ダイバーシティ&インクルージョンとは? それは会社に”みんなの居場所”があるということだと思う。

「D&Iを1から考える」イベントから見えてきた、違いを組織の力にするためのヒントとは。
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左から、犬塚麻由香さん、原夏代さん、酒寄久美子さん
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なぜ今、D&Iなの?

オフィスを見渡せば、様々な人が働いている。性別、人種、年齢、宗教などの違いはもちろん、生き方や働き方に関しての意見もバラバラだ。

昔は一つの会社で定年まで勤め上げ、年功序列で出世していく「一つの道」が当たり前だった。会社に求められる人物像も固まっていたように思える。

しかし、今はまったく違う。女性の社会進出も増えたし、ビジネスのグローバル化によって働いている人の国籍も多様になった。育児や家事をする男性も前よりは多い。そんなとき、会社の「ダイバーシティ(多様性)」と「インクルージョン(それを受け入れること)」、すなわち「D&I」が大切になってくる。英語だと分かりにくいけど、要するに誰もが会社に「居場所がある」ということなのではないか。

ハフポスト日本版は、D&Iに先進的に取り組む3つの会社の担当者に集まってもらった。

最近導入する企業が増えてきた「ERG」って?

D&Iを考えるにあたって、今回私たちが注目したのは「ERG(Employee Resource Group)」について。

ERGとは性別や民族、ライフスタイル、性的指向など、社員が共通点をもとに作る企業内のグループのこと。たとえば、LGBTQや外国籍の社員、育児と仕事を両立する女性社員が社内で作るグループなどがよく見られる。サークルのようなものだが、最近では、企業がこうした集まりを積極的に支えようとする動きが出てきている。D&Iの取り組みの一環で推進する企業が増えてきているという。

集まってもらったのは、株式会社みずほフィナンシャルグループ、デロイト トーマツ グループ、株式会社セールスフォース・ドットコム。それぞれ、業界も企業文化も異なる3社。どのようにERGを取り入れているのだろうか。

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みずほフィナンシャルグループ ダイバーシティ&インクルージョン推進室 室長の犬塚麻由香さん
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グループ内のつながりを強化し、イノベーションの源泉へ

<みずほフィナンシャルグループ>

みずほフィナンシャルグループは、2016年にD&Iを経営戦略として位置づけたという。

「グループ内の社員のつながりが弱く、遠くの“知”が出会う機会がないため新たな気づきが生まれにくいことを課題として認識してきました」。同社のダイバーシティ&インクルージョン推進室の室長を務める犬塚麻由香さんは、ERGの導入のきっかけをそう話す。

そこで同社は、グローバル企業の事例なども参考にして、ERG活動を推進。会社は「黒子」に徹し、若手や外国人社員、中途社員をはじめ、会社に対する課題意識を持つ社員に企画や運営を任せることで自律的なつながり拡大を可能にしたという。

「ERGにより、社員の主体性やエンゲージメントも高まっています」

犬塚さんはそう手応えを示しつつ、今後の課題にも触れた。

「今後は点の取り組みをつなげて面にし、変化のうねりに昇華することが目標。社員の中に会社をより良くしたいという課題意識のマグマがあることは分かったので、私たちはそこに火をつけて煽り、サポートすることが役割だと思っています」

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デロイト トーマツ グループのボード議長室長ならびにグループのD&Iリーダーを兼務する原夏代さん。
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 社員同士が業務を超えてつながり、学びあうきっかけに

<デロイト トーマツ グループ>

「社員一人ひとりの本来のパワーがより一層発揮され、Inclusiveな職場環境の実現やビジネスケースにつながるという考えのもとERGに取り組んでいます」

デロイト トーマツ グループのD&Iリーダーの原夏代さんは、同社がERGに取り組む目的をこう語る。

原さんは、LGBTに対する周囲の理解を深め、当事者をサポートする環境をつくる「Ally(アライ=支援者)ネットワーク」など、同社の3つのERGを紹介。会社主導で始まったERGだけではなく、社員の「草の根的な活動」から始まったものもあるという。

