医療界から黙殺された僕が考える、途上国医療のこれから

時代は確かにしっかりと動いていた。かつては厳格な医局制度の中で、途上国医療を否定してきた人々が、私の話に耳を傾けるようになったのだ。
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時の流れは速いものだ。

20年なんてあっという間。

しかし20年あれば十分、時代は大きく動いている。

1980年代中頃、医師を目指して医学部に入学した。

医師を目指した理由はたった一つ。絶対に医療を受けることができない人々に医療を届けたいと思ったからだ。

そして30歳の時、日本で数年間医師としての勉強を終了し、途上国へ向かう。

そして、ミャンマーを訪れた。

私が医師を目指した時、海外で働くというのは、北米や欧州で勉強や研究に行くこととほぼ同義だった。

医師として途上国で働くなどということは、もちろんほとんど有りえない選択肢だった。

もちろん、日本政府や国際協力事業団(JICA)からの派遣として幾ばくかの期間、技術協力・指導などの目的でその土地に赴くことは選択肢として与えられていた。

しかし、それはしっかりとしたステイタスと高額のサラリーが保証された特別な分野であった。

そんな時代に、日本政府の後押しもなく、途上国医療を目指し、実際に途上国の医療現場に赴く人間は完全に標準の±2S.D.(標準偏差)外、しかもマイナス2S.D.のはるか彼方に存在するまさに部外者であり、私は否定の対象にすらならず、無視あるいは黙殺する特異な存在であった。

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それから20年。

私のやっていることは20年前とほとんど変わらない。

しかし、時代は確かにしっかりと動いていた。

日本の権威ある医学学会、シンポジウムなどから声がかかるようになった。

かつては厳格な医局制度の中で、途上国などで医療をするという馬鹿げた(?)行為を徹底的に否定してきた人々が、私の話に耳を傾けるようになったのだ。

若い世代の医師たちだけでなく、大学教授や大病院の部長などの人々が、途上国医療に興味を示してくれるようになったのだ。

そして今や、現実に海外の私の元には年間に600名程度の医療者がその活動を支えるためにやってくるようになった。そして今後、その流れはますます加速する。

これは時代の流れだから、おそらく誰にも止めることはできない流れになると実感している。

さて、この延長線上で次の時代を私なりに予想している。

これから15年~20年で、時代は再び大きく変わる。

人工知能の発展が医療そのものの姿を変えてしまうだろう。

人々の病気は、予防医学の劇的な進歩によって治療という医療の重要な役割の比重を大きく下げることになる。

アジアは大きく経済発展し、都市部での医療レベルは東京でもバンコクでもマニラでも北京でもおそらく変わらなくなるだろう。

今は、日本の医療界も医師や看護師が足らないと必死になっているが、あと20~30年もすれば医師や看護師は大きくその役割を変え、今ほど人数は不要になる。

今は数こそ力だと一生懸命に人を集めている学会や医局にも人数制限が設けられ、簡単にはそこに入れてもらえなくなると思う。

医療レベルの差は都市部で変わらない一方、非都市部では各国の経済レベル、政治レベルの差によって発展度や達成度に差が生まれ、政治や経済が上手く機能していない国ではしばらくの間、日本などの先進国の人々ほど時代の恩恵を受けることはできないだろう。

しかし、それも時間の問題で解決されていくに違いない。

それほどに医療は、医療者が知らないところで大きく地殻変動を起こしつつある。

今後、この時代ギャップによって医療を享受できない途上国の人々に医療を届けるのがジャパンハートの役目になると考えている。

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とりあえず15年、今の延長線上でしっかりと途上国の貧困層に医療を届ける。

それからさらに15年は、時代の恩恵から取り残されている人々に医療を届ける。

その後のことは私にも今は全く分からない。

◆国際医療NGO ジャパンハート http://www.japanheart.org/