サイボウズ式:夫の残業代のかわりに何を「手に入れた」と思えるか、夫婦生活はいいとこ取りできない──小島慶子×主夫・堀込泰三

小島慶子さん「幸せの価値観って、お金のことと家族の時間のことと、両方混ざっているじゃないですか。だから、すり合わせる必要がある」
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旦那さんが会社を辞め、一家を養う立場となったタレント&エッセイストの小島慶子さんと、妻の海外勤務などを機に会社を辞め主夫となる選択をした堀込泰三さん(「秘密結社・主夫の友」CEO)。

前回に引き続き、「主夫家庭」という共通項を持つおふたりに、サイボウズワークスタイルドラマ「声」(全6話)を見ながら、子育て家庭を取り巻く状況や、夫婦でそれを乗り越えるためのコツを語っていただきました。今回は、その第3回目です(全3回)。

「あなた稼いで」というママの気持ちを変えるには、どうしたらいい?

大槻:今回のワークスタイルドラマ「声」の制作を担当したサイボウズの大槻です。ドラマに出てくる夫婦に、おふたりからアドバイスをいただけませんか? 

旦那さんはあんな散らかっている家の様子すら目に入らないみたいだし、夫婦の意思疎通もあまりうまくいっていない。奥さんが体調を崩しちゃって、旦那さんがちょっと気付いて歩み寄るんですけれど、ラストでまた奥さんの地雷を踏んでしまう(笑)。この2人、どうすればいいでしょうか。

小島:旦那さんが「残業代や休日出勤手当が減るかもしれないけど、なるべく早く帰るようにするよ」って言ったとき、奥さんが「じゃ、いいや」って言いますよね。これを妻が言っている限り、変わらないのね。

人生はトレードオフの繰り返しで、両方いいとこ取りはできない。残業代と休出手当がほしいんだったら、夫が家に居ないのはしょうがないですよね。それだったら、夫に地道に組合活動とかしてもらって、じっくりと制度を変えていくくらいしかない。

掘込:たしかにそうですよね。結局「あなた稼いでね」って言っているわけですもんね。

小島:残業代と休出手当が減ったときに何が手に入るのか、というところも、もっと考えないといけないですよね。

夫婦で話し合って、「いまは住宅ローンが大変だから、長期的に考えたらいまはやっぱりお金だね」となるのか、それとも「いまの子どもの精神状態を考えたら、一緒にいる時間を増やしたほうがいいね」となるのか。いま、どっちを優先するかというところを話さないと。

掘込:そのときに、「男は仕事、女は家庭」という意識があると、やっぱり柔軟な話し合いにならないですよね。だからまず、その固定観念から夫婦2人とも自由になって初めて、その話し合いが成立するんだなって思います。

「あなた稼いで」っていうママの気持ちを変えるには、どうしたらいいんでしょうね?

「働くパパ」に焦点をあてたワークスタイルドラマ「声」(全6話)。主人公は、東京の会社でエンジニアとして働く片岡(田中圭さん)。妻・亜紀子(山田キヌヲさん)との気持ちのすれ違いや、親の看病のために会社を辞めて帰郷した先輩・森嶋(オダギリジョーさん)とのやりとりを通し、いま、共働きで子育てする夫婦を取り巻く環境や困難をリアルに描く

小島:仮に女性にある程度収入があるなら「男社会で認められている特別な女には、特別な男がふさわしい」みたいな発想は、まず捨てたほうがいい(笑)。自分が稼げているんだったら、別に相手に求めなくたっていいじゃないとか、そういう発想にならないといけないんじゃないでしょうか。

夫婦お互い収入も働き方も変化する。何かを手放さなくちゃいけないこともあると思うんですけど、手放したら「それを違うもので埋めた」って思えれば、意外とまわっていくんですよね。

たとえば私の場合、夫が会社を辞めることによって世帯収入のある一定割合が急にゼロになった。でも他方では、夫が会社を辞めたおかげで、パースでの生活という、子どもたちにとって良い育児環境を手に入れることができた。そういうふうにも考えられるわけで。

掘込:あとは、あのドラマのなかで、先輩の森嶋さん(オダギリジョーさん)がただ会社を辞めるんじゃなくて、奥さんが働いて大黒柱になっていたらよかったかもしれない(笑)。そういうモデルが身近にひとつでもあれば、片岡さん夫婦も柔軟になれるかも。

「お金」と「家族の時間」の重要度の円グラフ、夫婦で開示し合うべし

小島:幸せの価値観って、お金のことと家族の時間のことと、両方混ざっているじゃないですか。それぞれの重要度がこれぐらい、というバランスがある。だから、夫婦がそれぞれ「私の価値観では、このくらいの按配でございます」って円グラフを見せ合い、すり合わせる必要がある。

