「都市の生物多様性指標」の活用を/生き物と共生する町づくりへ

「生物多様性の戦いは都市での戦いの成否にかかっている」。

森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を幅広く発信しています。2月号の「時評」欄では、生き物と共生する町づくりを目指す世界の潮流について、京都学園大学教授・京都大学名誉教授の森本幸裕さんが報告しています。

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2016年11月に公表された自治体ランキングで、岐阜県恵那市、大阪府能勢町などが上位集団となっているのは、都市の生物多様性とその恵みから見た総合評価結果だ。そりゃ、田舎だから当たり前だろ、と切り捨てるのはちょっと待ってほしい。生き物の生息場所を奪って発展したものの、内水氾濫やヒートアイランドの逆襲や癒し空間の喪失などの副作用に気づいた都市は、生物多様性保全の取り組みを始める。だから同時に自治体の取り組みや住民参加も評価されていて、こちらには川崎市、神戸市などの政令市も上位に顔を出している。

これらは国土交通省都市局公園緑地・景観課が公表した「都市の生物多様性指標(簡易版)」に基づく。「緑の基本計画」を策定している全国667自治体のうち、同指標の収集が可能であった665自治体を対象とした、国内初の全国的評価結果だ。地球環境問題で最も深刻ともされる生物多様性の危機だが、都市に目が向き始めたのは比較的最近である。

「生物多様性の戦いは都市での戦いの成否にかかっている」。これは名古屋市での生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)開催を前にした、当時のA・ジョグラフ事務局長の言葉だ。当初の取り組みをリードした都市はシンガポールであった。

「測れないものは改善できない」。品質管理に関するデミング賞で有名なW・E・デミング博士のこの言葉を引用して、定量化しにくい都市における生物多様性の取り組みを推進しようとしたのが、シンガポールの国家開発大臣、M・B・タン氏だった。一つの都市が国家でもあり、自然環境を都市の魅力向上を通した経済発展に結びつけているシンガポールならではといえようか。この呼びかけに応じてクリチバ、モントリオール、名古屋市等も参加して「シンガポール指標」とも呼ばれる都市の生物多様性指標(CBI)が開発されるに至った。

いくつかの都市での試行評価結果も受けて、COP10の決議にもCBIは都市の取り組みの進捗状況の管理ツールとして明示され、その後、世界初の都市の生物多様性アセスメントである「都市の生物多様性概況(CBO)」にも記載された。このCBIは、都市の規模や経済状況、位置する気候帯などの属性も明記した上で(a)都市における在来の生物多様性、(b)都市の生物多様性によって提供される生態系サービス、(c)都市の生物多様性の統治・管理、の3要素合計23の指標が設定されている。都市外の生物多様性への負荷(フットプリント)評価が保留されるなど限界もあるが、画期的な試みといえる。

しかし指標全部のデータをそろえるのは簡単でない。精緻さよりも実効性を、ということで簡易版開発で全国レベルの評価となったわけだ。

「緑の基本計画」ではこれまで公園面積や緑被率で目標を定めるのが常道だった。だが、生き物いっぱいの河原を運動公園に整備する時代は終わった。自然の恵みを生かした都市づくりへ、「住みやすさ」や「幸福度」と並んで「都市の生物多様性指標」の活用が期待される。