サイボウズ式編集部より:著名ブロガーによるチームワークや働き方に関するコラム「ブロガーズ・コラム」。今回は、桐谷ヨウさんが考える「新入社員が目指すべき仕事のスタンス」について。
受験生時代、頭の良かった先輩に聞いたことがある。
苦手な世界史(俺は暗記力が皆無なのである)の勉強方法について、「ゆっくりでもきちんと覚えるのと、スピーディーにさらっと覚えながら何回もくり返すのは、どちらがよいのですか?」と。
いま思えば愚問でしかないのだけど、先輩から返ってきた返答は「きちんと覚えて、何回もくり返す」だった。身も蓋もないが、正論だった。
完成度を優先するか? スピードを優先するか?
さて、仕事においてよくあるシチュエーションは「完成度の高い成果物を出したいから、納期ギリギリまで粘る」というものだ。
特に入社して数年の人たちは、自分の裁量で決められることが少ないので、この罠に陥りがちだ。「なるべくよいものを出したいから」という思いで、じっくり取り組む。それだけならよいのだけど、単に腰が重いだけの状態になっていて、納期ギリギリで回転数を上げてやっとこさ終わる、みたいな。
異論は出るだろうけど、俺があえて提言したいのは「新人は拙速であれ」ということだ。
拙速とは「拙(つたな)くとも、速い」という意味です。逆は、巧遅で「巧(たく)みだが、遅い」となります。中国の兵法書「孫子」を引用すると「拙速は巧遅に勝る」という言葉があります。
ビジネスシーンにおいては熟慮が必要なケースは多々ありますが、こと新人に関しては「拙速は巧遅に勝る」がそのまま当てはまります。
新人の仕事で、熟慮が必要なケースは少ない
1つの理由に、スピード感があるとそれだけで「仕事ができる」ように見えるというのがある。単純に同じ完成度であれば、早いに越したことはないのだ。やはりサクサク仕事をこなしている人の方が、ギリギリで仕事を終わらせている人よりも、見栄えがいい。
特に新人時代の仕事は、検討する仕事というよりは、圧倒的に雑務ベースが多い。リマインドされる前にサクサク終わらせていった方が自分も楽なことが多い。後まわしすることで精度が上がる仕事は少ない。先輩からすると"この程度のこと"と内心思っている仕事であることが多いので、印象が下がることしかないのだ。
仕事は修正が発生しない前提で考えちゃいけない
2つ目の理由、これは「検討が必要な仕事」に関することなのだけど、締め切りギリギリだと物理的に間に合わなくなってしまうから。まともな先輩であればバッファを積んでくれるけれど、考慮してくれていないことがあったりする。
にもかかわらず、ダメ出しが容赦なく飛んできたとしたら? 間に合わせるために泣くのはあなたになってしまう。ただ、容赦あるダメ出しとは、妥協に他ならないので、まともであれば指摘はありがたいものである。そもそも本質的には、レビューとは先輩が責任を引き受けるためのチェック行為としての背景がある。
先輩と「1回目の作成→チェック→修正」というスケジュール感をあらかじめ握っていても、やはり前倒して、チェックのタイミングを早めるのが望ましい。
というのも、先輩は「チェックをするのが仕事」である以上、「修正は発生しない」という前提で考えるのは危険なのだ。たとえば、直属に見せたら「こう直した方がいい」というのでその通りにしたら、ひとつ上のレビューで「こう直した方がいい」と、元々の自分の内容になったりした経験はないでしょうか。俺はあります。
これはいろんなケースがあると思うのだけど、もちろん「言うことなし」認定できる度量がある人はいるのだけど、そうでない人、特にあまりイケてない人は威厳を示すためにダメ出しをすることが仕事になっていたりする。その人の顔を立てるために「なるほどです!」と受け入れることが、サラリーマンの仕事だったりもする。
そこを織り込む、「直しがあること前提」でスケジュール管理をしておくのが、自分が気持ち良く仕事するTIPSだったりするのだ。
新人にパーフェクトは不可能!
