現代日本版"ウィーン分離派"、80人の若手クリエイター集団「C-DEPOT」の軌跡、映画に

誰もが自身の思いを表現し、発信できる時代。一方で、クリエイターやアーティストが、プロとして生計を立てていくのは難しい時代のクリエイター集団を紹介しよう。
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誰もが自身の思いを表現し、発信できる時代。一方で、クリエイターやアーティストが、プロとして生計を立てていくのは難しい時代でもある。

写真、版画、染色ガラス、漆、立体作品、メディアアート、油彩画、水彩画、日本画、......。実に様々な分野で活躍する、20~40代の若手クリエイター集団が日本に存在する。ニューヨークやロンドン、北海道から九州まで全国で活動する、約80人が所属している。

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なぜ彼らは独自のコミュニティを築き上げてきたのだろうか。今注目のクリエイター集団と、彼らを率いる画家を追ったドキュメンタリー映画が、もうすぐ完成する。双子の映画監督が、上映イベントの資金をクラウドファンディングで募っている

クリムト「ウィーン分離派」に影響

彼らを率いるのは、独特の色彩で描く動物の絵で知られる、画家の金丸悠児さん(36)。金丸さんは2002年、在学していた東京芸大デザイン科の仲間たちとともにC-DEPOTを結成した。19世紀オーストリアで、画家クリムトが若い芸術家たちとともに、過去にとらわれない新しい芸術のあり方を追求しようと立ち上げた「ウィーン分離派」に影響を受け、若手同士が切磋琢磨しながら、ともに現代芸術を追求しようと、C-DEPOTを立ち上げた。

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C-DEPOTの「C」は、Creative(創造)、Color(色)、Collaboration(共同作業)、 Connection(つながり)、 Communication(対話)などの意味を込め、「DEPOT」は 駅や発着所、倉庫などの意味を込めた。

グループ展10年、最多動員1万人

「ウィーン分離派は、絵画、彫刻、建築といった従来の優越的なジャンルと、デザイン、工芸、ファッションといった人々の生活に密着した実用美術を、ともに芸術として分け隔てなく捉えていて、当時の最先端だった。その現代版をやりたい。社会と密接に関わるアートを追求したい」と考えた金丸さん。2003年、メンバー17人でグループ展「EXHIBITION C-DEPOT 2003」を神奈川県川崎市で開いた。それから10年にわたり、毎年「EXHIBITION C-DEPOT」を開いてきた。メンバーがメンバーを呼び、所属作家は年々増え、最多動員数は約9700人に達した。

10年間の活動を通じて若手クリエイター集団C-DEPOTの存在は広く知られるようになり、様々な展覧会やイベント、企業などから声がかかるようになった。「C-DEPOTなら、何か面白いものを生み出してくれるのでは」。まずは金丸さんに打診があり、金丸さんからSNSなどを通じてメンバーに呼びかける。

サマソニ、六本木アートナイトにも参加「とてつもないエネルギー」

最近では、ロックイベントSUMMER SONICの「SONICART」や、六本木が一日だけアートに染まる「六本木アートナイト」、デザインイベントの「TOKYO DESIGNERS WEEK」、池袋をアートで活性化させるイベント「新池袋モンパルナス西口まちかど回遊美術館」に参加したほか、メガネブランド「JINS」のアートプロジェクトにも携わり、ホテルの内装やカフェの展示なども手がける。多様な作品発表の機会を得てきた。

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ひとりで活動していたら、ここまで活動の場を広げられなかったのではないか。「グループが育てば、在籍しているメンバーも育つ。個人の実績をあげれば、それがグループの評価にもつながる。普段は個々が別々に活動するのが基本だけど、皆がほんの少しのベクトルを同じ方向に傾かせるだけで、それがとてつもないエネルギーに変貌する」と金丸さん。様々な表現方法で芸術を追究するメンバー同士で刺激を請け合い、時にはコラボレーション作品が生まれることもある。

作家本位の集団、若手を守り育てる

いま、芸術家にとって厳しい時代だと感じている。誰もが手軽にホームページやSNS、ブログなどで自らを発信できることができるようになったことで、発表の機会には恵まれている。しかし、作品の本当の価値より低価格で消費されていくことで、若手が消えてしまうことを懸念している。「大御所と新人の間の中堅が育ちにくいと言われている。アーティストが受け身に陥らず、しっかり自分の足で立って発信していくために、アーティスト本位の集団、拠点を作りたかったんです。10年間の活動で、だいぶ認められるようになってきた」。寡黙ながらも、プロの芸術家としての生き方を模索し、メンバーを静かに引っ張っている。

C-DEPOTメンバーはどう感じているのか。金丸さんの芸大仲間で、創設当時から参加している画家の青山健一さん(38)は、「C-DEPOTは自分の力が試せる場。メンバーから刺激や気づきをいただき、影響を受けてきたからこそ、ずっと画家として続けてこられた。C-DEPOTに入ってなかったら、消えていたかもしれません」と話す。音楽制作も手がけ、今回のドキュメンタリー映画の音楽にも携わっている。

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金丸さん(左)と青山さん。絵は金丸さんの作品

響き合う姿、映画に 

岩手県在住で、これまで社会派のドキュメンタリー作品を制作してきた双子のドキュメンタリー映画作家の都鳥拓也さん・都鳥伸也さん兄弟は2014年の1年間、金丸さんとC-DEPOTの活動を追ってきた。「金丸さんら同世代の若者たちの持つ、『世の中への不安と絶望』のなか、アーティスト集団として結束し、希望をあきらめない彼らの姿は、きっと多くの人々に希望と勇気を与えてくれるはずです」と伸也監督はいう。

タイトルは「響生(きょうせい) アートの力」。当初、関係者を中心にDVDを販売するプロジェクトとしてスタートしたが、映画が完成に近づくにつれ、「多くの方々にこの作品を観ていただきたい」と、2015年11月21日(土)、渋谷で作品の上映イベントを開くことにした。金丸さんをはじめ、所属アーティストたちとともに完成した映画を鑑賞し、上映後はアーティストたちによる「アーティストトーク」を行う。メンバーによる展示も予定している。

クラウドファンディング支援募集中 完成イベントに招待も

イベント開催費用として、クラウドファンディングサイト「A-port」で支援を募っている。目標は60万円で、現在約7割の支援を集め、残り約10日で達成を目指す。5千円の支援で、イベント招待券1枚とDVDなどがリターンとして贈られる。