データでみる長時間労働と、「過労死ゼロ」にむけて

働きすぎで命を落とす人は年間200人を数える。労働組合にはどんな取り組みが求められているのか。「長時間労働の実態」と労働組合の役割を探った。

2014年11月に施行された「過労死等防止対策推進法」。同法は「過労死等が多発し大きな社会問題となっている」との認識の下、その対策推進と調査研究を国・自治体の責務と位置づけ、また広く国民の関心と理解を深めるために、毎年11月を「過労死等防止啓発月間」と規定した。

働きすぎで命を落とす人は年間200人を数える。「過労死等防止啓発月間」を迎えて、労働組合にはどんな取り組みが求められているのか。「長時間労働の実態」と労働組合の役割を探った。

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長時間労働の実態

国を挙げての課題とされてきた「労働時間の短縮(時短)」。年間総実労働時間は、緩やかながらも減少していると言われてきたが、それは全労働者平均の数字。

パート労働者の増加が平均を引き下げてきただけで、フルタイム労働者の2015年の年間総実労働時間は2026時間と、この20年間まったく減少していない。有給休暇の取得率も上がっていない。

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なぜ、残業が発生するのか。調査では「人手不足」に加えて「急な仕様変更」などがあげられている。

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「残業を行う場合の手続き」を聞いた調査で注目されるのは、「恒常的に残業がある」という回答だ。つまり特に手続きをすることもなく「残業があたりまえ」になっている職場が多数あるということだ。人員の見直しなどで一人当たりの業務が増え、残業をしないとこなせない実態がうかがえる。

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長時間労働と過労死・過労自死の関係

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残業時間が長いほど、疲労の蓄積度が高く、過労死等の危険性が高まることは明らか。

しかし、勤務先の長時間労働是正の取り組みは、「わからない・特にない」がダントツのトップという状況だ。

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過労死は、まさに今、職場で起きている

「過労死等防止啓発月間」を迎えて、連合は、「職場点検」を呼びかけている。その狙いは何か。小倉佳南子連合労働法制対策局次長に聞いた。

―現状をどう見ている?

過労死等防止法施行から3回目の「過労死等防止啓発月間」を前に、若手社員の過労死労災認定のニュースが大きく報じられた。過労死等は、まさに今、私たちの職場でも起き得るかもしれないことだ。

30年前に「過労死」という言葉が登場した頃より職場環境は悪化している。人員削減で一人当たりの業務量は増え、納期やノルマの要求も厳しくなっている。職場全体に余裕がない中でハラスメントにつながるような指導も生じている。

一生懸命働いて成果を上げることは大切だが、命と引き換えに仕事をさせてはいけない。そんな働き方・働かせ方を職場からなくさなければと思っている。

「職場点検」を通じて過重労働対策を

―過労死等防止啓発月間の取り組みは?

一昨年の初の防止啓発月間では、職場や地域での「過労死ゼロ宣言」に取り組んだ。今年は、職場で一人ひとりに考えてもらうために呼びかけているのは、「職場点検」だ。

まず、36協定の遵守状況を再点検してほしい。

1カ月・1年間の残業時間は何時間か、特定の部署や人に業務が集中し過重労働になっていないか、メンタルヘルスの不調に悩んでいる人はいないかなどの基本をもう一度チェックしてほしい。

特に繁忙期や新規事業立ち上げ時には負荷がかかりやすい。労使協議の場などでも過労死等防止啓発月間をきっかけにして、過重労働対策を協議していただきたい。

もう一つ、この機会にノー残業デーの導入・拡大なども検討してほしい。ノー残業デーは、定時に帰るだけでなく、残業時間の削減につなげることが目的。

風呂敷残業になるのではないかという声も聞くが、チームで協力して定時退社するために、業務の効率化や仕事配分の見直しなどを進めるきっかけにできる。連合では、こうした取り組みのツールとして、チラシや組合の機関誌に掲載する清刷を作成しているので活用してほしい。

 ―「働き方改革実現会議」でも長時間労働是正が課題とされているが?

具体的な議論はまだ見えていないが、かけ声だけに終わらせず、実効性ある対策を打ち出せるようにしなければならない。過労死・過労自殺をはじめとした長時間労働の弊害が顕在化し、対策も講じているが、問題は解消していない。

過労死・過労自殺などを本当になくしていくためにはどうすればよいのか、政府も経済界の皆さんも真剣に考えていただきたい。長時間労働の抑制には、まず第一に適切な労働時間の把握が必要不可欠である。

―連合が求める長時間労働是正策とは?

長時間労働是正のためには、第一に労働時間の総量規制が不可欠だ。現在、特別条項付き36協定きを結べば、労働時間は事実上青天井になっている。

大臣告示の「時間外労働限度基準」を法律に格上げするとともに、特別条項付き36協定を適用する場合の上限時間規制を法定化する。また、36協定未締結、36協定で定める限度時間を超える時間外労働をさせた場合の罰則強化も求めている。

もう一つは勤務間インターバル規制。十分な睡眠時間と生活時間を確保するために勤務と勤務の間には原則として連続11時間の「休息時間(勤務間インターバル)」を保障する。法制化に先行して、労使協定で制度を導入している職場もある。ぜひ職場での導入に向けて検討を始めていただきたい。

長時間労働は、「早く帰れ、残るな」というような単純なかけ声では解決できないし、ましてや総理大臣の鶴の一声で解決できるものではない。

提供すべき業務内容が過剰なサービス提供になっていないか、社内資料の作成など必要以上の体裁や作り込みが当たり前になっていないかなども含め職場の実態を点検し、労使が話し合って、職場の実態に応じた改善を重ねていくことこそ求められている。

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小倉佳南子

連合労働法制対策局次長

※こちらの記事は日本労働組合総連合会が企画・編集する「月刊連合 2016年11月号」に掲載された記事をWeb用に編集したものです。