黒澤明監督の「デルス・ウザーラ」。
本当に素晴らしいの一言だ。
かつてフィリップカウフマンの「The White Dawn」も
あの厳しい大自然の中でどうやって撮影が行われたのだろうと途方に暮れたが
この作品は実に見事だった。
沢山のロシアの作品を観て来たので豊かな森を懐かしんでいたが
決して視聴者を置いてけぼりにしない
とても分かり易い語り方なのだ。
そして何と言ってもこの作品の魅力が、登場する兵士たちに
正義があり真の友情だ。
デルスと隊長が
敬愛を込めて「デルスー!」「カピタン!」と呼び合う姿が
温かくて愛おしくてたまらない。
マイノリティとされる民族のデルスを、兵士たちが最初は笑い者にしながらも
雄大な自然の一部として自然と共に生きる姿に
隊長は惜しみない尊敬と友愛を持って接し
部隊にもそれが自然と浸透していく様が美しいのだ。
兵士たちの友情は幾度となく描かれてきたが
気付くと満面の笑みで画面を見つめる自分に気付くような
こんなにも愛おしい友情を観たのは初めてだった。
その秘密は隊長演じるYury Solominの温かい演技にあるのかもしれない。
やや片言で話すデルスに、じっと耳を傾けて、デルスを責めるようなシーンはほとんどなく、じっと沈黙を保つのだ。脚本に台詞はなくとも、その沈黙をとても自然に温かく演じる彼のパフォーマンスが
彼らの友情をより心あたたたまるものにしているのだろう。
第一部で雪道の中、別れるデルスと兵士たち。
いつか再会をと、別れて別々な方へ歩き出してからも、
名残惜しそうに隊長が後ろを振り返る。
ひとりで雪道を歩いて行くデルス。
遠く小さくなったデルスを見つめ続ける隊長。そしてふと、その思いが通じたかのように、デルスもこちらを振り返る。そして大声で名前を呼び合うのだが、そのシーンが愛おしくてたまらないのだ。
それは子ども同士の別れでも、親子の別れでも、恋人の別れでも、とうてい表現できない。
第二部で、再び森林へ訪れた隊長は、デルスとの再会を果たす。
その時の画の、ささやかさはずっと忘れないだろう。
森の木と木の間の小さな隙間から、遠くに二人が姿を確認し合う、その瞬間を目撃するのだが、それがもう押し付けがましくなく
とてもささやかで、二人の再会を目撃できたわたしたちは
一層幸せな気持ちに包まれるのである。
ロシア語を終始聞きながら、そういえばと、ロシア人の友人たちを思い出す。たしかに彼らは陽気ながら穏やかで大らかな人が多かったなと恋しく思う。
悲しいエンディングでありながら、
デルスへ惜しみない敬愛を示す隊長の
人種で決して人をジャッジしない、凛とした、豊かな人間性に
たくさんのことを学び、
"この作品に出会えてよかった"という気持ちで満たされるのだ。