亜熱帯や熱帯の海を彩るサンゴはオニヒトデの食害や海水温上昇などによる白化現象で減っている。2000年以降はさまざまな病気の増加もサンゴの減少を加速した。サンゴに近い仲間のソフトコーラルを大量死させる糸状の細菌シアノバクテリアが繁茂する仕組みを、琉球大学熱帯生物圏研究センターの山城秀之(やましろ ひでゆき)教授らが解明した。サンゴ礁の生態系研究や保全対策に役立つ成果として注目される。8月12日付の英オンライン科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。
研究したのは、沖縄本島の西約40㎞にある座間味村の離島、阿嘉島(あかじま)南端の沖、水深約20mのきれいなサンゴ礁に生息するソフトコーラルの1種、アミメヒラヤギ群体。カラフルなダイダイ色で、ダイバーらに人気がある。その群体の4分の1にシアノバクテリアがいた。この細菌が繁茂して表面を覆うと、アミメヒラヤギは窒息して死んでいく。
米フロリダ半島沖のカリブ海で富栄養化が原因になって、細菌によるソフトコーラルの大量死の報告がある。しかし、沖縄の阿嘉島の海域は栄養塩類の濃度が低くて、流れも速く、水質汚染が原因ではなかった。研究グループはシアノバクテリアの生態を詳しく調べた。細菌の塊の多くは直径数㎝の円柱状からなり、それぞれが体長約3㎝のツノナシテッポウエビの巣になっていた。中に入ったエビは、巣を構成する細菌を食べていた。
細菌は通常、冬に消えていくが、このシアノバクテリアは一年中繁茂していた。共生するツノナシテッポウエビがアミメヒラヤギの枝にシアノバクテリアを結わえて巣を作るため、年中の繁茂を可能にしていた。またシアノバクテリア自身が、アミメヒラヤギの枝にアンカー(くい)を打ち込んでいた。打ち込まれた先端は髪の毛の根のように膨らんでしっかりと固定していることも初めて突き止め、大量繁茂の謎を解いた。
山城秀之教授は「このソフトコーラルを大量死させるシアノバクテリアは阿嘉島沖で15年ほど前に出現し、あちこちでソフトコーラルを腐らして脱落させていく。細菌によるサンゴの死滅が広がっている。よく調べれば、世界のほかのサンゴ礁でも起きている可能性はある。対策は、ダイバーが見つけたら、エビと細菌の塊を取っていくしかないが、それだけでは追いつかない」と話している。
関連リンク
・琉球大学 プレスリリース
・サイエンティフィックリポーツ 論文