理解するだけでなく、実践する。 #これからのダイバーシティ をみんなで考えてみた

人の数だけ、ダイバーシティの形がある。
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保育園のお迎えの時間があるので、夕方に会議は入れられない。介護が必要な親がいるから、自宅で仕事をしたい。子育てや介護との両立、長時間労働の防止…いまの時代に合った働きかたを考えるうえで、休暇や時短勤務、テレワーク(オフィス以外で仕事ができる環境)といったダイバーシティ(多様性)の概念は切っても切り離せない。さらに、頭で考えるだけでなく、実際の職場の仕組みに落とし込んでいくインクルージョン(受容・活用)が求められる。

12月18日に開催されたハフィントンポスト日本版のイベント「Work and Life これからのダイバーシティ――子育て・介護・働きかた」(特別協賛・P&Gジャパン)ではこうした課題を解決する「具体的なヒント」を探った。話し合いの様子やイベントの感想はTwitterのハッシュタグ「#これからのダイバーシティ」でも交わされた。

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会場の御茶ノ水ソラシティホールには約300人が参加した。

■ 国谷裕子さん「優秀でやる気のある女性の能力を引き出していくことがダイバーシティの鍵」

基調講演に登壇した元NHK「クローズアップ現代」キャスターの国谷裕子さんは、7年前、社会のあらゆる問題を取り上げてきた番組が、女性の働きかたと経済について扱っていなかったことに気づいた。

「答えは簡単でした。番組の決定権を持つポジションに女性がいなかったんです。だから子育てをしながら働いている女性たちの環境が理解できませんでした。私も男性中心の職場の中で何でもイエスと答え、がむしゃらに働いて認めてもらいたいと思っていました。育休明けの女性の状況に気が回らなかっただけでなく、長時間労働に対する問題意識すらありませんでした。私自身、悪いロールモデルだったんです」

しかし、アジア太平洋経済協力会議(APEC)や世界経済フォーラム(ダボス会議)といった国際会議の場でダイバーシティを学んでいき、女性の番組ディレクターたちに提案し、働きかたの多様性をテーマにした番組を作るようになったという。

「NHKにも変化が現れました。組織横断的に女性が集まり、ダイバーシティやワークライフバランスを取り入れるようになりました。こうした経験から、女性や育児世代が長くキャリアを積めるような職場環境が増えないのは、男性と女性が平等であるという意識改革が進んでいないことが原因ではないかと思うようになりました」

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「上司は、声を上げる女性たちを面倒な存在だと思ってほしくない」と語る国谷裕子さん

女性にチャレンジングな仕事を意識的に与え、優秀でやる気のある女性の能力を引き出していくことがダイバーシティの鍵だと国谷さんは語った。

「女性たちが声を上げて、問題提起をして職場での働きやすさを作っていくことです。社会のムードは変わっていると思います」

■ P&G鷲田淳一さん 「上司の役割はどのように部下を活かしていくのか、輝かせるのか」

続いて、ハフィントンポスト日本版編集長・竹下隆一郎とP&Gジャパンの鷲田淳一さんのトークセッションでは、仕事人間だった鷲田さんが、育児に熱心なパパ「イクメン」、そして部下の育児を積極的に支援する「イクボス」へと変わることができた「秘訣」が語られた。

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P&Gジャパンの鷲田淳一さん(右)とハフィントンポスト日本版編集長・竹下隆一郎

「子供を持つまでは仕事最優先の発想しかなくて、成功して良い結果を出すためには時間をかけるしかないと思っていました。でも、時間をかけるのはいずれ限界が来るんです。残業する、土日出勤する、そして睡眠時間を削るしかなくなる。でも、子供ができたら自分で全部やろうとすると時間がなくなる。だから働きかたを根本的に変えたんです」

働きかたの発想を変えるポイントは、「部下を信頼すること」だったという。

「今にして思えば、部下を信頼していなかった。でも、時間がなくなったから部下に任せるようになった。いや、任せるしかなかったんです。それまでは部下に正しい形で仕事を与えていなかった。上司の役割はどのように部下を活かしていくのか、輝かせるのかという発想に切り替えたんです」

