「最初は、後悔した」/初めてのクラウドファンディング、成功の秘訣は?

「思うように資金が集まらず、後悔した」 初めてクラウドファンディングに挑戦した人が、資金集めの難しさと魅力について話してくれた。
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■なかなか集まらない資金 

自分がかなえたい夢や実現したいプロジェクトのため、インターネットでお金を集める「クラウドファンディング」。米国を中心にブームになりつつあるが、日本ではまだまだ根付いていない。初めてクラウドファンディングに挑戦した、アートディレクターの林口砂里さんが2015年8月19日、クラウドファンディングサイト「A-port」が東京・渋谷で開いたトークショーで、資金集めの難しさと魅力について話してくれた。

林口さんの企画は、高性能望遠鏡「アルマ」の観測データを使って「星の音」をつくり、CDアルバムを制作するプロジェクト。国立天文台の専門家やクリエイター集団「PARTY」といっしょに、著名なミュージシャンやアーティストを巻き込もうと思っていた。楽曲の制作費、CDのパッケージ化や宣伝にかかる費用など、数百万円のお金がかかる。「新しい資金調達の手法を試したい」とA-portに申し込んだ。

「やればすぐ達成できると思ったが、おごりだった。思うように資金が集まらず、最初は後悔した」と林口さんは40人以上の聴衆を前に語った。クラウドファンディングで掲げた目標額は200万円。1口500円から30万円まで、9段階に分けてお金の支援ができる工夫をしたが、なかなか支援者が増えなかったという。5分おきに支援の集まり具合を確認し、ほかの仕事が手につかず、気持ちばかりが焦った。

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■プレスリリースと違う文章術

林口さんはこれまでアートディレクターとして、様々なコンサートの企画やアーティストのマネジメント、地域振興のイベントなどを手がけてきた。メディアを通して社会に問題提起をしたり、企業から協賛金を募ったりする経験は豊富だったが、「クラウドファンディングの資金集めのための文章とプレスリリースは別物だと分かった」という。

プレスリリースの文章や協賛金を得るための企画書は、プロジェクトの社会的意義や新規性を強調するのがコツだ。今回のクラウドファンディングでもそうした文章の書き方でお金の支援を呼びかけている自分に気づいた。

林口さんは「個人の方の共感を得て、お財布をあけてもらうのは大きなハードル」と話した。「社会的意義を訴えれば、『良いプロジェクトだ』とは思ってもらえるが、支援をいただくためには私個人やメンバーの感情を出した文章にするべきだった」。

トークショーで対談した、A-port事務局の中西知子 も「照れがある人もいてなかなか難しいと思いますが、情熱が大事。企画を立てた人がストレートに、応援してください、と言えるかがポイントだと思う」と応じた。

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■目標を4割上回る資金集めに成功

林口さんはソーシャルメディアなどを通して、必死で訴えかけた。なぜ自分がこの企画に惹かれたのか。どうしてお金が必要なのか。「熱意」に押されるかのように、週刊誌「AERA」が林口さんの取り組みについて記事にしたり、参加アーティストがファンに向けて支援を呼びかけてくれたりした。

資金集めの締め切りが迫る5月に入るとぐんぐんと支援の輪が広がり、最終的には287人から277万5100円が集まった。目標額を4割近く上回る達成率だ。林口さんは思わずパソコンの前で小躍りしたそうだ。「とにかく手間がかかるし、大変だった。でも、お金集めを通して、支援者一人一人とコミュニティーが作れた。喜びはひとしおだ」。

お金は今の社会では、どうしても無機質な物にみえるが、本来は一人一人が一生懸命働いて稼ぎ、誰かへの感謝や良い商品や仕事の対価として払うもの。そうしたお金の「暖かい部分」がクラウドファンディングで浮き彫りになるのかもしれない。

■将来の9兆円市場

クラウドファンディングは世界的に注目されており、10年後にはグローバルで9兆円の市場規模にふくらむという予測がある。特に先進地の米国で盛んで、最新の腕時計の開発資金として、20億円以上集めたプロジェクトも現れた。米国では、幼いころから小学生がレモネードを売って小遣いを稼いだり、お菓子を販売してボーイスカウトや学校の活動費を捻出したり、「お金集め」が身近だ。日本ではそうした文化が未成熟で、個人が一般から資金を集めることへのハードルがまだまだ高い。

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■クラウドファンディング4つのポイン

ではどうしたら良いか。トークショーで講演したA-portの荻沼雅美は4つのポイントを挙げた。

(1)「これが欲しい」と思わせるリターンの魅力を大切に

クラウドファンディングでお金を出した人は、金額に応じた特典がもらえる。林口さんの場合は、500円を出せばメンバーから直接お礼のメッセージが届き、3万円を支援すればCDブックレットに名前が印刷されるようにした。出せるお金を何段階かに分けることで、「気軽な支援」から「ガッツリとした支援」まで選べるようにするのがポイントだ。

(2)SNSなどの拡散力が効いてくる

同じA-portを使って、沖縄の伝統的技法のデザインを生かした食器作りを企画した女性作家は、目標額の3倍上以上の160万円の資金を集めた。74.3%が知り合い以外の支援者で、大きな額を集めるためには、自分が直接知らないネットワークの人たちに思いを届けることが大事だということを証明した。メディアの取材を受けたり、ツイッターやフェイスブックを使ったりする支援の呼びかけが効いてくる。

(3)「仲間になりたい」という心理を生かそう

日本語の「寄付」という言葉は、お金をあげる人と受け取る人の間に上下関係が生まれるようなイメージを与える。クラウドファンディングの場合、「お金を恵んでもらう存在」ではなく、「一緒にプロジェクトを成功させる仲間」と考える。起案者が、企画を進めるメンバーの個人的な思いを紹介したり、お金集めの苦労を率直に語ったりすれば、一緒になってプロジェクトを広めてくれる。

4)思わずハマってしまう「ゲーム性」を生み出そう

最初の1週間で目標の30%のお金が集まり、残りの1週間で70%集まるのが、よくある成功パターン。ラストスパートで一気に目標を達成する人が少なくない。最後の方になると、「本当に達成できるのか?」と見ている方もドキドキして思わず支援したくなる。最後の1週間になったら、資金集めをゲームのように演出しよう。