前回は、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」※の目標11についてご紹介しました。今回は、目標10について紹介したいと思います。
※「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals, SDGs)」:2016年から2030年までの15年間に、日本を含む世界のすべての国々が達成すべき目標。貧困・格差、気候変動などの課題について17の目標が定められている。「誰一人取り残さない」がキャッチフレーズになっている。
Ahmad Baroudi/Save the Children
まず最初に、目標10が設定された背景に何があるのでしょうか。
現在、世界の富裕層トップ10%が世界全体の所得の40%を占める一方、最も貧しい下位層10%は2~7%しか得ていません。また途上国内においても1990年から2010年の間に、所得格差が平均11%増加しました。
世界の国家間の格差に関する議論は、1960年代に遡ります。先進国と発展途上国の経済格差が指摘され、広く南北問題として取り上げられました。
その後、一部途上国が経済発展を遂げ新興国となり、発展途上国間における経済格差も広がりました。1980年代に、この格差は南南問題として扱われました。こうした国家間の格差を解消するために、国際社会は発展途上国の開発に力を注いできました。
2000年から2015年の開発目標である「ミレニアム開発目標(MDGs)」では、極度の貧困の解消を目標として、一日1.25ドルで生活する人口の割合を1990年の水準の半数に減少させることをターゲットにしていました。
達成期限である2015年に発表された、MDGs達成度の報告書は、「世界の中で極度の貧困の中に暮らす人の人口は、1990年代の約19億人から、2015年には約8.4億人と半数以下に減少した」と述べています。
この達成状況から、一見、人々の生活状況は良くなったと思われますが、冒頭に述べたように世界の経済格差は1990年代に比べて拡大しています。
これはなぜなのでしょうか。
MDGsでは、一日1.25ドル以下の生活という「絶対的な貧困」に焦点を当てており、生活水準が平均的な水準と比べて低いという「相対的な貧困」に関しては言及されていませんでした。
途上国の経済が発展すれば、一日1.25ドル以下で暮らす絶対的貧困層も、その発展の恩恵を受けることができます。しかし、経済発展の恩恵を一番受けたのは富裕層です。
2000年以来、世界の下位層36億人は、経済発展がもたらす恩恵の1%分しか受け取っていませんが、上位1%の富裕層は、経済発展の恩恵の半分も受け取っています¹。
経済発展は恩恵を全員に一応もたらしていますが、その配分の構造は極めて不平等です。この構造は、貧困層と富裕層の格差をさらに拡大します。
そのため、絶対的貧困層は一日1.25ドルの基準を超えた後も、その国の平均的な水準と比較して、最も貧しい層であることに変わりないのです。
またMDGsでは、少数民族、宗教、障害者、移民といった特定のグループの状況がどう変化したかまで測定してはいませんでした。そのため、社会で弱い立場に置かれている人々の生活が改善したかどうかは不明確でした。
SDGsの目標10は、このような格差拡大に着目していることに特徴があります。
格差をなくす、すなわち不平等を是正することは、SDGsの「誰一人取り残さない」というスローガンに沿ったものとなっています。このような不平等は国家の長期的な社会経済的発展、貧困削減を阻害するものと認識されています。
それでは目標10の具体的内容について見ていきます。
目標10
「各国内および各国間の不平等を是正する」
目標10は国内の格差と国家間の格差を是正することがベースとなっています。
国内の格差に関しては、年齢、性別、障害、人種、民族、出自、宗教、あるいは経済的地位その他の状況にかかわりなく、特定のグループを差別するような法律や習慣をなくすこと、そして税制、賃金、社会保障政策をはじめとする政策を導入し、平等の拡大を漸進的に達成することをターゲットにしています。
また2030年までに、各国の所得下位40%の所得成長率について国内平均を上回る数値を漸進的に達成し、持続させることを目指しています。
広がる格差とその不公正さを象徴する一例として、今年4月に公開されたパナマ文書が挙げられます。同文書は、国際的な課税逃れが大きな問題であることを私たちに投げかけました。
サブサハラ以南のアフリカ諸国では、毎年150億ドルが租税回避されていますが、その金額があれば、180万人のヘルスワーカーを雇うことができます²。
また、国家間の不平等を是正するために、国際経済・金融制度の意思決定における途上国の発言力を拡大させること、を目標にしています。
世界銀行や国際通貨基金(IMF)、世界貿易機構(WTO)等の国際機関における途上国の発言力の低さはこれまでもたびたび指摘されてきました。
上記でふれた課税逃れに関しても、国際的な税規制システムを構築するにあたって、途上国が意思決定に参画することが必要です。
格差の是正のためには、政治・経済社会構造といった長年続く恒常的な不平等に対し、国内だけではなく国際社会が真摯に取り組んでいく必要があります。
それゆえに、目標10を達成するために、国際社会には多くの労力が必要とされますが、その一方で非常に野心的な目標とも言えます。
¹ Oxfam, https://www.oxfam.org/sites/www.oxfam.org/files/file_attachments/bp210-economy-one-percent-tax-havens-180116-summ-en_0.pdf
² Save the Children, "Making a killing", 2015
アドボカシーインターン
金子智広