いよいよ現実味を帯びてきた憲法改正、その中身は?

憲法改正の是非は議論されているが、その中身に関してはあまりされていないのではないか。
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橋下市長が参院選の争点に関して発言し注目を集めている。まさにこの3つが争点になるであろう。

では具体的にどういった点を問うことになるのか、まずは憲法改正案の中身に関して見ていきたい。    

国家を重視する自民党

自民党は2012年4月に憲法改正草案を発表している。詳細はぜひとも本文を読んでほしいが、主な改正点は、国旗・国歌の規定、自衛権の明記、国防軍の保持、家族の尊重、環境保全の責務、財政健全化の確保、緊急事態の宣言の新設、国及び地方自治体の協力関係、憲法改正提案要件の緩和などだ。

特に賛否が分かれそうな箇所を中心に見ていきたい(太字は追加箇所、下線は変更箇所)。      

・第9条

日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない

 

前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない

・第9条の2(国防軍)

我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。

 

国防軍は、前項の規定による任務を遂行する際は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。

国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。

前二項に定めるもののほか、国防軍の組織、統制及び機密の保持に関する事項は、法律で定める。

国防軍に属する軍人その他の公務員がその職務の実施に伴う罪又は国防軍の機密に関する罪を犯した場合の裁判を行うため、法律の定めるところにより、国防軍に審判所を置く。この場合においては、被告人が裁判所へ上訴する権利は、保障されなければならない。 =

・第9条の3(領土の保全等)

国は、主権と独立を守るため、 国民と協力して、領土、領海及び領空を保全し、 その資源を確保しなければならない。

・第12条(国民の責務)

この憲法が国民に保障する自由及び権利は、 国民の不断の努力により、保持されなければならない。 国民は、これを濫用してはならず、 自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、 常に公益及び公の秩序に反してはならない

「公共の福祉」を「公益及び公の秩序」に変えた理由について自民党はこう答えている。

(前略)今回の改正では、このように意味が曖昧である「公共の福祉」という文言を「公益及び公の秩序」と改正することにより、憲法によって保障される基本的人権の制約は、人権相互の衝突の場合に限られるものではないことを明らかにしたものです。なお、「公の秩序」と規定したのは、「反国家的な行動を取り締まる」ことを意図したものではありません。「公の秩序」とは「社会秩序」のことであり、平穏な社会生活のことを意味します。(後略)

・第21条(表現の自由)

前項の規定にかかわらず、 公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、 並びにそれを目的として結社をすることは、認められない。

・第99条(緊急事態の宣言の効果)

緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の 効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。

前項の政令の制定及び処分については、法律の定めるところにより、事後に国会の承認を得なければならない。

緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない。この場合においても、第十四条、第十八条、第十九条、第二十一条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。

緊急事態の宣言が発せられた場合においては、法律の定めるところにより、その宣言が効力を有する期間、衆議院は解散されないものとし、両議院の議員の任期及びその選挙期日の特例を設けることができる。

個別の賛否は読者に委ねるが、全体としては国家や家族の尊重など、時代錯誤な印象は否めない。しかし、今年5月に衆院で開かれた憲法審査会では、自民、公明、民主、維新、共産、次世代の6党のうち、「緊急事態条項」の必要性については共産党以外が意見一致するなど、現行憲法に欠陥があるのも事実であろう。

安倍首相は今月16日、衆院憲法審査会の保岡会長の憲法改正論議をめぐり緊急事態条項を中心に進めたいという説明に対し「与野党で議論を深め、しっかり頑張ってほしい」と指示した。 また、憲法改正草案Q&Aでは「実際に国会に憲法改正原案を提出する際には、シングルイシュー(1 つのテーマごとに国会に憲法改正原案を提出)になると考えられます。」としている。    

首相公選制や道州制を実現したいおおさか維新の会

橋下市長は憲法改正に賛成しているが、自民党とは目指す方向性が異なる。自民党の改憲案に対し「あの悪夢のような古臭い自民党憲法改正案」と発言している。

維新八策では憲法改正について下記のように挙げていた

憲法改正~決定できる統治機構の本格的再構築~

• 憲法改正発議要件(96 条)を 3分の2から 2分の1に

• 首相公選制(再掲)

