PRESENTED BY エン・ジャパン

かけ算になって事業を大きくできる仕事――クックパッド初代広報・櫻井友希代が貫いた「攻めの広報戦略」

クックパッドの躍進を陰で支えた初代広報の櫻井友希代さんが、この夏クックパッドを卒業する。「クックパッドをメジャーに」の想いで歩んだ7年間を振り返る。
|
Open Image Modal
エンジャパン

クックパッドの躍進を陰で支えた初代広報の櫻井友希代さんが、この夏クックパッドを卒業する。「クックパッドをメジャーに」の想いで歩んだ7年間を振り返る。

■ 広報! 広報! 広報!

WEB・IT業界の主役といえばエンジニアやデザイナー、プロデューサーたちだろう。ただ、彼らを支える裏方の存在も忘れてはならない。

どんなに素晴らしいWEBサービスでも、ユーザーに認知、利用され、そしてファンになってもらえるかが鍵。今回のCAREER REPORTでは、「サービスとユーザーを結びつける」役割を担う広報・PRにフォーカスを当ててみたい。

お話を伺ったのは、クックパッド広報室の櫻井友希代さん。2014年8月をもって7年務めたクックパッド社を退職されるという彼女に、広報としてのキャリアを振り返ってもらった。

[プロフィール]

クックパッド 料理がたのしくなる広報室

櫻井友希代 Sakurai Yukiyo

Open Image Modal

ベンチャーのPR会社勤務を経て、クックパッドの広報部門立ち上げのため2007年に入社。以後、ビジネス向け広報、エンジニア採用広報などに注力し、2009年に広報室長に就任。サービス開発ディレクターへの転向を経て、2013年に広報室に戻り、グループ会社4社の広報を担当。2014年8月同社退職予定。

■ わたし、クックパッドで広報やりたいです

― 櫻井さんはクックパッドに広報立ち上げのために入社されたそうですね。

はい。新卒でPR代理店に入社し、2年間様々な企業の広報支援の経験を積んだ後、ユーザーとして利用していたクックパッドの採用募集が目に止まって応募しました。こんなに便利なサイトなのに周囲に知っている人が少なくてもったいないなって。広報の力で成長できる時期だという直感がありました。だから、「『食の世界で何か起きたら、クックパッドに聞け』という認知を世の中に作ります!」と宣言して、クックパッドに入社したんです。

― 前職と同じPRとは言え、代理店と事業会社内の広報はやっぱり勝手が違いましたか?

いやー...。豪語して入ったのに、ITに疎いし右も左もわからなかったですね(笑)。仕事を作らないと私は給料泥棒だぞと思って焦ったのを覚えてます。前職は忙しくて朝から晩まで働いていたのに、同じ広報でも大きなギャップでした。待っていても取材依頼なんかくるわけがないので、「ゼロから仕事を作るってこういうことか!」って。

社内に広報という機能がなかったので、社員からは「あいつは何をやってるんだ?」と思われてたんじゃないかな。そこでまずとりかかったのが経営課題であったビジネス向けの広報です。

当時クックパッドには月間250万人のユーザーがいましたがそのほとんどが女性で、食品メーカー担当者や広告代理店といったクックパッドに出稿してくれる人への認知が圧倒的に不足していました。2007年当時、食品業界の多くの企業は、インターネットのような新しいメディアへの広告出稿は慎重で、テレビや雑誌といったマス広告がメインだったんです。

とはいえ、250万人もの女性が今日の晩ご飯の意思決定をしている場所なんて他にはありません。クックパッドを無視できない存在として認知してもらうにはどうしたらいいか...。

社内でいろんな人に話を聞き、課題を掘り下げていった結果「小売・流通のバイヤーに響く広報」を戦略に掲げ、クックパッドを通じて商品が売れた!という事例を新聞やマーケティング専門誌など信頼感の高いメディアに発信していくことにしました。流通のバイヤーさんがクックパッドを意識してくれるようになれば、商談で常にバイヤーさんと接する食品メーカーにとって、クックパッドが無視できない存在になれるんじゃないかと。

