参院選 クール・ジャパンをめぐる議論を読み解く【争点:クール・ジャパン】

クール・ジャパンについては、日本文化の海外発信の現状のほか、マンガやアニメの「表現の自由」と「児童ポルノ禁止法」との関連などを中心に争点を紹介した…
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安倍首相が成長戦略の一つに位置づける「クール・ジャパン」戦略。ハフポスト日本版の中では日本文化の海外発信の現状のほか、マンガやアニメの「表現の自由」と「児童ポルノ禁止法」などの議論が盛んに行われている。これまでの議論を紹介する。

■そもそもクール・ジャパンとは何か、政府が口出しする理由とは?

「クール・ジャパン推進機構」設立に向けての法律が、参議院本会議で可決・成立したのにあわせて掲載した「『クール・ジャパン推進機構』設立法が成立 事業予算は500億円」では、国がクール・ジャパンを主導することへの疑問を投げかけ、国は資金面でのバックアップに集中し、内容については民間に任せてはどうかと提案した。「まず名前がクールじゃないのが問題でしょ。しかもその後ろに推進機構とか戦略とかついてると泣けてくる」というコメントもある。

政府がクールジャパン推進機構を設立した理由は何か。経済産業省の担当者によると、「クール・ジャパンというのは日本の良い物を海外の消費者に届けることで、世界中の人々の生活を豊かにしていくというもの。アニメ・漫画に限らずに、B級グルメやファッションなど外国人の消費者の視線から見て『あ、こういう物もあるんだ』と気づいてもらえるものを発信していきます」と話している。

ニッセイ基礎研究所の押久保直也氏は、韓国のコンテンツ産業に関する記事では、日本のコンテンツ戦略は「海外市場向けマーケティング戦略(「どう発信していくか」)次第といえる」と分析している。

このマーケティングの点について経済産業省担当者は「日本の企業は、国内市場を中心に考えてきたところがあって、海外で事業をするのに慣れてないところが多いのが事実」と指摘し、政府によるクール・ジャパン戦略への関わり方の必要性を説く。

政府のクール・ジャパン政策に関わる中村伊知哉氏は、クールジャパン推進会議の下に置かれたポップカルチャー分科会の議長としては「政府主導ではなくユーザ・消費者主体で進めること」を、また、知財本部のコンテンツ調査会長としては、「デジタル基盤の整備に力を入れること」を主張する。また、韓国の例を「国民を何で食べさせるかを端的に示している」として、日本もクール・ジャパンを推し進めるなら、文化、知財、ITに関する政策を束ねて「文化省」を作るぐらいの一体性と本気度を見せられないものだろうかと指摘する。

■海外に向けたクール・ジャパン展開の現状

海外に向けたクール・ジャパンの展開にはどのようなものがあるのか。まずは政府が行なっているクール・ジャパンのアピール例を見てみたい。

政府ではクール・ジャパンを推進するアクション設定の中に、「国際会議の席などで日本食などをアピールする」ということを盛り込んでいる。6月に横浜で開かれたTICAD Vでも、アフリカ諸国に向けて日本の食文化をアピールしている。

また、今月4日には、フランス・パリの見本市会場で日本文化をテーマにした「第14回ジャパンエキスポ」を開催。日本の伝統芸能のほかアニメやマンガなどのコンテンツに関する展示、日本食の販売などが行われ、周辺の国々から4日間で20万人以上が訪れた。

経産省ではこれまでのこのイベントの実績について、オタフクソースなどがこのイベントでお好み焼きショップを展開し、その後、フランスにお店を出店するようになったと報告しており、アニメ等のコンテンツ以外のビジネスも海外展開が期待できる。

広島市立大学国際学部教授でハワイ大学マノア校客員研究員を務める井上泰浩氏は、アニメやマンガなどのコンテンツ以外の「日常のクール」をクール・ジャパン戦略で推進すべきとし、もっと日本食をアピールすべきと指摘。「。『ホットペッパー』にクーポン付きで出ている洒落た居酒屋やレストランだったら、どこの国に出店しても間違いなく味も雰囲気も(サービスは言わずもがな)口コミで大評判になります」と太鼓判だ。

