『灯台もと暮らし』を運営する「株式会社Wasei」のHPは、とてもユニークだ。メンバーの紹介ページは2,000字超のロングインタビュー。レイアウトは雑誌のよう。通常では考えられない手間をかけ、サイトを完成させたのはアートディレクターの荻原由佳さん。荻原さん、なぜこんなサイトになったんですか?
エンジニアからは「クレイジーだね」。アートディレクター 荻原由佳のこだわり
ひとたびサイトを訪ねると、そこには登場人物たちの「温度感」がある。
人気Webメディア『灯台もと暮らし』を運営する株式会社Waseiは、2017年1月に、コーポレートサイトをリニューアルした。
特にユニークなのは、約2,000文字を超えるメンバーの紹介ページ。まるで雑誌のようなページデザイン。じつは、メンバーひとりひとりに合わせてレイアウトは異なり、スマホ画面にも対応。通常では考えられないような手間と時間が掛かっている。
細部までこだわり抜かれたメンバーの紹介ページ
この奇想天外とも思えるサイトをディレクションしたのが、荻原由佳さん(25)だ。エンジニアを含めた開発チームのなかで、デザインとアートディレクションを1人で担当。対面によるヒアリングを何度も重ね、エンジニアからは「クレイジーだね」という褒め言葉(?)をもらったという。
「一切妥協したくなかったんです」
穏やかな雰囲気からは想像がつかない、芯の強さを持つ荻原さん。こだわり抜くスタンスを持った彼女に聞きました。・・・荻原さん、いいものづくりに大切なことって何だと思いますか?
絶対めんどくさい。けど、どうしても見せたいものがあった
ー Waseiのコーポレイトサイト、とても素敵ですね。特にこだわった点はありますか?
ありがとうございます。特にチカラを入れたのは、メンバーの紹介ページです。Waseiでは、一貫して『これからの暮らしを考える。より幸せで納得感のある生き方を。』というスタンスを大切にしていて。その姿勢を、メンバーひとりひとりの想いを通して伝えようと、2,000文字を超えるロングインタビューを載せています。
「いつか本や雑誌もつくりたい」というメンバーたちの思いを汲んで、レイアウトを雑誌のようにしていて。じつは、メンバーの個性を出すために、ひとりひとりのページデザインを変えているんです。
スマホ対応を考えると、コーディング面で絶対にめんどくさいんです(笑) エンジニア泣かせのデザインでしたが、1番見せたいページだったので。説得して制作してもらいました。
― なぜ、そんな大変なことをやろうと?
こんなにもステキな人たちを、もっともっと世の中に知って欲しい。彼らの思い描いている世界を、私も一緒につくりたかったんです。
同時に進めていた『灯台もと暮らし』のロゴのリニューアルにあたっては、改めてメンバー全員に時間をいただいて、ひとりひとりに想いを聞きました。表現することばは違うけれど、それぞれの視点で、これからの暮らしを考えている。そんなメンバー自体がなによりも魅力だなと思いました。
ぼんやりしたゴールを、いかにクリアにできるか
― サイトから、Waseiのメンバーの想いが凝縮されているのが伝わってきます。制作する上で、大切にしていたことはなんですか?
いくつかあって、まずヒアリングにかなり時間を掛けていました。
クライアントの制作したいものの、目的やゴールをしっかり汲み取ることが大切だと思うんです。たとえば、「サイトをリニューアルしたい」といっても、そのことばの背景に「どういう目的を達成したい」があるのか? ここをしっかり汲み取ることができなければ、最終的なデザインもブレてしまいます。
ヒアリングの方法は、できるだけ対面。言語化できていない部分を理解するためにも、対話ってすごく大事で。もちろん、電話やメール、チャットなど、オフラインのツールも使ってましたが、ただ聞くだけでなく、一緒に考えるスタンスを大切にしたかったんです。
じつは、聞きたい項目をまとめる、オリジナルのヒアリングシートから用意しました。それに、モレなく聞いて、とにかく整理する。
あとは良いと思うポイントを論理的に伝えていくことを意識しました。たとえば、404のページでは、メンバーのオフショットをランダムに載せているのですが、「404ページがNG集みたいだったら面白いと思うんです。バラエティとか映画のエンドロールのようにNG集があると人間味が感じられて、メンバーに親近感をもってもらえると思うんですよ」と、具体的に例をあげてページの提案をしました。エンジニアの協力も得ることができ、結果クライアントにも喜んでもらえるページをつくることができました。
なので、なぜ良いと思うのか、なぜおもしろいのか。「良いと思う」だけでは共感してもらえないので、粘り強く言語化し、伝えることを大切にしました。
こだわりの404ページ。メンバーのオフショットがランダムに表示される。
― ビジュアルって言葉にしづらいですし、なかなか伝えづらいですよね。なかなか前に進まない、カタチにならないということはありませんか?
議論が進むなかで、チームメンバー間で認識がズレないように、プロジェクトのゴールや全体像をビジュアル化していました。それぞれがちゃんと目指したいゴールに向いているか。ミーティングの内容を逐次共有し、プロジェクトがスムーズに進むように見える化する。ここも、アートディレクションの仕事の1つなのかなって。
プロトタイプを作って、イメージの見える化もやりましたね。クライアントとなる方々も、喋っている段階だとビジュアルになっていないと思うので、カタチとして見せることで判断しやすくなります。
ひとつ、プロトタイプで気をつけているのは、こだわりすぎず、雑に作るということ。私自身、もともと凝り性なところがあって、細部まで作らないと人に見せられない性格。でも、それだとプロジェクトの進行がどんどん遅れてしまうので...。
プロトタイプは、最終的なアウトプットではなく、あくまでも判断材料。そう目的を明確にして、できるだけ雑に(笑) 早くつくっていますね。
人、場所、物語に、興味を持つということ
― ヒアリングを重ねて、クライアントと向き合う。その丁寧な仕事のスタンスがすごく素敵だなと思います。
ありがとうございます。ただ、私もはじめからこういった仕事ができていたわけではなくて。もともとはデザイナーだったのですが、クライアントに直接ヒアリングする機会、そのものがほとんどありませんでした。
ディレクターがクライアントにヒアリングして、考えた枠組みを最後に見えるカタチにする。デザインに使用する素材は、ほとんど揃っている状態で、それらがより機能するためにビジュアルに落とし込んでいました。
そこから自身でアートディレクションを担当するようになってからは、どんどん、人や場所、物語に対して興味を持てるようになった気がします。
どんな人が、どんな場所で、どういった思いでつくっているのか。実際に撮影現場にいってみたり、クライアントに会いに行ったり、商品を手に取ってみたり。
たとえば、普段当たり前のように使っているコップひとつも、そこには作り手から買い手に届くまでのプロセスがあるんですよね。日本のどこかでつくってる人がちゃんといる。
そう思うとすごく不思議だし、わくわくしませんか。なんでこうなっているんだろうって。ちゃんと知ろうとする。体験する。ここが私がアートディレクションで一番大切にしていることかもしれません。
― 暮らしも仕事も境界線がないというか。目の前のもの、人の背後に好奇心を持つ。良いものづくりをするために大切なことなのかもしれませんね。本日は素敵なお話、ありがとうございました!
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