そうして動き始めて1ヶ月と少し経ったとき、調理用の消費財メーカーとの成功事例を、新聞に特集記事として出すことができました。大きな見出しで「レシピが売り場をつくる」と書かれていたのを見たときは、本当に嬉しかったですね。記事を見た企業からの問い合わせがあったり、クックパッドにしかできない価値を発信できた最初の瞬間でした。

― 自分で仕事を生み出し、価値を社内外に提示できたんですね。

「攻めの広報」として、食品メーカーの経営者や商品開発が集まる場をリサーチして、クックパッドの講演を提案していきました。決まってから当時の営業部長や前代表の佐野に、「講演の場を作ったので、講演お願いします。」ってお願いしたり。流通業界向けの雑誌に連載を仕込んだりもしました。

■ クックパッドはなぜ、「技術オリエンテッド」な会社になりえたか?

― クックパッドといえば、業界でも有数のテクノロジー企業として認知をされていますよね。「技術者が優秀」っていう認知は、採用面でのメリットも含め多くの企業が目指してる部分なんですが、広報としてその実現に貢献した部分もあるんじゃないですか?

2008年頃、ビジネス向け広報を頑張っている中で佐野に呼び出されて、「うちは、カッティングエッジな技術の会社なんだよ。今エンジニアの採用は大変だけど、うちの技術についても上手くPRしながら採用と広報、かけ算で頼むよ」って言われて(笑)。技術素人の私には「何をもって技術の会社なんだろうか...」っていう疑問からの、エンジニア採用広報スタートでした。

当時はエンジニア4人で455万人のユーザーを支えており、夕暮れのピーク時にサイトが重くなるというのも日常茶飯事という時期でしたし(笑)。

ちょうどその後にColdFusionからRuby on Railsにフルスクラッチで作り変えるっていう大規模なリニューアルがあったんです。何百万人が利用するサイトをRubyで書き換えるチャレンジ自体が異例で面白いと、WEB系のメディアからも興味を持ってもらうことができました。

普通だったら単なるRubyの話題が中心になるのですが、「どんな思いで、その技術を人々の生活に役立てようとしているのか」という企業理念の部分を伝えることに重点を置いたんです。

料理レシピサイトは、エンジニアの男性が憧れるサービスではなさそうだし、単純に技術だけでいったら超テックな企業と正面から競合してしまう。でもクックパッドには、「技術を生活の役に立つ形に変えて提供するということで世界一になる」という明確なビジョンがあった。サイトが落ちると、「今日の晩ご飯が決まらなくて困る!」ってご意見が届くサイト、他にないじゃないですか(笑)。「役に立ちたい」というのはエンジニアの根源的な欲求の一つという話は当時CTOだった橋本からもよく聞いていたので、これは発信していこうと。

実際にそういった話がメディアの方にも響いて、「意外とテクノロジーサイト、クックパッド」といった取り上げ方をしていただくことができました。そのあたりから、エンジニア取材や、講演、勉強会の主催といったことを繰り返し、Rubyとクックパッドが結構ひも付いてエンジニアの方に認知頂けるきっかけになったと思います。

― それはすごい。広報的な発想がなければ、また違った認知になっていたかもしれませんね。

そうですね。クックパッドは技術力を生活に立つ形でユーザーに提供できる、ものづくりの会社であることを積極的に伝えていきました。

一例として、2010年に「開発コンテスト24」という24時間で企画から開発までやり遂げて応募するという、エンジニア向けコンテストを企画・開催しました。生活の中にある課題を技術の力で解決するサービスをつくるという体験を通じて、クックパッドのものづくりを身近に感じてもらいたいと考えたんです。最初は制限時間24時間という無茶ぶりに、応募が集まるか不安で仕方なかったのですが(笑)、1回目から100件を越える応募が集まり、エンジニアの採用にもつなげることができました。コンテスト自体がすごく好評で、とあるイベントで会ったエンジニアの方に「24コンテストに参加して、改めてエンジニアになってよかったなって思えたんです」という言葉をもらったときには、泣きたくなるほど嬉しくなりました。

Open Image Modal

■ 意志のある広報活動とは?