これをやらないと、どんな変化も乗り越えられないんですよね。ときにはこれで、取り返しのつかない喧嘩になることもあるんですけれど(笑)。

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タレント&エッセイストの小島慶子さん。夫が会社を辞めたのを機に2014年に一家でオーストラリア・パースに移住。いまは仕事のため出稼ぎ状態で、1か月くらいずつ日本とパースを行き来している。『大黒柱マザー』(双葉社)、『解縛』(新潮社)ほか著書多数

掘込:この夫婦は、そこをやってないんでしょうね。

小島:そうそう。お互いに「あなたにとって幸せって何?」「今、いちばん欲しいものは何?」「あなたが今、いちばん優先しなくてはならないと思っているものは何?」と開示して調整しないと。

これって結構、厳しい話し合いですよ。でもそれをやったほうがいいです。特にこの旦那さん、ボーッとしてるみたいだから(一同笑)。

オヤジの古い武勇伝は、みんなで白眼視する

小島:このドラマに出てきた嫌な上司みたいな、ああいう人に、もっと怒っていいと思うんですよね。「はぁ? 何で"それが当たり前"みたいなこと言うわけ? おかしいんじゃないの?」って(笑)。怒ったこと、あります? 

掘込:直接は怒らないんですけれども、頭の中でよく思ってましたね。

小島:それ、言っていいと思うんですよね。「だいたい俺たち、何でこんなにしんどいわけ?」って。

たとえばね、ベビーシッター代が経費にならないんですよ。働くために子どもを預けているのに、それが経費にならないって、あり得なくないですか? 私、税理士さんに食ってかかったたことありますよ。税理士さんに怒ることじゃないですが(笑)社会の仕組み自体に、そういう「おかしくないか?」って言っていいことが、いっぱいあると思うんです。

掘込:それはたしかに、おかしいです。

小島:テレビ局に、よくいるんですよ。「うち子どもが2人いるんだけどさ、俺が仕事ばっかしてるあいだに、いつのまにか大学出ちゃってさ」なんてことを武勇伝のように語る。そいつ、22年間もボーッとしてたんですよ!(一同笑)

そういうオヤジの武勇伝を、みんなで白眼視する。そういう企業風土にしないとね(笑)。「まじすか? よく家族崩壊しませんでしたね」とか言って、そういうオヤジが責められる雰囲気を作る。

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「秘密結社・主夫の友」CEOの堀込泰三さん。2人の息子(9歳・4歳)を育てる兼業主夫。東大大学院を卒業後、大手自動車メーカーでエンジン開発に携わる。2年間の育児休業を経て、2009年に退社。当時妻と子どもたちが生活していたアメリカへ渡り主夫となる。現在は翻訳業等。著書は『子育て主夫青春物語 ~「東大卒」より家族が大事』(言視舎)

掘込:僕はやっぱり飲み込んじゃうんですよね。育休をとることになって、他部署の上司から「きみには期待してたのに」って過去形で言われたとき、その場では「何を言っているんだろう?」としか思えなくて。家に帰ってからフツフツと、「あれって、なんかおかしくないかな?」と思った。

そのときはどっちかというと、「戻って見返してやる」って思っていました。育休の2年なんて、会社人生40年のうちのたった5%なので、ちょっと頑張ればすぐ追いつける。戻って偉くなるというか、モデルケースみたいになれば、「ああ、男性の育休って、別に出世街道を下りることではないんだな」って証明できる。みたいな責任を感じて、育休から戻るため日本に帰ってきたんですけどね。でも結局退職しちゃった(苦笑)。

組織は形に弱い、「今まで通り」に働けない人全員集合~!で仲間を増やす

小島:会社員時代の経験なんですけれど。たとえば「セクハラ110番窓口」というのができると、「セクハラというものがあるのか」と認知されて、「これを言ったらセクハラになるな」とか、みんな気を付けるようになってきますよね。やっぱり組織って、制度とか形に弱いので、ただ個人で言うよりそういう形を考えたほうがいい。

育休についても、「両立で悩んでいる人、集まれ~!」みたいに声をかけて定期的に会合を持ったりして、いろんな社員でシェアする。そんなふうに、目に見える形でやっていくことも大事かなと思ったんですね。

いきなり会社の制度にするのはムリでも、毎月1回そういう会合があったりすると、「なんか、大変なのね」って認識されていく。そういうことだけでも、「滅私奉公は当たり前」みたいな空気を変えていける力になるんじゃないかな。

掘込:仲間を増やしていくんですね。

小島:そう、仲間がいると、「こんなこと思うの私だけかな?」と思っていたのが、「同じように思っている人、いっぱいいるじゃん!」って変わっていく。せっかく組織にいるなら、組織ならではのやり方もあるのかなって思うんです。

