映画「クレイジー・リッチ!」を見て、アジア系アメリカ人記者が涙した理由

出演者のほぼ全員がアジア系俳優。邦訳者は「黒人にとって『ブラックパンサー』が果たした役を、アジア人にとっては『クレイジー・リッチ・アジアン』が果たした」

出演者をアジア系俳優で固めたハリウッド映画「クレイジー・リッチ!」(9月28日日本公開・原題:Crazy Rich Asians)。「アジア系俳優を起用した映画は、収益を上げられないリスクがある」という説を覆し、全米で大ヒットしている。

自身のルーツへの万感の思いを抱きながら、この映画を見た記者がいた。ハフポストUS版の記者、キンバリー・ヤムさん。ヤムさんは、ハフポストUS版で「アジアンボイス」のカテゴリーを担当し、アジア系アメリカ人にまつわる問題を主に取材している。

映画をみながら「どういうわけか、涙が止まらない」などと綴ったヤムさんのツイートが、Twitterで広く共感を呼んでいる。

ヤムさんの一連のツイートが「胸にグッときた」と、全文を日本語に翻訳したkai357さんは「黒人にとって『ブラックパンサー』が果たした役を、アジア人にとっては『クレイジー・リッチ・アジアン』が果たしたんだろうな」と、自身のブログで述べている。

kai357さんの許可を得て、ヤムさんのツイートの日本語訳を紹介する。

■「中国人でなんかいたくない」

ヤムさんのツイートは、8歳の子どもが、中国人に対する周囲のまなざしに直面し、自分のアイデンティティーを受け入れられなくなる場面から描き出す。

You're 8 years old.

Your 3rd grade class orders chinese food & your father delivers it. You are so excited to see your pops in school. He's your hero. But apparently other kids don't think he's so cool. They laugh at him and mimic his accent. You don't want to be Chinese anymore. pic.twitter.com/6vW9DXZK6x

— Kimberly Yam (@kimmythepooh) 2018年8月18日

8歳。クラスで中華料理を頼んだとき、あなたの父親が配達に来た。学校で父親に会えて、あなたはとても嬉しかった。だって、彼はあなたのヒーローだから。でも他の子たちにとっては違ったらしい。みんな父親の訛りを真似て、笑いものにした。あなたは思う。中国人でなんかいたくない。

■アジア系の自分の顔が嫌い

ツイートは、日常にある、アジア系への蔑視を浮き彫りにしていく。その中で、ますます自信を喪失する子ども。

9歳。バレエ合宿で、他の女の子があなたを『大嫌い』だと言ってたよ、と告げられる。だって、あなたの目は『醜い形』をしてるんだもの。なぜその言葉に傷ついたのか、あなたは上手く説明できない。でも、はっきりとアジア系である自分の顔が嫌いになり、あなたは思う。中国人でなんかいたくない。

16歳。ハロウィーンのとき、同級生ふたりが『アジア人の観光客』に扮して学校に来た。目をセロテープでつりあげ、カメラを首に下げ、ピースサインをして。あなたは居心地が悪かったけれど、教師にこの格好は侮辱的なものかと聞かれ、そんなことはないと答えた。お堅いやつだと思われたくなかったから。そしてクラスのみんなと一緒になって笑った。あなたは思う。中国人でなんかいたくない。

■ほかのアジア系学生との出会いが自分を変えた

転機が訪れる。アジア系学生たちとの出会いだ。

17歳。大学に進学して、他のアジア人学生に出会う。彼らは、あなたと違い、みんな自分に誇りを持っている。とある男の子に、なぜ母語を話さないのかと聞かれた。なぜあなたの好物はグリルドチーズで、小籠包じゃないのかと。あなたは答える。私の家族はそういう感じじゃないから。

けれど、あなたは知っている。ずいぶん前に、自国の文化を捨ててしまったことを。中国語を話すことを拒否し、母親が作ってくれた料理を『まずくて気色悪い』と言ってしまったことを。サイテーだ。そこであなたは気づく。嫌っていた自分の何もかもを、取り戻さなくては。あなたは、初めて思う。中国人でいたい。

■「自分」を取り戻す

20歳。あれから数年、あなたは「自分」を取り戻そうとしてきた。名字を刺青にしていれた。漢字の文字が、肌に永遠に残るように。子供のころのような思いを、もう二度と、誰にもさせられてたまるものか。あなたは思う。中国人でよかった。

そんな道をたどってきた彼女が、「 クレイジー・リッチ!」を見て思ったこと。

25歳。キャストの全員がアジア人という映画を試写会で見て、どういうわけか、涙が止まらない。あなたは、ハリウッドでこんなキャスティングの映画を見たことがなかった。誰もかれもがうつくしい。あなたは思う。中国人で本当に幸せだ。