COP21「パリ協定」が日本に迫るもの~原発再稼動・増設の是非と再エネ普及に伴う国民負担増:研究員の眼

12月12日、第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)は2020年以降の地球温暖化対策の新たな枠組みとなる「パリ協定」を採択した。
|

COP21、「温室効果ガス排出削減」が国際的な枠組みに)

12月12日、第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)は2020年以降の地球温暖化対策の新たな枠組みとなる「パリ協定」を採択した。

パリ協定は、1997年の京都議定書(*1)の採択以来、18年ぶりとなる法的拘束力を持つ国際的な枠組み。

京都議定書は先進国のみに温室効果ガスの排出削減を義務づけるものだったが、今回は途上国を含むすべての国(*2)が温室効果ガスの排出削減に取り組むという画期的なものとなった。

協定の条文内に全体の削減量は明記されなかったものの、「世界の気温上昇を2度未満に抑えることを目標にすること、同時に1.5度未満を目指し努力すること」が明記された。

各国は事前に自国の削減目標を提出していたが、さらに今後5年ごとに目標に対する進捗状況や現水準以上の新たな目標を国連に報告することが義務づけられた。「温室効果ガス排出削減」が世界的な流れとなったことで、今後日本も他の主要国に劣らぬ責任ある取り組みが求められる。

(日本の削減目標)

2015年7月、日本は国連に「2030年度までに2013年度比26%減(*3)」を実現可能な削減目標(*4)として提出しており、今回の採択を受けて正式な国際公約となった。

26%の削減の内訳は、森林整備やフロン対策で4.1%、そして再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入拡大や原発の再稼動で21.9%削減するというもの。

温室効果ガスの排出は化石資源(石炭、天然ガス、石油)を用いた発電時によるものが大部分を占める。化石資源による発電比率を引き下げ、ゼロエミッション電源である再エネと原発の比率を現状よりも大幅に引き上げることで目標達成を目指すというものだ。

削減目標提示にあたり策定された2030年時点の電源構成目標は前ページの図表の通り。再エネは13年度の11%から22~24%に倍増。原子力は重要なベースロード電源と位置付けられ、13年度の1%から30年度に20~22%にまで引き上げる方針だ。

しかし、この再エネと原子力との電源構成比率の引き上げについては実現までの道筋がはっきりと示されていない。

Open Image Modal

(原子力:見通せない再稼動への道筋、40年廃炉基準問題)

福島第一原子力発電所の事故後、国内の原子力発電所は一時全てが稼動停止となり、現在稼動中は2基のみ。政府は原子力発電所を安全審査に合格したものから順次再稼動を進める方針だが、地元合意を得ることが難しいなど、今後の再稼動すら容易に見通せない状況(*5)である。

さらに原子力発電所には「40年廃炉基準」があり、原則運転開始後40年経過した原子力発電所は廃炉にするというルールがある。

「40年廃炉基準」を適用した場合、すべて再稼動できたとしても電力構成に占める原子力比率は15%程度までにしかならず、30年度目標比率20~22%を達成できない。

目標達成には原発の再稼動状況を踏まえた運転の延長(*6)そして新設について検討を進める必要があるものの、議論は進んでいない。

(再生可能エネルギー:固定価格買取制度による国民負担の増加)

再エネは他の電源よりも発電コストが高くなかなか普及が進まなかったものの、2012年7月の固定価格買取制度導入以来、急速に普及してきている(*7)。

固定価格買取制度とは、再エネで発電する電力を電力会社に一定期間、一定価格で買取ることを義務づける制度(*8)である。買い取りのための費用は「再生可能エネルギー賦課金(以下、賦課金)」として毎月の電気料金に上乗せされ、家庭や企業が負担している。

Open Image Modal

固定価格買取制度は再エネ普及を促した反面で問題もある。

制度導入当初は標準家庭(*9)で月あたりの負担が66円(年間792円)だったものが、2015年度には賦課金の総額が約1.3兆円にまで膨らんだ結果、標準家庭の負担は月あたり474円(年間5,688円)にまでなっている。

さらに制度開始後、設備認定を受けている中で既に運転が開始されているのは約24%(*10)にしかすぎず、既認定分全てが運転開始されると賦課金の総額は2.7兆円になると試算されている。単純計算で標準家庭の負担は2倍近くまで急増する可能性もある(*11)。

仮に年間1万円を超える追加負担が家計に及べば、国民から制度に対する批判が急増するだろう。14年4月の消費増税後の低迷からようやく緩やかに回復してきた個人消費の足かせにもなりかねない。制度への理解はもちろん、国民負担のあり方を問う必要がある。

安倍首相はCOP21合意に際して発表した談話(*12)の中で、温室効果ガスの26%削減目標の取り組みを内閣の最重要課題として取り組むと表明している。

今後は企業や一般家庭における省エネ化や技術革新などを後押しする施策が急務となろう。

そして、現在示している電源構成目標に基づくのであれば、原発再稼動や新設の是非、再エネ普及と国民負担のあり方を議論し明確な方向性を打ち出すなど、削減目標の実効性をどのように担保するのかを示す必要がある。

関連レポート

(*1) 1997年、京都で開かれたCOP3で採択された気候変動枠組条約に関する議定書。

(*2) 国連に加盟する196カ国。

(*3) (公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)システム研究グループの「日本のエネルギーミックスと約束草案の評価」において、日本の排出削減目標は、他の主要国と比較しても優れたものと評価されている。

(*4) 2009年(当時、鳩山首相)、日本は「2020年までに1990年比で25%削減」という目標を表明していた。2013年のCOP19にて安倍首相は民主党政権下で提出した上記目標を撤回。今回のCOP21に向けてエネルギー基本計画を作成し、電源構成のあり方と温室効果ガス削減目標を策定した。「2013年比26%減」目標は、1990年比では18%減となる。

(*5) 15原発25基が規制委員会に安全審査を申請うち、3原発5基が合格という状況。2015年12月時点で再稼動は2基のみ。

(*6) 原子力規制委員会が作成・運用している新規制基準では、60年まで運転延長が認められるが、新基準を満たす安全対策に多額の投資が必要となる。

(*7) 2009年から固定買取制度導入前までの期間では、再エネ発電設備容量は年平均伸び率は9%だったが、制度導入後から2014年年平均伸び率は33%。太陽光は風力や水力や地熱などに比べ必要な環境調査や初期投資といった参入障壁のハードルが低いためローリスク・ローリターン投資として急増した。制度開始後の導入量、認定量ともに太陽光が9割以上を占める。

(*8) 対象となる再生可能エネルギーは「太陽光」「風力」「水力」「地熱」「バイオマス」。

(*9) 月間使用量300kWhを標準家庭と想定している。

(*10) 平成27年5月時点の数値。経済産業省「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会(第1回)‐配布資料」より。

(*11) 現在、入札制度の導入などが検討されており、電気料金の急激な上昇に歯止めをかける一手として期待できる。もっとも、これまでに認定された設備については、これまで通り固定価格での買い取りが続くため、一定期間は賦課金が下げに転じることは考えにくい。

(*12) 首相官邸HP 「平成27年12月13日国連気候変動枠組条約第二十一回締約国会議の合意に関する内閣総理大臣の談話(http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/151213danwa.html)」より

(2015年12月18日「研究員の眼」より転載)

株式会社ニッセイ基礎研究所

経済研究部 研究員