プーチン大統領が3月18日、ウクライナ南部のクリミア自治共和国をロシアに編入することを表明したことを受け、ロシアの孤立化を狙った動きが激しくなっている。なかでも中国を自国側に引きこもうとするロシアとアメリカの動きが目立っている。日本にはどのような影響があるのか。
プーチン大統領、中国との関係をアピール
中国はクリミアのロシアの軍事介入について、これまで明言を避けてきた。中国外務省の秦剛報道局長は4日、中国は一貫して内政不干渉の原則を堅持すると示しつつ、「ウクライナ問題の歴史的な経緯と、現状の複雑さを考慮している」として介入に対する立場は、明確にしなかった。
これらに対しプーチン大統領は18日、クリミアのロシア編入に関する演説の中で、アメリカなどは国名を挙げて非難を行った一方、ロシアの行動を理解したとして中国に謝意を示している。中国がロシアと親しいことをアピールする狙いだ。
ロシアはさらにヨーロッパ諸国へのかわりに、中国へのガス供給拡大を加速する計画を準備しているという。2月27日には、ロシア政府系の天然ガス大手ガスプロムが、中国国営企業のCNPCとガス供給へ向けて、年末までに調印することを目指すと報じられている。
制裁で欧米企業がロシアから引きあげた場合、中国にとっては絶好のチャンスとなる。14日の新華網は、中国はエネルギーだけでなく、軍需産業でも利益を得る可能性や、対ロシア投資などが歓迎される可能性も伝えている。
中国の低コスト製造業、ロシアの豊富な自然資源は、両国が互いに欲するものだ。ロシアとウクライナの関係が近年膠着状態に陥る中、中露関係は日増しに親密さを増している。ウクライナ情勢がロシア経済にもたらした損失を修復し、外資撤退後に残された空白を埋める必要がある。これにロシアにもとより存在する外資の需要が加わり、中国の投資家はチャンスを迎えるだろう。
(新華網「ウクライナ情勢、中国経済への影響は?」より 2014-03-14 10:52)
アメリカ、中国に接近 日本には好ましくないとの見方も
ロシアを孤立させたいアメリカは、中国とロシアが接近することを望んでいない。そのためオバマ大統領は、24日、25日に開催される核セキュリティーサミットにおいて、中国の習近平国家主席と会談するとしている。中国をアメリカ側に引き寄せ、ロシアをより孤立させる狙いだ。
今月24日と25日にオランダで開かれる「核セキュリティーサミット」の期間中、習近平国家主席とアメリカのオバマ大統領との首脳会談を行うことで、両国が合意したということです。(中国外務省の李保東外務次官は)会見で「今後の米中関係の発展に向けて会談の意義は非常に大きく、2国間関係や双方が関心のある問題について意見を交わすことになる」と述べました。(中略)
会談では2国間関係のほか、ウクライナ情勢を巡っても意見を交わすものとみられ、ロシアへの制裁を強める姿勢をみせるアメリカと、これに反対の立場を取る中国との間で、どのような話し合いが行われるのか注目されます。
(NHKニュース「核セキュリティーサミットで米中首脳会談へ」より 2014/03/17 16:50)
しかし、中国とアメリカの接近は、日本にとっては好ましくないとの見方もある。アメリカが中国の提唱する「新型大国関係」を認めるのではないかとの懸念があるためだ。
「新型大国関係」とは、中国とアメリカの間で衝突や対抗を避け、ウィン-ウィンの関係を目指すことを指す。そのためにはアメリカが、中国の領土や、社会システム、国家観などを認めることが重要になるとされており、尖閣諸島の問題なども中国にとって有利になるのではないかとの見方もある。
「中国は『中立』の立場を巧妙に利用し、米国を『新型大国関係』に傾斜させるという『漁夫の利』を狙っている」(外交筋)との見方もある。オバマ政権は北朝鮮問題で中国の協力を引き続き必要としているうえ、これにウクライナ情勢が加わり、政権を「新型大国関係」へと後押しする力学が働く可能性は高い。
(MSN産経ニュース「【クリミア併合】米、対露戦略で中国への関与強化、日米分断の危険性も」より 2014/03/19 08:16)
プーチン、日本にも牽制
一方、プーチン大統領は日本へのメッセージも忘れていない。19日に開催された日露両国間の投資促進策を話し合う「日露投資フォーラム」で代読されたプーチン大統領のメッセージには、「露日の協力がさらに勢いづく可能性がある」と述べられていた。
「昨年、日露二国間の貿易額は330億ドルを超え、過去最高に達しました。
地域間の交流が拡大し、シベリアや極東の発展や促進を呼びかける『共同イニシアティブ』が増えています。エネルギー、木材加工、健康、インフラ分野における大規模な投資プロジェクトが実現されています。(中略)
特にハイテク産業、新技術の開発で、日露協力がさらに勢いを増す可能性があります。」
(ロシア大統領政府「第6回日露投資フォーラム 参加者の皆様へ」より 2014/03/19)
しかしロシアと日本との関係には、日本企業からの懸念の声も聞こえる。日露投資フォーラムに参加した企業は、次のように話しているという。
「日露投資フォーラム」に参加した日本の大手電機メーカーの担当者は、「今後、ロシアへの制裁措置で銀行の送金が停止されるなど経済活動の制限につながらないか不安に感じている。ただ、政治と経済は独立しているし、企業の間ではいい関係を保っているのでこれからどう影響が出るか様子を見たい」と話していました。
一方、ロシアからの出席者でサマラ州の経済特区の担当者は、「日本との関係は今後さらに発展すると思っている。今の状況はビジネスの交流を中断させる理由にはならないし、すぐに解決されると信じている」と話していました。
(NHKニュース「投資会議で日ロ関係懸念の声」より 2014/03/19 20:49)
日本にとっては北方領土の問題もあり、ロシアのウクライナへの介入を認める訳にはいかない事情がある。安倍首相はこれまで精力的に北方領土交渉を進めてきており、秋にはプーチン大統領の来日も予定されている。今後日本は中国やアメリカの動きを見据えて、ロシアとどのように関係を続けるのか。難しい舵取りが続きそうだ。
【※】クリミア情勢をめぐる日本の立ち位置についてあなたはどのように考えますか。ご意見をお寄せください。
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