気がつけば、動物園で人気のキリンさんもゾウさんも、今や絶滅危惧種(IUCNのレッドリストより)。世界には約175万種の生物が確認されているが、なんと年に4万種もの生物が姿を消しているという(国立環境研究所HPより)。このまま絶滅スピードが加速し、あらゆる生物が姿を消した時、果たして私たちは人間だけで生きていけるのだろうか。SDGsの17の目標にも「14:海の豊かさを守ろう」「15:陸の豊かさも守ろう」とあるが、目標達成に近づくために企業や生活者ができることとは何か。野生動物の生息地を見てきた筆者がその実態をもとに解決策を探る。
持続可能な生態系保全とは?
46億年という地球の歴史の中で人類の祖先が誕生したのは約700万年前。地球の歴史を365日に例えると、まだ人類の誕生は大晦日の出来事にすぎない。ところが、過去100年で絶滅スピードは1000倍に加速したという(ミレニアム生態系評価より)。産業革命(18世紀半ば)以降の人口爆発で急激に加速したことを考えると、地球の歴史から見ればこの状況は一瞬にして引き起こされたとも言える。
地球上の生物は、長い時間をかけて環境の変化に適応し、多様な種へと進化してきた。しかし産業革命以降、多くの自然が破壊され、生息環境が激しく変化した。そのため、生物たちは適応する間もなく絶滅しているのである。彼らがいなくなったことで地球環境は平衡を保てなくなり、私たちの生活にも影響が及んでいる。それは、近年の未曽有の災害などから見て取れるだろう。
では、どうしたら、この状況下で持続可能な地球環境をつくりあげることができるのか。その解決策として筆者は3つのことを挙げる。
<その1> 生態系のトップにいる種の絶滅を防ぐ
生態系のトップにいる種(最高次捕食者:アンブレラ種)は、生息密度・生息数が少ないにもかかわらず、食物連鎖の頂点に位置するため生態系維持に欠かせない存在である。彼らが絶滅すると一体どんな事態が起こるのか。
例えば、ニホンオオカミは日本で絶滅したアンブレラ種だ。彼らが絶滅したことでシカやサルが増え、植物が食べ尽くされ自然環境が激変した。それにより、農林業など人にも環境変化への対応が求められ、今もなお混乱が続いている。
「絶滅危惧種を守る」と聞くと、世界自然保護基金(WWF)のような保全団体が、生息地の保全や傷ついた個体の保護などを行なっているイメージが強いだろうが、実はもう一つ大切なことがある。それは、相手(絶滅危惧種)を知るための研究調査だ。
相手がどんな環境で、どんな生態で生きているのかを調べなければ、適切な保全活動は行えない。ところが、アンブレラ種のような大型動物の寿命は長いため、結果を得るには時間と労力とお金がかかる。近年、文科省などの競争的資金では、短期成果を求められる傾向にあり、絶滅危惧種を研究している研究者が絶滅の危機にあるといっても過言ではない。
例えば、オランウータンで考えてみよう。アジア唯一の大型類人猿のオランウータンは、樹上生活者として熱帯雨林の生態系維持に一翼を担っている。だが、その熱帯雨林では、アブラヤシ(植物油脂)の農園(プランテーション)が急速に拡大し、森林の半分以上(原生林は9割以上)が失われてしまった。
私たちの暮らしでも、食料品や洗剤など植物油脂で作られた製品に触れない日はほとんどない。農家の人々も、私たちも、もはやアブラヤシなしでは生活できない今、これ以上プランテーションを拡大しないために、持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)の契約農家から仕入れた認証油で製品を作る企業が増えている。
だがそれと同時に、研究者をサポートすることも、持続可能な地球環境をつくるために重要だと筆者は述べたい。なぜなら、地球上のおよそ半数以上の生物が存在し、地球維持のための「ホットスポット」と呼ばれている熱帯雨林にもかかわらず、この環境を維持するのにどのくらいの森林を残さなければいけないのか、まだ誰も知らないからだ。
<その2> 命の需要と供給のバランスを整える
絶滅の危機に瀕しているユキヒョウの保全活動(まもろうPROJECT ユキヒョウ)を行ってきた筆者は、野生ユキヒョウの生息地モンゴルで遊牧民から「伝統知」というものを学んだ。
自然と共に生きる遊牧民は、生態系維持の象徴としてユキヒョウを崇め、たとえ家畜がユキヒョウに襲われても報復殺することはしない。命の需要と供給のバランスを知っているからだ。だが、社会主義体制の崩壊後、日本を含む先進国の民間企業の参入により、遊牧民の生活は一変した。モンゴルなどでは著しい経済発展を遂げているが、一方で伝統知の継承が薄れ、自然環境は悪化の一途をたどっている。
持続可能な地球環境をつくるということは、植林やCO2削減など、これまでCSRで行ってきた企業活動にとどまらない。その事業の製品やサービスが、世界のどの国のどの土地に関与し、自然環境にどう影響を与え、そこで生きる生物や人々の暮らしをどう変えているのか。それらを今一度見直し、長い歴史の中で育まれてきたその土地の命の需要と供給のバランス、つまりは生態系を見極め、整えていくことが重要だと筆者は考える。
<その3> 資源の消費を減らし、自給自足の道へ
前述の通り、絶滅スピードを加速させた要因は、産業革命以降の人口爆発である。国連の世界人口推移によると、2030年にはさらに人口が10%増加するという。その半分以上は主に発展途上国や最貧国だ。それは先進国の植民地だった国や、先進国に資源や作物(コーヒーや木材、石油など)を輸出している国である。
生産拡大(経済発展)で人口が増え、資源が枯渇し、環境破壊や気候変動でさらに収量が減り、飢餓や貧困を招いている。これは、SDGsの他のゴール(1や2など)にもつながっている。先進国の日本も、発展途上国の土地や資源、労働力に頼るのではなく、自給自足を回復させ、資源消費を減らし、さらには発展途上国の自給自足を支援することが今後求められるのではないだろうか。
<プロフィール>
電通のラボ:新!ソーシャル・デザイン・エンジン
社会課題を起点としたコミュニケーションをプランニングする社内横断チーム。各メンバーの得意領域を生かし、戦略PR、CSRコンテンツ開発、地方創生、インターナルコミュニケーションなど、幅広く展開している。SDGsのゴール15(陸の豊かさを守ろう)の分野においては、京都大学野生動物研究センターとともに、クライアント様向けのソリューションを提案。有志メンバーで立ち上げた「まもろうPROJECT ユキヒョウ」では、それぞれの専門性を生かした保全活動を行っている。
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