「組織変革って何ですか?」コンサルタントに聞いてみた。

どんな大きな成果も、それを作り出しているのは働いている一人ひとりの従業員です。
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進むグローバル化に少子高齢化、技術革新のスピードがますます高まる今日、多くの企業において組織変革の必要性が叫ばれている。しかし、組織内のチームが取り組むにせよ、外部のコンサルタントが入るにせよ、企業の歴史の中で育まれてきた組織の文化や風土、仕事のプロセスなどを変えるのは簡単なことではない。

組織変革とはそもそもどのようなことなのか、組織変革を成功させる要因は何なのか、ソフィアのシナリオデザイン事業責任者であり、組織変革支援の現場を多く経験している森口静香に話を聞いた。

目指す組織の姿が実現できないのはなぜか?現場で課題の根っこを探す

―組織変革、ってそもそも何なのでしょうか。

組織変革のゴールは、それぞれの組織が持っている課題によって異なります。会社によって、「一体感を醸成したい」だったり、「チャレンジングな組織にしたい」などと表現されますが、最終的には「経営のイシューを解決すること」だと思っています。

―それはたとえばどのようなことでしょうか。

たとえば、ギスギスしていた組織風土が変わって、みんな協力して仲良く仕事ができるようになったとしても、それが業績につながらなかったら企業は存続できませんよね。私たちは組織内のコミュニケーションを改善することで組織を変革するお手伝いをしています。組織のコミュニケーションが改善されることで、中で働く人が元気になる。それはもちろん大切なことですが、それによって事業に変化が生じ、事業の先にいる顧客に提供する価値が高まる、というところまでもっていかなければならないと考えています。

―具体的に、どのようなプロセスを踏んで組織を変えていくのでしょうか。

目指す姿に対して解決したい課題があらかじめ明らかになっているときは、解決するための施策を考えることから始まりますが、多くの場合は、「組織の状態が良くないのだが、何が原因なのかわからない」、もしくは、「おそらく問題点はこれだと思うが、それが本質的な問題かどうかはわからない」ということがほとんどです。そんなときは課題を突き止めるところから始まります。

―どうやって課題をつきとめるのですか?

社員に対してアンケート調査を行ったり、既にある調査結果を再分析したりするほか、経営トップや役員、そして社員へのインタビューを行うことが多いです。また、取引先や、顧客へのインタビューを行うこともあります。しかし、アンケートや、かしこまった雰囲気でのインタビューで得られる情報には限界があるとも感じています。

―アンケートやインタビューで得られる情報に限界がある、というのはなぜなのでしょうか。

公式の場や形式ばった場で言っていることと、実際にやっていること、日常的に発言していることが一致しない人は多いと思います。そして、本人がその矛盾に気が付いていないことも多い。だから、本人の話だけを材料にすると、焦点を見誤る危険があります。それは、一般の社員だけでなく、トップに近い役員などでも同じで、理想を語るけれど、実際の行動はほど遠いものだったりすることもあります。問題の根っこをつかむには、目の前で語られていることや組織の中で噂になっていること、また前出の「発言と行動のギャップ」や噂そのものがなぜ発生しているのか、その要因や背景を見極めていくことが必要です。だからこそ、あらたまった場だけでなく、周囲の人からアンオフィシャルな場で情報収集したり、雑談や飲食の席なども含めて、できるだけ多面的に情報を集めるようにしています。

オリジナルのコミュニケーション施策で「組織が動くスイッチ」を押す

―組織変革の支援は、他にも戦略コンサルティング会社などで行っていると思うのですが、ソフィアのサービスが他の会社と異なる点はどのようなところですか?

あるべき状態、こうすべきというセオリーは世の中にたくさんあると思いますが、組織というのは結局人の集まり。同じ施策を投下したとしても、会社によってその受け止め方や取り組み方は異なるはずです。大きな流れや道筋は持ちつつも、人間の感情や動き、流れを一つひとつ見ながら、施策を調整していくことは、他にはない私たちの強みだと思っています。実際に変革を行いたいと考えている企業が、事例を外から借りてきてくることはできますが、それが本当に自社内で実行できるのか、それを定着させて成果につなげることができるのか、という点はまったく別問題。変革を推進するには、現場での地道な調査や人間関係・信頼関係の構築を、時間と手間暇を惜しまず行い、ときには相手が聞きたくないような厳しい意見も伝え、熱意を持って相手を動かしていくことが必要不可欠だと考えています。

―組織変革を行うための施策にはどのようなものがあるのでしょうか。

施策についても、実にさまざまな進め方があります。ただ、共通して言えることは、人と人とのコミュニケーションを再設計することだと思います。人というのは、経営陣だったり現場社員だったり、取引先だったりさまざまですが、それぞれの想いや背景、行動の意図はあまり共有できていないことが多いです。

たとえば、同じ職場で働く従業員同士の場合、「当然、伝わっているはずだ」と思い込んでいたら、全く伝わっていないどころか、関心も持っていないということもあるでしょう。また、もともと業務で接点のなかった隣の部門や部署と協業を進めて行く場合に、又聞きの情報や思い込みから相互に先入観を持ってネガティブな感情になっている、というケースも耳にします。職場など、日常的に顔を合わせることができる小人数の集団では、直接膝を突き合わせる対話が有用だと考えています。

