スマホなんていらねえよ、夏。「デジタルデトックス」で何が大切か気づいた

何も考えない時間って、こんなにも心地いい
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リディラバ

スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器に、1日どれぐらいの時間を費やしているのか、私たちはあまり考えたことはないだろう。

もはや私たちの生活にとって欠かせないデジタル機器。特にスマホが普及してからは、若い人を中心に四六時中触っている人も珍しくない。

インターネットがあれば、世界中のさまざま情報に触れることができ、時や場所を問わずたくさんの人とつながり合うことができるのも大きな魅力だ。

その一方で、他人の言動が気になってFacebookやTwitterといったSNSを常にチェックしていないと不安になる人や、絶えず届くLINEのメッセージに返信しなければという強迫観念に悩まされる「SNS疲れ」も起きている。

こうした背景から、「つながりすぎ」「デジタル依存」の解決策として、デジタル機器から離れる「デジタルデトックス」が注目を集めている。

一体、どんな効果があるのだろうか?

■スマホを預けて「五感を開く」

一般社団法人「リディラバ」が催行しているのは、デジタル機器を手放して、鎌倉の自然を練り歩く「デジタルデトックスツアー」。参加費2900円を支払って、体験取材した。

当日はあいにくの雨模様。午前9時半、2人組の女子大生や夫婦、ひとりで参加した男性ら十数人が、鎌倉駅に集まった。

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宇治さんがツアー概要を説明する
リディラバ

「このツアーは五感を開くことを目的にしています」。ガイドの宇治香さんが口を開く。あらましを説明し、参加者の自己紹介へと移る。

「デジタルに依存があってフラットに戻したい」と語る横浜市からひとりで参加した男性のように、みんなスマホから離れた生活や普段とは違う体験を求めてやって来るようだ。

ツアーを始める前に大事な儀式がある。リディラバの滑川永さんが布のバッグを持って回り、参加者のスマホを回収する。デジタル機器を持ち込まないことが参加条件だ。

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ツアーはスマホ使用禁止
Rio Hamada

これで準備が整った。

一行が向かうのは、駅の東側。観光客でにぎわう小町通りや鶴岡八幡宮とはうって変わり、住宅街に寺などが点在する静かなエリアだ。

朱塗りが印象的な琴禅橋を渡って、妙本寺に向かう。ここは日蓮宗の本山の一つで、「源頼朝の御家人だった比企一族が北条家に滅ぼされた場所でもあります」と宇治さんが説明する。

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朱塗りが目を引く琴引橋
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石段を上がると、山門の手前の花壇に紫陽花が広がる。淡い青色が雨に濡れた"インスタ映え"しそうな光景を前に、本来ならスマホやカメラのシャッターを切りたいところ。それができない分、みんな目の前の光景に集中して見入った。

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Rio Hamada

寺では10分間の瞑想タイム。本殿の脇の回廊で、姿勢をただし、足を組み、目をつぶる。「自然からのメッセージ、空気感や匂いを感じてもらいたい」(宇治さん)。雨音の隙間からうっすらと聞こえる、ホトトギスのさえずりやカエルの鳴き声に耳を傾ける。

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10分間の瞑想タイム。自然の音や匂いを感じる。
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私も挑戦。身体が硬くてうまく足が組めなかった。
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スマホをいじっていたらあっという間に過ぎてしまう時間も、ここではとてもゆっくり流れているように感じる。

「瞑想は、情報に振り回されてしまう時に、自分はこれでいいんだと省みることができるのは大事なこと」。10分後、宇治さんがそう付け加えた。

■脱スマホが生む人とのつながり

本来は、妙本寺の背後にそびえる衹園山へのハイキングを予定していたが、天候が回復しないため中止に。常栄寺をめぐった後、鎌倉野菜や天然酵母のパンが並ぶまちの市場に案内された。

ここで宇治さんからミッションが与えられる。

手渡された地図をもとに、参加者が2人1組になって、「○○会館」なる場所に来るよう告げられる。私は同じくひとりで参加した男性2人と一緒に、ゴールを目指した。

普段なら、Googleマップで検索し、経路案内にしたがって進むだけの何ともない作業。スマホがないだけで一変、手間のかかるミッションとなる。地図には「○○会館」の場所は記されておらず、目的地を探し当てるところから始まる。