だって、彼以外にも絶対いるはずですよ。あの上司のもとで、苦労している人が。

掘込:片岡さんの後輩で、育児中の木元さんって女性がいましたね。時短で働いている人。

小島:そうそう、彼女は女性なので、まだ言いやすいんですよ。「ワークライフバランスってやつだろう」みたいなことは、少なくとも建前上は分かってもらえる。でも男性は、それが分かってもらえないし、言えないんですよね。

だからね、木元さんが音頭を取って、片岡さんとか、その他の声なき育児パパたちと連帯すればいいと思うんです(笑)。

私、実際に組合でそれをやったんですけど。

「女性の問題だ」と言っている限り、オヤジって聞いてくれないんですよ。だから育児してる女性だけじゃなくて、奥さんがキャビンアテンダントで子どもを見なくちゃいけない男性社員とか、介護中の人とか、病気で通院中の人とか、全員を当事者にする。そうやって母数を増やしたうえで、「今の制度だと働きづらいから、休業制度を変えましょう」みたいにやると、オヤジってようやく話を聞くんですよ。

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掘込:介護の問題も、これからもっと出てきますね。

小島:介護の方が男性の当事者が多いかもしれない。しかもその年代の人って管理職だったりするので、それこそ言い出せずに、結構しんどい思いをしているんですよね。

だからもう、子育てパパ、ママに限らず、「今までどおりでは働けない事情を抱えている人」を、社内で全部募るといいですね。結構な数がいるはずですよ。そうすると、みんなに共通する悩みや改善策が見えてくると思うんです。

たとえば「いまは1日単位でしか休みを取れないのを、時間単位で取れるようにしてほしい」とかね。これだと、育児の人にも介護の人にも、病気で通院中の人にも使えるんですよね。そうした方が、助かる人が多いはず。

掘込:若い人も、あまり理解がなかったりするんですよね。前の会社に毎日定時で帰る子だくさんの課長さんがいて、若い人は「なんで課長なのに早く帰るんだろうね」って言っていた。若い人たちって、人それぞれの事情を想像できなかったりするんですよね。そこにもなにか、伝えていけるといいんですけれど。

小島:子育て中の人を応援したからって、別に君が損するわけじゃなく、むしろ君もやりたいことと仕事を両立しながら柔軟に働けるようになって、得をするかもしれないよ、っていうのを伝えていけるといいと思いますね。

ワーッとなったら、自分の頭の中を翻訳して伝えよう

小島:最後にね、堀込さん、あの奥さんのほうに注意点って何かありません? 私「夫にああいう口調でしゃべるのは自分だけじゃないんだ」と思って安心したんですけど(笑)。

ああいう口調になってしまうとき、どうしたらいいんでしょう?

掘込:え、その、優しく言ってほしいですよね。急に怒られても理由が分からないので、説明をするとか。でないとこっちは、「何で怒ってるんだろう?」って思いながら、うんうんってうなずくしかない(笑)。

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小島:そうか。じゃあ「土曜日出かけよう」って言われたときは、「誰が掃除するの?(低い声)」ではなく、「土曜は私、掃除しようと思ってたから、出かけちゃうとお家の中が汚くなっちゃうけど、どうしよう」まで言えばいいのかな?

掘込:そうですね、そんなふうに頭のなかを開示して欲しいですね。逆にああいうとき、小島さんは、旦那さんにどう対応してほしいです?

小島:反省を込めてなんですけれど。自分がワーッとなっているときは、ただ「私のほうが大変なの!」って言いたいだけだったりするんですよ(笑)。

だからそういうときは、「問題を解決するにはどうしたらいいのか」っていうことに話を引き戻してほしい。そうすると、こっちも「あ、そうであった」と我に返る(笑)。

たとえば「誰が掃除するの?」って言われたら、「わかった、じゃあ誰が掃除するのか問題を解決しよう。まず、果たして土曜日に掃除をする必要が、本当にあるのかどうか。どうしても必要なのであれば、効率的な掃除のやり方を考えよう。掃除の仕方を変えたくないなら、僕に教えて欲しい。教えるのが面倒ならば、申し訳ないけど君がやるしかない」とかね(笑)。そうやって具体的な話に持っていけるといい。

夫でも妻でも、どっちかがそういうふうになったときに、もうひとりが「あなたの辛さを取り除くために、具体的な方法を考えよう」って提案ができるといいと思うんですね。

掘込:そうか、僕も心がけます(笑)。

小島:堀込さんとお話しして、ちょっと夫の気持ちが分かった気がします。いつかパースにいらして、夫にも会ってくださいね(笑)。

(完)

文:大塚玲子/写真:橋本直己/編集:小原弓佳

サイボウズ式」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。

本記事は、2016年3月23日のサイボウズ式掲載記事夫の残業代のかわりに何を「手に入れた」と思えるか、夫婦生活はいいとこ取りできない──小島慶子×主夫・堀込泰三より転載しました。