最近は、多くの企業が人事戦略として掲げる「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」という考え方。
ハフポスト日本版が10月に企業に対して行なったD&Iに関するアンケートでは、多くの人事担当者が「社内におけるD&Iの浸透」に課題を抱えていることが分かりました。
D&Iの取り組みは、社内で後回しにされがち…。
経営者や役員、そして社員にどうやってD&Iの考え方を伝えていけばいいんだろう。
ハフポスト日本版は、社会の課題を伝えるだけではなく、当事者と一緒に、読者のみなさんと一緒に課題解決に寄り添うメディアでありたい。
そんな思いから、私たちは「D&Iを1から考えるイベント」の2回目を12月上旬に開催。LGBTQ(性的マイノリティ)への取り組みという観点から、専門家とLGBTQ施策に力を入れる先進企業を招き、D&Iを社内で浸透させるためのヒントを探りました。
マイノリティへの施策って、当事者以外の社員にも「良いこと」あるの?
「マイノリティへの施策って、当事者以外の社員には正直関係ないんじゃないの…?」
D&Iやマイノリティへの施策が「二の次」にされがちな背景には、そもそもマジョリティのこんな本音もあるのではないか。
そんな声に対して「マイノリティが働きやすい職場はマジョリティにとっても働きやすい職場」と話すのは、企業や行政に向けてLGBTQに関する研修やコンサルタントを行う特定非営利活動法人「虹色ダイバーシティ」代表の村木真紀さんだ。
村木さんによると、LGBTQへの取り組みがうまくいっている職場には「ある共通点」があるという。
それは、社員同士のコミュニケーションが活発で、職場で笑顔が多いこと。
LGBTQに限らずマイノリティへの配慮がある職場は「多様な社員の存在」が認められている環境だ。そんな環境では、社員が職場で悩みや意見を言いやすく、またハラスメントや差別的な言動があっても誰かが指摘できる。それが円滑な人間関係や働く意欲、会社のリスク回避にもつながり、ひいては生産性の向上にも貢献する。
マイノリティへの配慮が結果的に、マジョリティの社員にとっての働きやすさ、企業の持続的な発展につながっていくのである。
「LGBTQ施策の目的は『働く人が幸せであること』。それは『良い職場作り』の目的と一緒だと感じています」と村木さんは話す。
LGBTQ施策を浸透させるためにはどうしたらいい?先進企業にズバリ訊いた!
一方で、目先の業務や利益に追われる現場に、いかにD&Iの重要性伝えていくかが一番の課題。言葉や制度だけが存在して、行動や意識が伴っていない職場も多いかもしれない。
そんな課題に自社の視点からアドバイスしたのは、LGBTQへの先進的な取り組みで知られる日本航空株式会社と株式会社ラッシュジャパンの人事担当者。業界や規模、風土も異なる2社だが、意外にも共通したアドバイスが返ってきた。
◾︎会社のスタンス”を社員に明確に示すこと 日本航空
2019年8月に日本で初めて「LGBT ALLY チャーター」を運航させた日本航空。
Ally(アライ)とは、LGBTQ当事者に共感し、寄り添いたいと思う人たちのことを指す。
人財戦略部人財戦略グループでグループ長を務める百田寛さんは「弊社も全社的な理解という点では、まだまだ発展途上」と前置きした上で、理解浸透のためには「会社のスタンスを社員に明確に示すこと」が重要ではないかと話す。
チャーター便の運航や全国各地のプライドイベントに出展するのは、もちろんLGBTQへの理解促進を図るための社外への発信という側面もあるが、社内に向けた発信という意味合いも大きいのだという。
「『私たちはLGBTQアライの企業だ』というスタンスをはっきり示すことで、社員一人ひとりのLGBTQへの意識も高まります。当事者の社員には『この会社で働き続けられるんだ』と安心してもらうことができる。対外的な活動を、社員の意識向上や自信、活躍につなげていく。そういうサイクルでLGBTQ施策を回していきたいなと思っています」
◾︎「我々は何者であるか」をビジネスとして社会に発信する ラッシュジャパン
「全ての人がハッピーであるべきだ」という根本思想から、LGBTQの人権を社会的課題として位置づけ、店頭でお客様に直接訴えてきたラッシュジャパン。根底には「ビジネス上の利益よりも倫理観を優先する」という姿勢がある。
