしてる。っていうかバレるし。ただ、ツイッターにしてもなんにしても「性」の問題をいやらしくとらえる人が多すぎると思うんだよね。性別は自分のアイデンティティ。自分のことに真剣になって何が悪いの?

あお:私はしてません。親しい人にはしているけど、家族にはまだです。職場の人とかもっとムリ。特にセクマイのことに関してはうすうす感づいてくれたらなとは思うけど。世の中ってかなり異性愛前提でコミュニケーションが回ってるから。わざわざ波風立てたくない......。

Open Image Modal

▲「オープンな私でも精神疾患のことはカミングアウトしにくい」と話すあすとさん

ーーまだまだオープンにしにくい環境がある?

あすと:あるある。性や障害、病気のことをタブー視する人が多すぎるんですよね。オープンにするとみんな引く。時代が変わっているのに、世の中にまだ「壁」があるように感じます。

精神疾患や障害をカミングアウトするのはなおさら勇気が必要。私は両方もっているからわかるけれど、障害や精神疾患に対する偏見は、セクマイに対する偏見よりも厳しいと感じますね。

本当は、セクマイのことも障害のことも、もっとオープンにしていけたらと思うんです。天気の話をするみたいにもっと気軽に話したい。「いい天気だね。僕FtMだよ」みたいに。

【UPDATE 2017/3/2 11:50】

「半年分」は「2カ月分」の誤りであると取材対象者から指摘があったため、修正しました。