しかしながら、会社全体の「組織」に目を向けると、全員が直接対話をするには何年もかかってしまう。そこでメディアはとても有用です。メディアを使うからこそ、同じテーマを扱う際にもいつもと違う側面を見せたり、雰囲気を変えることも可能です。また、そのテーマについて他の人が対話している様子を見せることで、「自分にも関係することかもしれない」と、敷居を下げることもできる。細かな発信を通じて、会社が変わっていく動きを伝え、体感してもらうこともできる。そういった意味で、直接的なコミュニケーションと、メディアを介したコミュニケーションの両方が必須だと思っています。

ほかにも、たとえば研修・ワークショップ、表彰などのイベント、課題意思をもっている人同士が意見や想いを共有できる社内SNSなどの場といった、企業がすでに持っている場や仕組みの活用や、組織のコミュニケーションを活発化させるための新たな仕組みづくりも積極的に行っています。いずれの施策にしても、カギとなるのは「コミュニケーション」です。

人の行動を促すきっかけとなるものは、人によって異なります。組織が置かれた状況や、自分たちがこれからやるべきことについて、例えば社内報で読む、誰かに話を聞く、職場で誰かとそのことを話す、1人で考える...、それらのコミュニケーションを通じて自分から「よしやろう!」と動く人もいれば、身近な誰かからの働きかけによって動き出す人もいるでしょう。人が動くことによって組織が変わる。だから、最終的にはより多くの人が動くような流れを作っていくことが必要です。そのきっかけとなるものを、私は「スイッチ」と呼んでいるのですが、それぞれの組織に合ったスイッチを探して適切な順番で押していくことが私たちの役目だと考えています。

―そういった組織変革の取り組みを行うことは、組織内の人にも可能なのでしょうか。外部の人間が入っていくことには、どのような意義がありますか?

本来は内部の人がやるべき仕事だと思います。しかし、組織が大きくなり、複雑になればなるほど、その難易度は増していきます。何かを変えようとすれば、もちろん反発する人もいます。さまざまな利害関係や人間関係のしがらみがあるなかで、声を上げ、行動することはもちろん、相手を巻き込んで動かしていくことは、大変なことです。

その点、外部の人間は組織内のしがらみに巻き込まれていない、つまり歴史の部外者なので「ここだけの話なんだけど」と、社内の人には言えない本音を話してもらえることもありますし、私たちが現場の声を汲み上げて経営層に厳しい意見を言うこともできます。もちろん、さまざまな組織を見てきていますので、いままでの知見を生かすこともできますし、社内からは出てこない発想で、新しい施策を打ち出すこともできると思います。

「調整と根回し」で組織の内側から変化を促し、プロジェクト自走への種をまく

―組織変革を進める上で欠かせないこと、「これがなければ組織が変わらない」ということは何ですか?

トップのコミットメントではないでしょうか。知らない外部の人間が組織に入り込み、忙しい社員をつかまえて立ち入った話を聞くのですから、トップのお墨付きがなければまず時間を割いてもらって話をしてもらうところまでたどり着くことができません。

また、実際に施策を進める上では広報部、人事部、経営企画部などさまざまな部署を巻き込み、人を動かしていくことが必要になってきます。形式的にどこかの部署がプロジェクトオーナーになることはあっても、そこにいる全員がそれまではやったことのない仕事で、誰が進めるべきことなのかわからない。そんなときはやはり、トップがしっかりコミットしていないとプロジェクトは動いていきません。

―そういった施策を進める上で、ソフィアはどのような役割を担うのでしょうか。

プロジェクトの事務局として関係者や関係部署をつなぎ、プロジェクトを推進していきます。そうですね、よく考えてみたら組織内での「調整と根回し」を主にやっている気がします。

―「調整と根回し」とは?

仕事のやり方を変えたり、新しいことを推進するには、必ず時間的な負担、心理的な負担が生じますから、抵抗する人は必ず出ます。そういった抵抗勢力に阻まれてプロジェクトがとん挫することがないよう、あらかじめ味方につけるべき人を把握し、話を通していきます。そこには、トップに話を通したり、役員を説得したり、現場で影響力のある人を巻き込んだり、ということも含まれます。

外部から押し付けられた施策では人はなかなか動きません。ですから、できるだけ組織の内部から施策が出てきて、組織の中の人が手を挙げて自ら動きだすよう働きかけます。そして、施策を進める中で噴出してくる現場の不満など、どんな意見も一旦は受け止めて、すべて吐き出してもらった上で、最終的には納得して自分から動いてもらえるよう働きかけていきます。

しかし、私たちは外部の人間なのでいつかはいなくなります。いずれは社内の人たちが主体となって変革を進めていくことができるよう、施策を進めながら協力者を増やし、プロジェクトが自走していく基盤を整えていくのです。

―組織変革の効果は、どのようにして測るのでしょうか。

継続的な従業員調査などの数値で測る、というのもありますが、最終的には事業に対する良いインパクトだと考えています。組織が変わった結果、会社の屋台骨となるような新しい事業が生まれた、業務が改善されて顧客満足度が上がり売り上げが増えた、など経営課題の解決に寄与する結果を出し、成果を数字で示していきたいと考えています。

どんな大きな成果も、それを作り出しているのは働いている一人ひとりの従業員です。人は、見たり、聞いたり、話したりといった刺激によって、自らの行動を決めます。そしてその行動が他の人に影響を与え、最終的には組織が変わっていくのです。私たちが、コミュニケーションで組織を変えることができる、と考えるのはそういった理由です。

コミュニケーションで一社でも多くの企業を、そして一人でも多くの働く人を元気にしたい。そんな思いで私たちは今日も、人が動く「スイッチ」を探しています。

2017年1月13日 Sofia コラムより転載