そして3つ目の理由は、「新人は粘ったところで、しょせんは7割の完成度にすぎない」という事実。
というのも、業務には背景としての知識と、実務的な知識がある。前者は座学的な知識、後者は手を動かしていくことで腹落ちする知識。優劣ではなく、どちらも欠かせないもの。
勉強家さんは独力で前者をキャッチアップしていけるんだけど、後者に関してはどうしてもOJT的な側面がある。「やってみないとわからない」ことが多いんですよね。また、会社独自のルールなりやりざまが存在している。そういった性質のものは、やって覚えるしかない、頭で考えるのは大事だけど、ひとまず手を動かして、差し戻し覚悟で工程を前に進める必要がある。
俺の感覚でいえば、「自分の分を知って、初めて見えるものがある」というスタンスになる。たとえば、経験不足に起因して、独力では考慮できない部分がどうしても出てきてしまうのであれば、それを織り込んだ進め方をしようぜ、という。
俺自身、全体感を把握してからブレイクダウンして進めていくことが得意で、社会人になってからも、新人時代にそれをやろうとして失敗しました。
それは①取り掛かるまでは本当の意味で全体感がわからない(規模感の読みの精度の甘さ)、②未経験の業務における自分の進捗の鈍さ(どこで手が止まるか読めない)、③自分では考慮できていなかった部分が実は大事で、そこで引っかかってしまった(リスク管理)。
というわけで、「効率よく」という思惑が的はずれに終わったことが多々あるんですよね。ドタバタドタバタした苦い経験があります。
えっと、超絶優秀な新人はその限りではないだろうけど、そういう人はこのエントリーを読まないだろうからターゲット外です。
ただし、許されるミス・許されないミスを認識せよ。
最後に。「ミスが当たり前だから、ケアレスミスをしてもよい」と言いたいわけではない。それはさすがに評価が下がってしまう。
特に、同じ指摘は2度までを目安にしたいところ。やはり仏の顔も3度目らしい。誰にでもミスはあるけれど、同じミスを繰り返すのは、「聞いていない」「直す気がない」ととらえられても仕方がなく、心証が下がる。
ナイスなことが「できるようになること」は成長ですが、「イケてないことをしないこと」も間違いなく成長です。目標としては、細かい粒度から大きな粒度の「同じミスしない」ようにすること。どこか特定の管理工程でチェックを怠ってしまうのであれば、その工程でのチェックをまずは潰す。その先ではチェック漏れ自体をゼロに持って行く。やはり最初は徹底的に意識して特別視しないことには、癖は直らないのです。そうすることで徐々に息をするように無意識にできるようになっていく。
仕事ができるように見えるのは、得ばっかりじゃない。
なお、もう少し年次が上がってくると「すぐに終わらせられるが、リマインドが来る直前まで自分のなかで終わらせて、引っ張る」というテクニックも有効である。仕事の回転率が高いと、どんどん仕事がまわってくるのだ。「できる(と思われる)人に仕事がまわってくる法則」です。
で、これを自分のための「よい経験」ととらえられる人はよいのだけど、「なんであの人の分まで俺がやらなきゃいけないんだ!」と思いがちな人には積極的に推奨したいと思います。眉をひそめられるかもしれないけど、期待値コントロールは重要なのだ。
限られた人員で最大限の成果を上げていくのが、会社という組織である以上、余白がある人には仕事が舞い込んでくる。自分で自分を守るために、余白がないように見せるアプローチということです。
自分の期待値をどの高さに設定するかは人それぞれ。そして処世術のひとつ。少し内容の意味合いはちがいますが、日野瑛太郎さんのこちらの記事も「頑張ってるのに評価されない」で自分の身を滅ぼさないために、ぜひ読んでみてください。
イラスト:マツナガエイコ
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本記事は、2016年5月31日のサイボウズ式掲載記事新人は、ていねいな仕事よりも拙速をめざせより転載しました。