森林文化協会の発行する月刊『グリーン・パワー』は、森林を軸に自然環境や生活文化の話題を幅広く発信しています。11月号の「時評」では、京都大学名誉教授の松下和夫さんが、間近に迫った気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)への思いを寄せてくださいました。
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いよいよ今年の11月30日から12月11日まで、パリで今後の人類の将来を左右するともいわれる気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)が開催される。
パリの会議では、危険な気候変動の影響を防ぐため、新しい温暖化対策について、すべての国が参加する公平かつ実効的な国際的枠組みへの合意が求められている。
2014年10月のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書は、世界が21世紀末までに温室効果ガスを出さない社会(ゼロ炭素社会)への移行が避けられないことを明確にした。報告書によると、気温上昇を2度未満に抑制するという国際社会の目標を達成できる可能性の高い経路は、2050年に2010年と比べて世界全体の排出量を40〜70%削減し、2100年にはゼロまたはマイナスとするものだ。21世紀末までに世界は、ゼロ炭素社会に移行しなければならないのである。
私たちはCOP21を契機に低炭素でレジリアントな(回復力のある)社会への大転換を成し遂げなければならない。
ゼロ炭素社会への移行には、①化石燃料の生産および消費の短期間での削減②再生可能エネルギー利用の飛躍的拡大③エネルギー効率の飛躍的な向上、が必要である。
●太陽光パネルが敷き詰められた工場の屋根。再生可能エネルギーを導入する動きは広がっている
脱炭素社会への動きはすでに始まっている。再生可能エネルギーは、世界の最終エネルギー消費の19%を供給している(2012年推計値)。風力発電はすでに原発と肩を並べ、今日世界で新設される電源の6割以上は再生可能エネルギーによるものである。
COP 21 に向け、各国はそれぞれ気候変動に関する自国での取り組みの約束草案を提出しているが、提出された各国の目標は、2度未満の目標達成という観点からは不十分だ。従ってCOP21の合意には、各国の自主的目標を登録し実施するのみでなく、各国の努力水準を引き上げていく仕組み、すなわち2020年以降の目標につき、意欲度の継続的な向上を促す5年ごとの評価・検証サイクルの設置も含むべきである。
早くから地球環境の危機に警鐘を鳴らしてきたレスター・ブラウン氏は、最近の著『大転換:新しいエネルギー経済のかたち』で、「今や化石燃料と原子力から再生可能エネルギーへの大転換は大きな流れとなっている」と述べている。この潮流に背を向ける国に未来はない。本来すぐれた社会システムと科学技術と倫理観を有するはずの我が国は、人類の未来に極めて重大かつ不可逆的な脅威となる気候変動に対し、正面から真摯に立ち向かい、低炭素でレジリアントな社会への大転換を先導すべきである。