― クックパッドの広報として、特に印象に残っているお仕事はありますか?

東日本大震災への対応ですね。

社内の有志が集まって「うちだからできる事ってなんだろう」と話し合いました。しばらくすると、東北地方から「炊飯」とか「ごはん炊き方」というワードが検索されていることに気付いて。電気やガスはない、調理器具もない、そういう中でも、できるだけ温かいものを作って家族に食べさせたい、できるだけ普段どおりの日常を早く作ることで、子どもを安心させてあげたいと思っているんだってことは間違ってないよねっていうことを認識しました。

そこで、限られた食材でも作れるレシピを集めたコンテンツ集を1日で作って、リリースしたんです。一番自分たちが普段やっているやり方で、いま求めている人に届けようと。

震災3日目、まだまだ大きな余震もあり、本当に「何をやることが会社として正しいのか」判断できない時期でした。料理をすることが火災につながってしまうかもしれない、料理を提案すること自体がミスリードなじゃないかとか、懸念点は多くありました。

そんな時、広報として拠り所としたのが「毎日の料理を楽しみにすることで笑顔を増やす」というクックパッドの企業理念でした。求めている方がいるのは分かっているし、私たちは正しいと思ってやる、と。なので広報としては、このコンテンツの存在を被災地の方々にも知ってもらうように動くべきだと。

この対応にはいろんな意見を頂きました。「こんな時に料理を提案するなんて不謹慎だ」というものも。それでも公開初日に東北の方々から「ありがとう」、「クックパッドで炊飯の炊き方分かって、子供に温かいごはんを食べさせてあげることができました」という声を聞くことができたっていうのは、何だかすごい...会社として、自分たちの存在意義を感じられる経験でした。

■ モノづくり出来る人へのリスペクト、自分はやっぱり広報だった

― サービスや企業に意思がなければできない対応だと思います。その後、一度サービス企画・ディレクターも1年ほど経験されたそうですね。

入社して5年経って、ある程度「食のことはクックパッド」という認知を各方面でとれてきている実感が沸きはじめ、ちょうど社長が穐田に代わった際「何か広報以外でやってみたいことないの?」と穐田から聞かれて考えてみる機会がありました。

それをきっかけに、強い憧れをもっていたサービス企画に移りました。プレミアム会員向けのサービス企画や、新規事業を担当したのですが、やってみたら、まあ難しいんですよね(笑)。あんなに広報として発信してたのに、ものづくりとはなんて難しいものや...!と思いまして。サービスを創る方は本当に尊敬です。

Open Image Modal

他の職種を本気で取り組んで、改めて「自分は広報なんだな」と思いました。それが去年の秋。それから、「Cyta.jp」を運営するコーチユナイテッドや、家計簿サービスの「Zaim」、「漢方デスク」、「レター」を手掛けるロールケーキなど、出資先や子会社の広報に手を挙げてこれまで携わってきました。

― いずれのスタートアップも非常に素晴らしいサービスを手掛け、ユーザーに愛されていますね。まさに創業期のクックパッドのようです。ただ、櫻井さんはクックパッドをご卒業されると...。

ひと区切りということで(笑)。

でもやっぱり、次も広報かなと思っています。世の中に対して企業やサービスの共感者を増やして、向かいたい方向への合意形成をすることができる、かけ算になって事業を大きくできる仕事です。自分が心から信じられる価値を世の中に拡めていくということを、広報を通じて実現できる人として、もっと成長していきたい。

こんなにやりがいのある仕事ができてほんとに幸せです。

― クックパッドは広報なくして今の姿たり得なかったんじゃないかとさえ思いました。広報の重要性、役割も読者の方にも参考になったと思います。今後のご活躍も期待しております!ありがとうございました!

[取材] 城戸内大介 [文] 松尾彰大

【関連記事】