コンテンツ戦略については、グリー株式会社の許直人氏が“コンテンツビジネスの未来”というテーマで開かれた「第3回coconala未来会議」の模様を紹介し、アニメやゲームコンテンツのグローバル戦略について、「デジタルコンテンツの世界は、用途が明確な「物理的な商品」よりも、文化的障壁(好みの違い)の影響力が相対的に大きくなる」と指摘したうえで、「日用品や世界的ブランドならともかく、趣味品やニッチ市場を相手にしてるのに、「理解できない相手にウケるもの」なんて作れるわけないだろ、常識的に考えて」というクリエーター及び、コンテンツビジネスのマーケット視点を紹介している。

■日本国内における「表現の“不”自由」と海外展開にむけたTPP交渉の問題点

しかし、ニッチな市場も意識してコンテンツを作るという点には、海外だけでなく国内における課題も存在する。その一つが「表現の自由」という点である。5月29日に、自民党、公明党、日本維新の会の3党によって国会に提出された「児童ポルノ禁止法改正案」について、漫画家の赤松健氏にインタビューを行ったところ、児童ポルノの「単純所持」も禁止されるという点と、実際の被害者が存在しないアニメやマンガなどの創作物を今後規制対象とするかの研究対象となるという点を指摘された。

この記事に対して、「児童を性的な対象として扱う表現を可とすることが、児童が性的な対象となるのだという雰囲気を涵養することが問題」という意見や、「クール・ジャパンなコンテンツを意識するのであれば、品格も必要なのでは」という、表現に関する規制は必要と取れる意見も一部出ているが、圧倒的に多かったのは規制をかけるべきではないとする意見であった。その視点を、駒沢大学教授の山口浩氏は、「私はあなたの意見には反対だ、だがあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」という哲学者の言葉を例に上げ、民主主義の原点から規制についてを考えるべきと指摘する。「表現の自由とは、自分がよいと思う表現だけ保護すればいいというような考え方ではない」

藤子不二雄A氏ら、児童ポルノ禁止法の改正案に反対声明」では、現行法においても「児童ポルノ」の定義があいまいなため、マンガやアニメなどがどこまでが規制されるのかと懸念が残るとし、「インターネットではリカちゃん人形も対象になるのではないかとする声も上がっている」と指摘した。漫画・アニメの表現規制に強く反対してきた山口貴士弁護士は、児童ポルノ禁止法改正案を「21世紀の焚書」と指摘した。

海外では、児童ポルノを禁止する動きが強く、米国では、卑猥性に関する特定の要件を満たす場合に限り、実在しない子どもを用いた児童ポルノを規制対象としている。クールジャパンを世界に発信するにあたり、この点を考えたほうが良いのでは無いかという意見もあるが、国際大学GLOCOM客員研究員の境真良氏は、「漫画等コンテンツ商品を海外に展開するかどうかは一義的に作者や出版社といった事業者の判断に任される領域であり、国家が海外に展開させなくてはならないというのは、事業者の事業の自由に不当に介入する考え方」と指摘している。

なお、「児童ポルノ禁止法改正案」については現在も引き続き審議中であり、次の会期でも審議・審査が継続となる。

また、児童ポルノ禁止法以外にも、TPPに交渉参加する日本にとっては、「非親告罪化」と呼ばれる第三者による著作権の侵害告発のによって「コミケの二次創作」が規制されたり、「著作権の保護期間」が伸びるのではないかとする懸念もあり、クール・ジャパンと法制の問題の議論は、選挙後も続くことになる。

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■日本政府のクール・ジャパン政策に関する動き

■海外に向けたクール・ジャパン展開の現状

■「表現の自由」とTPP交渉における知財の問題

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