共同通信の記事によると、オバマ米大統領が2月9日の日米首脳電話会談で、安倍首相に5月の訪ロを考え直すよう求めていたという。
安倍首相は1月22日にロシアのプーチン大統領と電話で協議し、非公式にロシアを訪問することで一致している。
オバマ大統領の意図は?
オバマ大統領が安倍首相のロシア訪問に懸念を示している理由は、ロシアを孤立させより立場を厳しくしたい、という考えがあるからだ。ウクライナ問題やシリア問題でロシアは欧米諸国と対立しており、特にウクライナでは停戦が合意(ミンスク合意)されているにも関わらず、ウクライナとロシアで対立が続いている。
こうした中で、日本がロシアに近づくと、ロシアがいつまで経っても履行せず、対立が続いてしまうという懸念がある。
また、中東や対ロ、対中国で影響力の弱まっている米国が、このタイミングで日露関係の改善を許してしまえば、アメリカの衰退をさらに印象付けてしまう心配もあるかもしれない。
北方領土問題解決、平和条約締結を目指す安倍首相
一方、日本とロシアは良好な関係にある。安倍首相は日露関係を重視しており、2013年4月、首相として10年ぶりとなったロシアへの公式訪問を皮切りに、ロシアがウクライナ紛争に介入するまで、安倍首相とプーチン大統領は何度も会談し、ファーストネームで呼ぶほど親密な関係を築いている。2014年2月のソチ五輪開会式には、ロシアが直前に成立させた反同性愛法を批判する欧米首相の多くが欠席する中、安倍首相は習近平国家主席らとともに出席している。
ウクライナへのロシア介入の際には、欧米主導の対ロシア経済制裁に日本も参加し、抗議の意味で欧米首脳は5月9日の対独戦勝記念式典を欠席、安倍首相も欠席はしたものの、「日ロ関係を重視する考えには変わらない」という親書を送り、ロシア側への配慮を示している。
背景にあるのは中国の台頭
安倍首相の目標は、北方領土問題解決、そしてロシアとの平和条約締結である。
背景にあるのは、中国の台頭だ。南シナ海の領有権を巡って東アジアは緊張が高まっている。さらに日本は、ロシアと中国、核所有国である二国(+北朝鮮)と接しており、安全保障上の観点からロシアと良好な関係を築く必要性は高い。
また、ロシアと平和条約を締結できれば、アメリカともより対等な関係を持ちやすくなるという考えもあるかもしれない。
見据える先はトランプ大統領?
こうした中で、オバマ大統領から以前から何度も慎重な行動を求める要請がありながら、安倍首相は日露関係を進展させようとしている。この強気な態度の背景には、オバマ大統領のレームダック化(死に体)、大統領選で積極的な外交をしにくい状況がある。
また、共和党候補トランプ氏は「私はテロ打倒や世界平和の回復に向けて、ロシアと米国は緊密に協力できるはずだと常々考えてきた。互いの尊重から生まれる貿易など他のあらゆる利益は言うまでもない」と、ロシア関係を重視する考えを示しており、プーチン大統領もトランプ氏を「聡明で才能に恵まれた人物であることは疑いがない」と高く評価している。
一方、民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官は、過去にプーチン大統領を「フーリガン」と呼んでおり、米露関係の改善に大きな期待は持てない。
そのため、日露関係の進展に関して言えばトランプ氏が大統領になった方が安倍首相としてはいいだろう。またトランプ氏が日本を敵対視しているという意味でも、「トランプ大統領」になれば日露関係は重要になるだろう(関連記事:米大統領候補トランプ「我々は中国と日本を打ち負かすぞ!」ー勝利宣言にて)。
クリントン氏や他候補が大統領になれば、オバマ大統領以上に日本に自粛を求める可能性は高い。
もちろん、安倍首相としては次期大統領が就任する前、つまり年内に北方領土問題を解決したいと考えているだろうが、次期大統領をトランプ氏だと見据えているのかもしれない。
実際、「トランプ大統領」の現実味は増しており(関連記事:現実味を増すブルームバーグが予測する2016年最悪のシナリオ)、既に辞退を決めた「主流派」クリス・クリスティー ニュージャージー州知事もトランプ支持を表明している。
ただ、どちらにせよ、経済的にはうまくいっているか不透明な安倍政権だが、外交的には、慰安婦問題の解決など、非常にいいバランスで戦略的に動いており、日露関係に関しても成果を残す可能性が高いのではないだろうか。今年10月19日は日ソ国交回復60周年である。
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(2016年2月27日「Platnews」より転載)