「南相馬で女性の健康を守りたい」研修医の決意を踏みにじる新専門医制度

南相馬という地域で、女性の健康を守りたい。初期研修医として南相馬に赴任して1年半が経過した今、産婦人科医として南相馬に残ることを決意した。
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南相馬という地域で、女性の健康を守りたい。初期研修医として南相馬に赴任して1年半が経過した今、産婦人科医として南相馬に残ることを決意した。   

そんな矢先、大学の産婦人科の先生から私に一通のメールが届いた。「南相馬市立総合病院の産婦人科は、単独で専攻医はとれない施設です(現在および将来も)。福島県立医科大の研修プログラムで派遣されるのであれば可能という解釈でいいと思います。しかし、実際は産婦人科医が1名しかいない病院に専攻医を派遣することはありません。もしあっても1〜3ヶ月以内の短期でしょうね。」と。

私は、大学に所属して研究がしたいとは全く思っていない。地域のために役に立ちたいと考えている。だが、そうしたいと思った場合、その地域の大学に属さないと専門医が取れない制度が「新専門医制度」なのだ。

私が所属している南相馬市立総合病院は、産婦人科の常勤医師が1名しかいない。お産の件数は、震災前よりもむしろ増えているにも関わらず、常勤医師は1名のままだ。日々の業務に追われるあまり、産婦人科医を育てていく余裕もないそうだ。

そのような状況を見かねて、院長と副院長は国内留学を認めてくれた。「産婦人科医としての技量を身につけてから、南相馬で医療をしてくれたらいい。」と言ってくれた。首都圏の産婦人科の施設も、私の研修に協力してくれると言ってくれた。

実は、産婦人科の研修基幹病院が県内に1つしかない地域は、全国に24もある。このような地域では、大学に所属しなければ専門医を取ることはできない。福島県もそのうちの一つだ。南相馬で産婦人科医として研修しても、専門医を取得することは出来ない。大学に所属するしか道はないが、指導医が1名しかいない病院には研修先として行くことができないとなれば、医師の偏在はさらに悪化すると容易に想像がつく。さらに、大学に所属するしか選択肢がないということは、大学に権力が集中することを意味する。

医師の偏在が問題だ、と厚生労働省は言う。だが、新専門医制度は、医師の偏在をさらに助長する制度ではなかろうか。

というのも、医師の偏在は、西高東低である。特に東京に多い。一方、南相馬市立総合病院には、関西以西や東京から医師が集まっている。初期研修医も、みな県外出身だ。福島県出身の研修医は一人もいない。このように、情報開示や人材の流動化が進み、医師偏在が改善されつつあるのに、厚生労働省の行っていることや新専門医制度の施行は、医師偏在改善とは真逆の行為だと言わざるを得ない。

私は、南相馬で産婦人科医として医療に携わりたいと思っている。専門医を取得するためだけに、医局に所属するつもりは全くない。さらなる医師の偏在を生み、地域の医療を崩壊させるであろう新専門医制度を、今一度考え直す必要があるのではなかろうか。