「なぜ安全保障をテーマに2度も県民投票を行わなければならないのか。根本的に考えてほしい。そうでなければ政治の堕落、不道徳、不条理を切り替えることはできない」
3月1日、安倍晋三首相との会談を終えたばかりの玉城デニー知事が、記者会見の最後に語ったのは全国への問いかけだった。
米軍基地の負担が集中する沖縄、県民投票を終えたばかりの現実から訴えたいことはなにか。
1日午後5時半、外国特派員協会の会見場は多くのメディアで溢れかえっていた。
玉城知事、今回の県民投票実現に向けて奔走した元山仁士郎氏(「辺野古」県民投票の会代表)の姿もあった。
会見で繰り返し出てきたキーワードは3つに整理できる。「民主主義」「不公平」「問う」だ。
玉城、元山両氏がまず強調したのは民主主義だ。2月24日投開票された沖縄県名護市の辺野古新基地建設による、埋め立ての是非をめぐる県民投票。
問題のそもそもは「世界一危険」と称される沖縄県宜野湾市にある普天間飛行場を巡る問題にある。
安倍政権は普天間基地から、名護市辺野古への移設を強行する姿勢を鮮明にしている。新基地建設のため、沿岸部の埋め立て工事を進めている。
対する玉城氏は「安全保障の負担は全国で担うべき」であるとして、故翁長雄志前知事の路線を引き継ぎ、辺野古新基地建設に昨年の県知事選から一貫して反対を訴えている。
県民投票の投票率は52・48%。賛成、反対、どちらでもないの三択のなかで、最も多かったのは「反対」の43万4273票だ。
これは有効投票数の70%を超えており、玉城氏が当選した県知事選の得票数も上回る。
県民投票条例によると、三択のなかで最多だったものが投票資格者総数の4分の1に達した場合、知事は結果を尊重しなければならず、安倍首相とトランプ米大統領に結果を通知すると定めている。
この結果を踏まえ、玉城氏は安倍首相に通知した。
会見の場で「今まさに日本政府の『民主主義』が問われている。沖縄県民は普天間基地問題解決を求める思いで、辺野古移設に反対という意思を示した」と強調した。
元山氏も「今回の県民投票はこの国に住むすべての人々にとって『民主主義』のあり方を問うものであり、全員が真剣に考えるものだと思います」と訴えた。
一部報道に「不公平」
次に「不公平」である。報道のなかには、今回の県民投票の結果を踏まえて「県民投票では7割が反対なのではなく、投票資格者総数だと反対は37%」と強調したものもある。
元山氏は「すごく『不公平』な報道だと思っています」と違和感をあらわにした。
玉城氏が続ける。「菅(義偉)官房長官は名護市長選後に選挙結果が全てだと言いました。私の選挙も、県民投票も選挙の結果が全てです」
政権が推す候補が勝てば選挙が全てだと言い、それを強調する報道もでてくる。逆に反対する候補や主張が勝てば、反対という結果について、それを矮小化しようとする報道も出てくる。
その時々で、都合の良いモノサシで測られる。沖縄の「民意」に対する評価は『不公平』ではないのか。通訳の時間を挟み、さらに語りは続く。
「数字の考え方は様々ありますが、私たちは辺野古の埋め立て反対が多数だったという結果がすべてだと考えている。しかし、県民投票条例を見てほしい。投票資格者総数の4分の1を超えた場合、県知事は結果を尊重すると定めている。(選挙結果は)元山さんの勝ちです」
県民投票が突きつけていること
最後に「問う」だ。結局、県民投票が問うているのは何か。それは米軍基地問題は沖縄だけの問題では無いということに尽きる。
冒頭の玉城氏の発言にもあるように、県民投票は96年以来2度目だ。この時は「日米地位協定の見直し」と「米軍基地の整理・縮小」が争点だった。
ある地元紙記者はかつて私の取材にこう語っていた。
「もう何度、民意を示せばいいのか。どうして、日本政府に尊重してもらえない。普天間を返還してほしい。辺野古に新基地を作らないでほしいというのは、そんなにおかしなことなのか。他県では米軍基地をいらないと言えば通る。沖縄の民意だって米軍基地を完全に撤去してほしいとは言っていない。ただ、あまりに多すぎると言っているだけなのに、それすらも認められない」
問いは沖縄の負担を肯定する、黙認するという行為に跳ね返る。玉城氏は「13の都道府県が米軍基地をフェイクでも、ヘイトでもない正しい情報を国民が掴んで、判断できるよう我々も情報発信をしたい」と言った。
冒頭、「なぜ」を全国に問いかけたと書いた。少しばかり修正が必要だろう。「なぜ」の宛先は、この記事を読んでいるひとり、ひとりだ。