ERGの存在が「違いがあっても受け入れてくれる環境があるという会社への安心感、悩みや辛い経験を共有することによる社員同士の信頼感にもつながっています」と原さん。

ERGは、社員同士の「横のつながり」を強固にし、社員の情報交換や学び合い場としても役立っているという。

「普段業務では関わらないメンバーとコミュニケーションをとることができ、多様な考え方をインプットできる貴重な機会となっています」と原さんは話す。

外国にバックグラウンドを持つ社員も多数働くデロイト トーマツ グループ。一方で、クライアントの多くは日本企業であり、外国人社員にとって文化や言語が壁になっていることも事実だ。そうした課題をERGを通して解決していくことが、今後の目標の1つだという。

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セールスフォース・ドットコム人事本部 人事プログラムシニアマネージャーの酒寄久美子さん
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グローバル全体で2人に1人は何かしらのERGグループに参加

<セールスフォース・ドットコム>

「Equality(=平等)」という言葉を使い、「すべての人が活躍するために機会の平等を与える」ことがD&Iと考えているセールスフォース・ドットコム。同社の酒寄久美子さんは機会の平等を実現するためのワークプレイスを構築する担当だ。

同社ではERGを「Equalityグループ」と呼び、世界各地で12のグループが結成されている。その中でも、LGBTQ社員とそのAllyによるグループ「Outforce(アウトフォース)」を中心に、世界32都市、のべ4600人超の社員が今年のLGBTQの祭典「レインボープライド」に参加したことを紹介。

酒寄さんは「グローバル全体で2人に1人は必ず何かしらのグループに属しています。自身のバリューを発揮するためには、Equalityグループに参加するのが当然という文化になっているんです」と話し、「D&Iにはゴールがないので、他社の取り組みも参考に、まだまだ学びながら進めていきたいです」と結んだ。

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コストはかかる。最初の一歩は小さくてもいい。

イベント終盤には、参加者から「会社のコストという面で考えたら、D&Iを推進することがマイナスになるのでは」という質問が出た。

すぐに目に見える形で効果が出にくい一方で、推進する会社側の負担は小さくない。今度、新たに導入を目指す上でネックになる部分だ。

この問いに対して、3社からは等身大の答えが返ってきた。

みずほフィナンシャルグループの犬塚さんは「まさに同じ悩みを抱えています。D&Iの必要性は分かっているけれど、まだ社内でのビジネス成果に結びつく事例が積み上がっておらず、短期的にはマイナスに働く懸念があるので既存の組織の仕組みと併行して推進し、成功事例を積み上げるようとしています」と話す。

セールスフォース・ドットコムの酒寄さんは、D&I推進の難しさに共感しつつ、企業における多様性の重要さを示した。

「同質性の中で仕事をしていた方が楽、成長が早いというのは確かにあるかもしれない。でも、それは会社の創成期だけあって、ずっと続くわけではないんです。成長が止まった時には多様性がない限り前に進めないということを、会社の歴史の中で痛感してきました」

こうした意見を受け、デロイト トーマツ グループの原さんは「D&I、ERGってそんなに大きなものとして考えなくても良いんです。社員同士、社外とのネットワークをちょっと広げるだけでもD&Iにつながるし、企業が成長するためにも大切なことなので、小さなところから始めてみてほしいです」と、アドバイスを送った。

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イベントではワークショップも開催。「毎日、会社に来たくなる施策」をグループで発表した。参加者からは「このメンバーだからこそ出たアイデア」「自分だけでは思いつかなかった」とワークショップを振り返り、違いが力になることを実感した様子だった。
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イベントを終えて:担当者が感じたこと

イノベーション、フレームワーク、コンプライアンス…。会社にとって大事なのは分かるけど、ビジネス業界では新しい横文字がどんどん増えていってついて行けなくなるのも確かだ。今回のイベントを開いて感じたのは、こうした横文字の新語を「自分の言葉」で置き換えてみる大切さだ。

「D&Iって、一人ひとりの“私らしさ”を、会社の力にしていくことなんだと思う」イベント終了後、参加者の1人は、こんな言葉で「D&I」を理解していた。

集まってくれた3社も、D&Iを自分たちの言葉で再定義し、それぞれの組織カルチャーに適した形でD&Iを進めようと奮闘していた。

まずは自分なりの言葉で置き換えて、理解してみる。そうして初めて、言葉を「自分ゴト」として考えられるようになる。

ハフポスト日本版は、D&Iを、誰もが会社に「居場所がある」ということだと考えている。私たちは、「D&Iを1から考える」イベントをこれからも開いていきます。