• 首相公選制と親和性のある議院制=参議院の廃止も視野に入れた抜本的改革・衆議院の優位性の強化(再掲)

• 地方の条例制定権の自立(上書き権)(「基本法」の範囲内で条例制定)憲法94条の改正

• 憲法9条を変えるか否かの国民投票

自民党は道州制について「道州はこの草案の広域地方自治体に当たり、この草案のままで も、憲法改正によらずに立法措置により道州制の導入は可能であると考えています。」としているが、直接的には盛り込んでいない。

具体的中身が見えにくい民主党

民主党もHPに憲法について掲載しているが、いまいち具体的な内容はわからない。民主党の中でも護憲派と改憲派が分かれており意見がまとまっていないのであろう。

約半数が賛成している憲法改正

今年3月に行われた読売新聞による世論調査では憲法改正に賛成は51%で、改正反対の46%を上回っている。3月時点での調査結果のため、安保法案等での議論を踏まえて意見が変わっている可能性も高いが、憲法改正派はより現実味を帯びてきた勢いそのままに、11月には「今こそ憲法改正を!武道館一万人大会」というイベントを日本武道館で開催し、「美しい日本の憲法をつくる1,000万人賛同者(ネットワーク)」という署名活動も行っている。

自民、公明、おおさか維新で3分の2を超えることができるのか

憲法改正発議には3分の2以上の議席が必要であり、自民、公明、おおさか維新で超えることができるのか、来年夏の参院選で注目されている。現在衆院(定数475)は与党だけで326議席と3分の2(317議席)を超えているが、参院(定数242)は与党の133議席におおさか維新(6議席)を加えても、3分の2(162議席)に達していない。

だが、参院選では非改選勢力があるため、2010年に当選した議員が今回改選されることになる。

その時は民主党政権で支持率が30%以上もあったため、民主党の改選は41議席で(非改選は17)、自民党の改選は49議席(非改選は65)だが昨今の支持率を見ても民主党が議席を失う可能性は高いだろう。改憲派の非改選勢力は89議席で、野党にとっては非常に厳しい戦いになる。

発議後に国民投票で過半数が賛成する必要があるため、必ずしも自民、公明、おおさか維新が3分の2以上の議席を確保できた時点で憲法改正が決まるわけではない。しかし、仮に参院選で憲法改正が大きな争点の一つになれば、議席を確保できた時点で国民投票でも過半数が賛成する可能性は高まるであろう。

効果的な対抗策が見出せない野党

これに対し、民主党の岡田克也代表は14日、朝日新聞の取材にて与党やおおさか維新など「9条改憲勢力」を3分の2未満の議席に抑える目標を示したが、野党共闘しか具体的な策が思いついていないのが現実的なところだろう。しかし、先日の大阪ダブル選の結果を見ても、野党共闘だけでうまくいくとは思えない。

民主党・維新の党の基本的政策合意を見ても、安全保障、立憲主義、原発ゼロと"ノイジーマイノリティ"を向いている印象だが、サイレントマジョリティが最も重視している経済については起業促進や自由貿易など与党が実施してきた内容と大差ないように見える。

安倍政権としては国民の意見が分かれる憲法改正を避け、「一億総活躍」を中心とした経済政策を争点にしたがるだろうが、憲法改正の中身を争点にしていけるかも野党の動きにかかっている。

安保法案は可決直前にデモや国会での批判によって話題を集め賛否が分かれたが、本来であれば2014年7月の閣議決定、12月の衆院選挙で大きな争点にすべきであった。マスメディアもそうだが、政権与党のアジェンダに従うばかりでなく、主導的にアジェンダセッティングしていくべきだ。

憲法改正の是非については問われているが、実際の中身に関してはあまり議論されていないように思える。このままだと参院選は自民党の圧勝に終わる可能性が高いと見られているが、いざ憲法改正する時に国民が十分に理解せずに可決とならないよう、今のうちから中身についても議論していく必要があるだろう。

(2015年12月17日「Platnews」より転載)