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地図を元に目的地を目指す
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方向音痴な私は、スマホなしで見ず知らずの場所に向かうなど不安しかない。いかにデジタルやテクノロジーにどっぷり浸かっていたのかに気付いた。

一緒になった男性と相談しながら、地元の人たちに道を尋ねては移動するというのを何回繰り返したか。小一時間ほど迷走し、やっとの思いでたどり着いた目的地は、スタート地点のすぐ近くだった。

目的地に着いた。たったそれだけなのに、手間がかかった分喜びがこみ上げた。

そこでは俳句を作ったり、一枚の大きな布に絵を描いたりして、デジタルデトックスツアーについて振り返った。

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デジタルデトックスツアーを振り返って一枚の布に絵を描く
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「古都の日に 心のシャッター 切りにけり」。

夫婦で参加した男性がそんな一句を披露すると、妻が「暇さえあればスマホをいじってしまう。普段は写真も誰かに見せようと考えながら撮っている。今日はカメラがないのでじっくり見ました」と感想を一言。

「梅雨散歩 夫の気配 感じつつ」という妻の句には、普段の忙しさから離れて、久しぶりに夫婦の時間やつながりを確認できた喜びが溢れていた。

「無意識に 侵略するよ テクノロジー」と女子大学生が詠むと、その友達がこう振り返る。「(親に)毎日携帯を使いすぎだと言われて、今までは依存していないと思っていたが、預けてみてそうだったことに気付きました」

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デジタルデトックスツアーを振り返って詠んだ俳句
Rio Hamada

午後3時ごろに全てのプログラムが終了。参加者はそれぞれ、数時間の"デトックス"でスマホとの付き合い方を学んだ様子だった。

6時間ぶりのスマホとの再会。すぐに見るのは気が引けて、ちょっと時間を置いて、帰りの電車の中で開いた。LINEに届いた数件のメッセージは企業からのお知らせばかり。

仕事用のチャットアプリには、目を覆いたくなるような量のやりとりが。「自分の時間を大切にしよう」。そう言い聞かせて、そっとスマホを閉じた。

■「静かに何も考えない時間を大切に」

デジタルデトックスツアーがスタートしたのは6年ほど前。「便利なものに依存しすぎると、何か大事なものを失ってしまうかもしれない。自然の中に出て、人とのつながりや手間がかかることへの喜びや楽しみを感じてもらいたい」という宇治さんの思いがきっかけだった。

客層は20、30代の女性を中心に、SNS疲れやデジタル依存を克服するきっかけを求める人が大半で、「たった4、5時間だけど(スマホを)持たない時間があってほっとした」といった感想が多く寄せられるという。

過去には、大手電機メーカーが社員研修としてツアーに参加したこともある。

これまで携帯電話を持ったことがないという宇治さん。デジタルとの付き合い方について、「効率もよくて時間も早いし、ビジネスなど本当に必要な時は使ったらいいと思う。けれどみんなそれ以上のことして、依存してしまっている。意識的に変えないとダメだ」と指摘する。

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季節の花について説明する宇治さん
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あえてスマホから離れることで、ひとりの時間や自分と向き合うことを大切してほしいというメッセージがツアーに込められている。

「今日も瞑想もそうですが、自分の呼吸を知るということは自分が生きている感覚をちゃんと持つという、当たり前のこと。何かあればテレビをつけたりスマホを見たりしてしまって、静かに何も考えずに無になる時間が今ないですよね。そういう時間はすごく大切で、思い出してもらいたいです」

同時に、ミッションなどを通じて人との交流が生まれる工夫も。スマホ依存やSNS疲れの解決策の一つとして、こう訴える。

「直接話をしたり、体温が直接伝わるような安心感のある関係性が作れていないと、スマホや『誰かと繋がること』に依存してしまうのでは。そうすると、余計に生身の人間と接する機会がなくなってしまって、悪循環に陥る」

「こういう時はメール、こういう時は会ってというふうに、もう少しメリハリつけてできたらいいのにと思います」

宇治さんの言うように、私たちはSNSでつながることでひとりの時間を犠牲にしたり、デジタルに頼りすぎて目の前にいる人とのつながりを失ったりしているかもしれない。

スマホから離れてみて、初めはそわそわしてしまったが、ちょっとした時間をスマホで埋めようとしていた自分から解放された気持ちにもなった。目の前の景色をただ眺めたり、何も考えずぼーっとしたりする時間を取り戻したら、やっぱり心地よいものだった。

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