パソコンやスマホは音楽や動画の複製ができるのだから、機器メーカーやサービス提供者は、権利者へ「補償金」を払って欲しい--。
日本音楽著作権協会(JASRAC)など音楽や映像の権利者団体などで構成される「Culture First」は11月14日、著作物の「コピー(複製)」に対する、新たな補償金制度の創設を提案した。著作物の「コピー機能」を有する機器やサービスの提供者は、機器かサービスかに関係なく、権利者への「補償金」支払いを義務付けるという制度だ。
もしこの制度が成立すると、様々な機器メーカーやサービス事業者が、権利者に補償金を支払う義務が生じる。そして実際に金額を負担するのは、価格転嫁された商品やサービスを購入・利用する「消費者」となりそうだ。
■Culture Firstの提案とはどのようなものか
現在の著作権法では、個人利用の目的で音楽やテレビ番組などを録音・複製することは合法だとされている。ただし、コンテンツ権利者の利益を守るための「私的録音・録画補償金制度」制度が設立されており、メーカー側が補償金を上乗せした価格で録音・録画機器や記憶メディア(媒体)を販売することで、個人から補償金を徴収する仕組みになっている。
しかし、パソコンやハードディスクレコーダーなどはこの制度の対象ではない。というのも、どの機器から補償金を徴収するかは、一つ一つ政府の審議を経てから決められるため、法律がテクノロジーの進化に追いついていないという状態なのだ。そのためCulture Furstは今回、「機器」を補償金徴収の対象とするのではなく、「機能」を対象とすると提言した。
また、補償金を支払うのは利用者ではなく、コピー機能を有する機器やサービスを提供する「事業者」にするとした。コピー機能を提供することで、事業者側が利益を挙げているという理由からだ。
そのため、パソコンやタブレットはもちろん、スマートフォンやスキャナー、プリンターなどの機器メーカー、音楽をコピーするソフトやスキャニングソフトを製作する企業、さらには、インターネットで提供されるサービス事業者が幅広く徴収の対象となる。
1.補償の対象は私的複製に供与される複製機能とする
機器と記録媒体を区別することなく私的複製に供与される複製機能を補償の対象とする。
2.補償義務者は複製機能を提供する事業者とする
利用者に複製機能を提供することで利益を上げている事業者等を補償義務者とする。
(Culture First「新たな補償制度創設の提言」より。2013/11/14)
■補償金の激減が提案の原因か
この提案の背景には、補償金の落ち込みがあるとみられる。
私的録音補償金については、iPodなどのデジタルオーディオプレイヤーの普及に伴ってCD-Rなどの需要が減ったことで、2001年には40億円以上あった徴収額が2013年は1億円を切った。
また、私的録画補償金については、地デジの移行に伴って普及した「デジタル放送専用レコーダー」が、裁判で補償の対象外との判決が出たことによって、メーカー各社は補償金の上乗せを停止。2013年には徴収額がゼロとなっている。
この事態について、Culture Firstは、私的複製に関係する「ユーザー」、「複製手段を提供する者」、「権利者」の三者の利益のバランスを考えることが必要だと訴える。
■過度な著作権保護に異を唱える産業界
一方、過度な著作権保護体制はビジネスの障害となりかねないという意見もある。インターネットを経由して各種サービスを提供する「クラウドサービス」が、規制を懸念しているビジネスの一つだ。
安倍政権では今年6月、「世界最先端IT国家創造」宣言を閣議決定し、革新的な新産業・新サービスの創出を促進する社会を目指すとした。ビジネス推進を妨げるような規制は見直されるべきとされ、クラウドサービスにおける著作権ありかたも、検討対象の一つとなった。
文化庁の審議会はクラウドサービスを展開する企業らにヒアリングを開始。現在提供されているクラウドサービスには、それぞれどのような課題があるのかをまとめている。
楽天の三木谷浩史社長が代表を務める経済団体「新経済連盟」(新経連)は、アメリカで実際に展開されている「スキャン&マッチ型音楽クラウドサービス」の例をあげ、これを日本に持ってこようとすると、法的リスクが存在すると指摘した。
スキャン&マッチ型音楽クラウドサービスとは、ユーザーのパソコン内にある音楽ファイルをスキャンし、サービス提供者が取り扱っている楽曲と照合して一致すれば、ユーザーの持つAndroidやiPhoneなど他の端末へ、ユーザー自身がアップロードすることなく、提供者の配信を受けることができる。
好きなときに、好きな場所で、好きなデバイスで、手軽に視聴したいという「マルチデバイス」なサービスをユーザーは望んでいるが、これを日本で行うとなると、違法な複製に該当する可能性があるのではないかという。
また、電子工業分野のメーカーの業界団体である電子情報技術産業協会(JEITA)は、私的複製を企業が手伝う「私的複製の支援サービス」も違法としないでほしいと訴えている。
支援サービスの例としては、VHSビデオを動画にするような「メディア変換」サービスであったり、テレビの録画を自宅で自分でやっていたものをクラウド側で管理も含めて代行する「個人向け録画視聴サービス」等があげられた。
■産業界と権利者、そして利用者のバランスをどう取るか
政府の規制改革会議は、クラウドサービスと著作権に関する議論について2013年中に取りまとめたいとしていた。文化庁は「著作物等の適切な保護と利用・流通に関わるワーキングチーム」を設置し、今後、議論を加速するとしている。
JEITAは今後の議論について、ユーザー利便性を向上するかという点や、新産業の創出・拡大に資するかの点だけでなく、権利者に実質的な損害がないかということも含めて合理的な判断基準を持って、進めてほしいと提案している。
ユーザー利便性があり、且つ、新産業創出拡大に資する行為については、著作権者の反対だけを理由に適法化を否定したり、金銭の支払を条件にすることがないようにして頂きたい。
違法行為に基づく損害賠償請求においてすら著作権者は損害の立証責任を負担しなければならないのであるから、権利制限規定の検討においても、著作権者に実質的損害が生じるかどうかが検討されなければならないのではないか。実質的損害が確認されない場合には、当該行為の適法化が認められるべきである。
(規制改革会議「第9回創業・IT等ワーキング・グループ」より 2013/9/30)
現代のコンテンツ利用シーンに応じて制度を変える必要性は否めない。誰がどのように著作権料を負担することが望ましいのか、三者ウィン-ウィンの関係となる落とし所を探るのは、困難を伴う議論となりそうだ。
現代における著作権料負担制度について、あなたはどう考えますか?ご意見をお寄せ下さい。