社内のLGBTQ施策についても、戸籍上同性間のパートナーを「配偶者」とみなす社内制度や、性適合手術を受ける際も傷病休職と同様の取り扱いとするなど先進的な制度を設けている。
人事部部長 安田雅彦さんは「弊社では、ほぼ全ての社員がLGBTQについては同じ理解だと思っています」と自社のD&Iの浸透に自信を持つ。
「『我々は何者であるか』を社会にはっきり打ち出しているからこそ、その思想に居心地の良さを感じる社員が残っていくし、集まってきます」安田さんはそう話す。
「体験・体感」がアライの輪を広げる
企業がD&Iやマイノリティへのスタンスを明確にし、社員一人ひとりに「自分ごと」としてD&Iの重要性を理解してもらう。理解浸透はこのように進んでいくが、社内に「アライ」を増やしていくという過程でもある。
安田さんは「マイノリティが発信するより、当事者ではないマジョリティが『自分ごと』として発信した方がより伝わりやすいのではないか」と、マイノリティの「小さな声」を大きな「うねり」に繋げていくのはアライの役割だと話す。
LGBTQの当事者である村木さんも「当事者でないからこそ主張できることがある」とアライの重要性を訴える。
「当事者は自分の主張が否定されたとき、同時に自分自身を否定されたような気持ちになるんですね。でも、アライならばそこは傷付き過ぎず、強く、冷静に発信できるという面はあると思います」
それでは、どのようにアライの輪を広げていけばいいのだろうか。
見えてきたのは「体験・体感」というポイントだ。
日本航空では、社員から各地のレインボープライドのボランティアを募る中で、徐々にアライの輪が広がってきたという。
プライドイベントのブースでは、来場者に「好きな制服をきてもらう」取り組みを行う。性別を気にせず、パイロットや客室乗務員の制服を嬉しそうに着ている人々の笑顔が印象的だという。
「みなさん『本当はこれを着たかったんだ!』ってすごく喜んで下さるんです。見ている我々もとても嬉しいですし、そういったポジティブな感情からアライの輪が連鎖しているのかなと感じます。やはり、実際に当事者と関わり合いを持つことで“自分ごと”として考えやすくなるんだと思います」百田さんは話す。
百田さん自身も、人事担当になった直後の2019年4月、初めて東京レインボープライドに参加。D&Iに取り組む自身のマインドにも「変化」があったという。
「東京レインボープライドは公園全体から力が湧き出るような、とてもエネルギッシュな2日間で…。すごく刺激を受けました。一方で『このエネルギーは残りの363日、どこに行ってしまっているんだろう』という疑問も残りました。『それでは、普段から社員がエネルギーを発散できる場を作ることで、LGBTQ施策により積極的に取り組むことができないか』。そんな課題意識が、今の活動の原点になっています。そんな風に『パチン』と、社員一人一人の心にスイッチが入る瞬間が大事なのかなと思います」
村木さんは、アライの社員に「自分とLGBTQの同僚や部下、家族などの“原体験(ストーリー)”」を語ってもらうことも、周囲の共感を呼びやすいと話す。
「ぜひ当事者に会いに行って、実際の声を聞いてみてください。知識だけではなく、マイノリティと生身の人間として接し、彼らが身近にいると感じる方が大事だと思っています。そうすると、アライが発する言葉にもパワーが出てきて、より伝わりやすくなります」
ハッピーな組織を作るのは、一人ひとりのハピネス
イベントからは「職場におけるD&Iの浸透」に関する様々なヒントが見えてきた。
一方で、「あなた」の組織でD&Iを浸透させるのは、経営者や上司、人事部だけではなく「あなた自身」でもあることをぜひ忘れないでほしい。
「自分がハッピーに働かないと、周りをハッピーにすることはできない。皆さんももっと自分のハッピーを追求してみてください」ラッシュジャパンの安田さんは最後にこんなメッセージを送った。
ダイバーシティとは決してマイノリティだけを意味するのではなく「あなた自身」。そして、あなたが自分らしくハッピーに働くことが、D&Iだ。
だからこそ「自分が幸せに働くために」、ぜひ職場のD&Iに向き合ってみてほしい。
ハフポスト日本版はこれからも「D&Iを1から考える」イベントを読者の皆さんと作っていきます。