一番の防災対策は、市民の「よこしまな気持ち」を刺激すること。

今日は防災の日。東北地方太平洋沖地震や広島の土砂災害の例を挙げるまでもなく、日本には自然災害のリスクが多数潜んでおり、過去の教訓に学びその「備え」を見直す日でもあります。
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今日は防災の日。東北地方太平洋沖地震や広島の土砂災害の例を挙げるまでもなく、日本には自然災害のリスクが多数潜んでおり、過去の教訓に学びその「備え」を見直す日でもあります。

私はこれまで数十回被災地に足を運んできましたが、被災された方が繰り返しおっしゃっていたのは、「与えられたマニュアル通りの訓練は当てにならない。大切なのは自分たちの頭で考えておくことだ」ということでした。防災教育に長年携わっている方は、「行政(公助)に頼るな」と口を酸っぱくしておっしゃいます。阪神・淡路大震災では、自力で脱出したり、家族、友人、隣人等によって救出された割合が9割を超えており、救助隊によって救助されたのはわずか1.7%であるという調査結果もあります。

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防災対策に限ったことではありませんが、私たちは何かあるとすぐ、「政府や行政はどうなっているんだ」と問い、国や都、区の対応を小さなミスを批判します。もちろんそれも必要ですが、「では、あなたは」と聞かれると答えられず、思考停止してしまいます。実際、防災グッズ一つをとっても震災後すぐに売り上げは落ち込むなど、自らの備えについては震災後も相変わらずほとんど変化がないのが現状です。私たちの多くは基本的に他の誰かに任せっきりで、主体的には動き出さないのです。

このような現状にあって、敢えて行政がするべきことは何か。それは、市民の主体的な意識を引き出し、行動を後押しすることだと思います。情報を徹底的に公開した上で対策がまだ足りないこと、そもそも絶対安全を保障することなどできないという現実を明らかにすること。必要最低限の対策は確実にした上で、後は区民が自発的に動ける環境づくりに専念するのです。東北地方太平洋沖地震の際、約3,000人の小・中学生が自身で判断し、避難場所より高い場所に移動して津波を逃れた「釜石の奇跡」は有名ですが、このような奇跡を生む防災教育が未だ一般化されていない日本においては、簡単に「自己責任」と言わず、防災意識を引き出すちょっとした仕掛け作りが重要だと考えます。

宮崎市教育委員会では現在、教育指導の手引づくりを進めています。小学校では2泊3日の集団宿泊学習を実施し、段ボールを使ってトイレの覆いや更衣室を設置したり、ひもと弓で火おこしをしてカレーをつくったりするなどのサバイバル訓練を行っているそうです。教育課程の中に防災教育を盛り込んだ上で、自ら考える力を身につけることを目標としています。

防災訓練にエンターテイメントの要素を掛け合わせた「アカリトライブキャンプ in赤坂小学校」(先月の22日、23日に実施)は、アーティストのガクエムシーさんらによって企画されたものですが、地元町会や企業などの協力も得て、小学校のPTAの方々や若者などいつも訓練に参加しない層がたくさんいらしていました。いざという時に避難所になる学校に泊まるという体験は子どもたちだけでなく、大人にとってもいい経験になり、早速自宅の防災状況をチェックしたり、防災グッズを買ったりした人が多数だったようです。

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昨年、町会・自治会による防災訓練に参加した港区民の数は3,884人。その他の訓練に参加した人を合わせても、参加率は3%ほどにとどまります。企業によっては防災訓練をほとんど実施していないところもあります。参加のハードルを下げるためには、行政が毎年行っているお祭りや民間のイベントに便乗させていただき訓練を実施するなどの方法も考えられるでしょう。楽しみながら学ぶ防災訓練を展開しているNPOと協力するのもよいかもしれません。震災時、毛布や畳など身の回りにある物を担架がわりに使った経験を生かしたプログラムや、人命救助や消火など、防災にちなんだ知恵や技を体操の動きに盛り込んだプログラムなどを提供する「プラスアーツ」という団体もあります。

最初は市民の「よこしまな気持ち」を刺激するゆるい企画でもいいと思います。たとえエンターテイメントが入口でも、一度参加したら、そこでマニュアルや押し付けられた訓練を超えて「自分ごと化」できたら、後は自らどんどん考えていくようになります。とにかく「最初の一歩」が大切。「万全な防災対策などできない」という前提に立ち、地域の共助の仕組みをサポートするのと同時に、市民のお尻に火をつけることに徹すること。行政にはこれまでにない発想で、多くの人をやる気にさせるアイディアが求められています。

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