部下に仕事を任せてみて初めて、鷲田さんはある「気づき」を得た。

「一人ひとりに強みや弱みがあって、それぞれ違うんだと言うことです。部下とのコミュニケーションを尽くし、仕事を任せる時にはその理由をちゃんと説明する。だから『言わなくてもわかる』という考えではいけません。言わないとダメなんです。暗黙の了解なんてないんです」

■ ダイバーシティを取り入れ、組織としてのパフォーマンスを上げるために必要なこと

ダイバーシティの啓蒙や実践について考えるパネル・ディスカッションには、NPO法人「コヂカラ・ニッポン」代表の川島高之さん、「チェンジウェーブ」代表の佐々木裕子さん、Googleのブランドマーケティングマネージャー山本裕介さん、ジャーナリストの治部れんげさんが議論をたたかわせた。

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NPO法人「コヂカラ・ニッポン」代表の川島高之さん、「チェンジウェーブ」代表の佐々木裕子さん、Googleのブランドマーケティングマネージャー山本裕介さん

職場にダイバーシティを取り入れ、組織としてのパフォーマンスを上げるために必要なことは何か、パネリストからさまざまな意見が披露された。

川島さん「3つの心がけがあります。1. 部下一人ひとりに丁寧な声がけ、適した指導をする 2. チーム力全体を底上げし、楽しいチームづくりをする 3. 上司としての覚悟を持つ。つまり、部下を信じる、やらないことを決める、自分が暇になる、見栄を捨てるといった覚悟です」

佐々木さん「明確なゴールとビジョンを示す、そして上司が『信じている』と言えるどうかにかかってきます。ダイバーシティの鍵を開けるポイントは、『自分が本当にやりたいこと、悩んでいることに逃げずに向き合う』『外に出て全く違う環境の人と話をして、素朴な疑問をぶつけてもらう』ことです。騙されたと思って試してほしいですね」

山本裕介さん「組織全体に安心感があるチームを作ることです。『この組織にいてもいいんだ、こんなこと言っても怒られないんだ』という雰囲気を作ることだと思います」

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ジャーナリストの治部れんげさんは、「子育てをすると、職場を家庭的に見るようになる」と、仕事と子育ての相乗効果について語った。

人の数だけ、ダイバーシティの形がある。だから、それぞれが思い描く理想的な姿を語り合う――それが働きかたを変えるヒントになるといえる。ハフィントンポスト編集長の竹下は、イベントの最後をこう締めくくった。

「ダイバーシティが必要な理屈や統計はいくらでもあります。しかし、人間らしく生きることはもっとシンプルな欲求なはず。まず、Let's go home(家に帰ろう)と呼びかけたい。家族や友人と話をして、あるいは趣味を楽しんで、そして翌日、職場に戻って上司や部下と働きかたの話をする。それがダイバーシティの第一歩」

ハフィントンポストブロガーで、社会人になったばかりの遠藤真実さんは、イベントに参加した感想を次のように述べた。

「思ったより、社会に出ると人は、『男』と『女』で判断されると感じました。鷲田さんが『一人一人違う人間だ、個人だという風に認識しなければいけない』と言っていましたが、本当はそれが当たり前のはず。性別がその人を構成する一部でしかないということを認識した上で、職場の同僚と接することがいかに大切か考えさせられました」

参加者からもさまざまな感想があった。赤ちゃんを連れて参加したベンチャー企業に務める男性は、「部下には言いやすいが上司には言いづらい。上司が子持ちではないから。実際自分が家庭持ちじゃないと、(家庭持ちの)部下をどれくらい分かってくれるかというと疑問に思うところがある。多分育児をやらないとわからないんじゃないか」と、職場でのダイバーシティ実践の難しさを指摘した。

また、IT企業でWebデザインを手がける男性は、「自分は今まで仕事一辺倒で働いていたが、最近そういった働きかたを見直したいと思っていたところだから、そうした視点を取り入れることが自分の働きかたを変えるきっかけになるのかも、という気づきがあった」と語った。

■登壇者プロフィール(敬称略)

国谷裕子(元NHKクローズアップ現代キャスター)

