まとまりつつある派遣制度改正の具体案。背景には派遣会社と労働組合の事情?
労働者派遣制度の改正に向けた具体的な動きが出てきた。これまで特定業種以外では3年を超える派遣が禁止されていたが、これを見直し、すべての業種で3年を超える派遣を認める。
一方で、同じ派遣労働者が3年を超えて働くことはできないという制限は残す。おおまかな方向性は8月に厚生労働省の有識者会議が提出した報告書に示されていたが、これを受けて、労使双方が参加する審議会において具体策が検討されている。ただ、ここには派遣会社の淘汰や労働組合の維持という事情も見え隠れしており、制度改正が派遣労働者のためになるのかは不透明だ。
これまでのルールでは、アナウンサーなど26種類の特定業務を除くと、派遣会社が3年を超えて派遣社員を派遣することができなかった。
新しいルールでは、これを見直し、派遣先の会社内部で労使双方の同意が得られれば、3年を超えて派遣を続けることが可能となる。ただ同じ人物が、継続して派遣することはできず、3年を超える派遣を実施する場合には、派遣会社は別の人物を見つけてくる必要がある。
また26業種の区分をやめ、同じ人物が3年を超えて派遣できるかどうかは、業務の内容ではなく、派遣元と無期限の雇用契約を結んでいるかどうかで決めるという具体策も検討されている。
一連の具体策は、派遣先企業と派遣元企業の意向が大きく作用しており、派遣社員側の視点はあまり反映されていない。
派遣先企業は、人が変わるとはいえ、同じ業務を継続して派遣会社に依頼できるというメリットがある。そうなってくると、企業はいつでも契約を切れる派遣社員への切り替えを積極的に進める可能性が高く、場合によっては正社員の雇用枠が狭くなる。労働組合はこれを強く警戒しており、派遣労働者の継続受け入れについて労使双方がチェックする制度の導入を求めている。
一方、この具体策は一部の派遣元企業にとって朗報となる。これまでは、3年が経過すると一度契約がストップとなるので、再びゼロから他の派遣会社と競争しなければならなかった。だが新しいルールが適用されれば、一度契約を獲得してしまえば、継続して派遣を行うことが可能となる。
また、受け入れ側の企業は、3年ごとに交代する要員についてしっかりとした引き継ぎを行いたいという希望を持っており、交代要員を豊富に抱える大手の派遣業者にとって有利になる。結果的に企業体力のある大手派遣会社の寡占化が進む可能性が高い。
派遣社員から見れば、もともと3年を超える連続派遣が禁止されており、今回の改正で大きく状況が変化するわけではない。ただ、今回の改正案では、派遣会社による雇用安定措置の実施が求められており、これが厳格に適用されることになれば派遣社員としての身分は多少、安定することになるかもしれない。ただ、改正案の具体的な中身は、労使や派遣会社の事情に大きく左右されている状況を考えると、多くは期待できないだろう。
【関連記事】
関連記事