人を支えるさまざまなテクノロジーの発展を推進する「テクノロジー・ネットワーク」では、9月11日に「デジタルマーケティング・トークセッション■あなたの知らないデジマの世界■」を開催しました。今年のテーマはメンバー投票で決まった「デジタルマーケティング」。デジタルコンテンツを含むマーケティングであれば、なんでもそう呼べる今、テクノロジー・ネットワークならではの切り口とは?
■ デジタルとアナログの考察
エレクトロニクスをテーマにした去年のキックオフセッションでは、電子機器に必要なアナログ技術の話がありました。考えてみると、自身が生きてきた40~50年の中でも、時計、電話、テレビなど身近なものがアナログからデジタル化されてきました。マーケティングがデジタル化されたのは、Wikipedia曰く1990年代からとのこと。スマホとSNSが普及したこの10年で、デジタルマーケティング(デジマ)という言葉が身近になり日々連呼されてきました。
■ さまざまな視点の交差
今年のトークセッション開催にあたり、運営委員と何度も話し合い、いろんな勉強会での情報収集し、さまざまな立場の視点を交わらせたいという考えで、「デジタルマーケティング・トークセッション■あなたの知らないデジマの世界■「テクノロジー・ネットワーク」 2017」を開きました。
スピーカーとしてデータ連携ソリューションを提供するティーリアムの安藤 嘉教氏が技術トレンドを、テクノロジーを生活者に届ける施策を打つ博報堂ケトルの畑中 翔太氏が事例を、BtoBのデジマを極めるKDDI 中東 孝夫氏が理論と実践論をプレゼンテーションし、パネルディスカッションの議論を長寿コラム「一歩先を行くデジタルマーケティング」筆者で幅広いデジマ実践者のアドビ 熊村 剛輔氏が率いました。
■ ティーリアム安藤氏:デジタル・トランスフォーメーションが牽引する技術トレンド
ティーリアム安藤氏が紹介した技術トレンドは、①米国の小売業界を筆頭に生き残りをかけてビジネスを根本的に変える「デジタルトランスフォーメーション」、②多元化するタッチポイントからの顧客の情報を一元管理する「シングルカスタマービュー」、③ひとりひとりの最適な時間にアプローチする「リアルタイムアクション」、④アプローチできていない匿名顧客に訴求する取り組み「アノニマス」、⑤2018年5月EU施行のGDPR(一般データ保護規則)に対応する「データガバナンス」の5つ。複雑化する環境の中でデータ統合の重要性が繰り返し述べられました。
■ 博報堂ケトル畑中氏:デジタル技術の人間化、人肌化
博報堂ケトル畑中さんの代表的な事例は、今年の第9回日本マーケティング大賞を受賞したユニバーサルピアノ『Eye Play the Piano』。特別支援学校の生徒が、手を使わずにヘッドマウントディスプレー経由の目線の動きでピアノを演奏するプロジェクト説明の後、コンサートのメイキングビデオが流れました。わたしは普段BtoB・IT分野で企業の理性的なカスタマージャーニーを追う身として、人の心に触れるこの取り組みはとても感動的で、何度聞いてもいい話でした。
■KDDI中東氏:BtoB・ITマーケティングの改革
KDDI中東さんは、BtoCの消費財メーカーからBtoBに転じ、様々な外資IT企業でのマーケティング経験をもとに昨年KDDIに参加して進める、法人マーケティングを強化する取り組みを発表しました。それは、①組織ミッションの定義、②コミュニケーションの拡充、③組織を変えるチェンジ・マネジメント、の3点です。
組織がなすべきミッションを定義する上で大切なのはいわゆるKBOツリー。これは、組織の数値ゴールKGI(Key Goal Indicator)、それを支える非数値指標KBO(Key Business Objective)、それを実行に移す数値目標KPI(Key Performance Indicator)を明示、体系化するものです。
コミュニケーションの拡充は、自社が特定の分野における思考的先進性を示すソートリーダーシップ(Thought Leadership)の認知獲得を目標に、権威あるメディアによる発信、調査会社からの発信、自社発信、を統合的マーケティングコミュニケーション(IMC)施策として組み合わせます。
チェンジ・マネジメントでは、KBOに従ってチーム各員が自らKPIを定めることで有言実行を促す、変化への抵抗をひとりひとりとのコミュニケーションで変えていく、という生々しい努力が説明されました。
■パネルディスカッション:データ活用、人材育成、メディア発信
パネルディスカッションでは、マーケティング上のデータを成熟させるためのモデル作りの重要性、実際のデータ活用のPDCAとリアルタイム性の確保、BtoB・BtoCのマーケティング施策の相関、人材育成のための手本(ロールモデル)の提示と自主性に任せる自己同一性への働きかけ、自己発信とメディアへの働きかけの強化策などが議論されました。懇親会では講師への質問のほか、参加者同士の議論も盛り上がりました。
すべてのプレゼンが、ノウハウではなく考え方を提示する学びが多いものでした。そして、参加者同士でビジネスやマーケティングの話ができ、自分の業務に即、適用できるものがいくつもありました。結局、何がデジマかと言えば、デジタル化された社会の中ですべてのマーケティングはデジマの一部、というのが所感でした。運営側として反省多く身が縮む思いをしましたが、「またぜひ呼んでください!」と晴れやかな声に勇気をもらいました。ありがとうございました。またやりたいと思います。
※本稿は「コウタキ考」の転載です。