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79年に米ブラウン大を卒業。外資系生活用品メーカーに就職するが1年足らずで退社。81年からNHKで英語放送のアナウンサーなどを務める。その後、NHKのBS でニューヨーク駐在キャスターとなり88年に帰国。BS「ワールドニュース」のキャスターを経て、93年より『クローズアップ現代』のスタートからキャスターとなり、2016年3月まで23年間、複雑化する現代の出来事に迫る様々なテーマを取り上げた。長く報道の一線で活躍し、放送ウーマン賞、菊池寛賞、日本記者クラブ賞など受賞。


鷲田淳一(P&Gジャパン株式会社 経営管理本部 アソシエイトディレクター )

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1969年生。1993年にP&G入社。経営管理本部の部長級として重責を担いながら、部下や後進の育成に尽力し、社内トレーニング講師もつとめる。また、豊富な海外勤務経験、および多様な国籍の部下を育てた経験をもつ。2016年に厚生労働省「イクメンプロジェクト」による「イクボスアワード2016」でグランプリを受賞。多様な部下が活躍できる働きかたの実現と、自らも社内制度を活用しながら仕事と家庭の充実を実践したことが高く評価された。


川島高之(NPO法人コヂカラ・ニッポン 代表)

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1987年慶応大学卒、三井物産入社、同社関連会社の社長を2016年に退任し独立起業。NPO法人を立ち上げ、“実践を伴った子ども教育”と、“企業や地域などの発展”を目的に活動中。小・中学校PTA会長(元)、イクメンNPOの「ファザーリング・ジャパン」理事も務める。子育てや家事(ライフ)、商社勤務や会社社長(ビジネス)、PTA会長やNPO代表(ソーシャル)という3つの経験を融合させた講演が、年間200本以上。NHK「クローズアップ現代」で特集され、AERA「日本を突破する100人」に選出されるなど、多数メディアに登場。著書 『いつまでも会社があると思うなよ!』 PHP研究所


佐々木裕子(株式会社チェンジウェーブ代表)

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東京大学法学部卒、日本銀行を経て、マッキンゼーアンドカンパニー入社。シカゴオフィス勤務の後、同社アソシエイトパートナー。8年強の間、金融、小売、通信、公的機関など数多くの企業の経営変革プロジェクトに従事。マッキンゼー退職後、企業の「変革」デザイナーとしての活動を開始。2009年チェンジウェーブを創立し、変革実現のサポートや変革リーダー育成など、個人や組織、社会変革を担う。キャリア形成や女性の働きかたに関する講演も多数。著書『実践型クリティカルシンキング』『21世紀を生き抜く3+1の力』ディスカバー21


山本裕介(グーグル合同会社 ブランドマーケティングマネージャー)

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大手広告代理店を経てTwitter日本上陸時のマーケティングとPRを担当した後、2011年グーグル入社。テクノロジーによる女性活躍を推進するWomen Will、デジタルでの地域経済活性化を目指すInnovation Japan、国政選挙でのインターネット活用などのマーケティングを担当。内閣府 男女共同参画会議専門委員。テレワーク、リモートワークを活用し家族の看病をするなど多様な働きかたも経験。夫婦で東京・青山で飲食店を経営したことも。4歳と2歳の二児の父。

治部れんげ(ジャーナリスト)

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ジャーナリスト。昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員。1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社入社。経済誌の記者・編集者を務める。その間、2006〜07年ミシガン大学客員研究員としてアメリカの共働き子育て先進事例を調査。14年からフリーに。国内外の共働き子育て事情について調査、執筆、講演などを行う。著書『稼ぐ妻・育てる夫―夫婦の戦略的役割交換』(勁草書房)、『ふたりの子育てルール』(PHP研究所)。息子(小学生)と娘(年中)の母親。家事・育児を夫婦で半々に分担しながら、核家族の共働き子育て9年目。考え方の基本は「大人に市場主義、子どもに社会主義」。東京都男女平等参画審議会委員、日本政府主催の「国際女性会議WAW!」アドバイザーズメンバー、一般財団法人女性労働協会評議員などを務める。Twitter:@rengejibu

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■後援

朝日新聞社

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アメリカ大使館 商務部

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